ルネサンス音楽

音楽史のルネサンス期は、一般的に1400年頃から1600年頃までの期間に発展した音楽を指します。この時代の音楽は、ポリフォニーによる声楽が中心であり、宗教曲と世俗曲が主な形式です。ルネサンス音楽は、様式的に3つの時期に区分することができます。

  • 初期ルネサンス音楽(1420~1470年頃):イギリスのジョン・ダンスタブルやブルゴーニュ楽派のデュファイ、バンショワなどが活躍しました。

  • 中期ルネサンス音楽(1470~1520年頃):フランドル楽派のオケゲム、アグリコラ、イザーク、ジョスカン・デ・プレ、オブレヒトなどが活躍しました。通模倣様式を用いた循環ミサ曲やモテットが発達しました。

  • 後期ルネサンス音楽(1520~1600年頃):フランドル楽派のラッソ、ローマ楽派のパレストリーナ、スペインのモラーレス、ゲレーロ、ビクトリア、イギリスのタリス、バード、ヴェネツィア楽派のヴィラールト、デローレなどが活躍しました。マドリガーレと呼ばれる世俗曲が勃興し、機能和声の萌芽も見られました。

初期ルネサンス音楽

初期ルネサンス音楽は、イギリスの ジョン・ダンスタブル やブルゴーニュ楽派の デュファイバンショワ などが活躍した時期です。この時期の音楽は、イギリス独自の3度・6度の和音を伝え、フランスのイソリズムなどの高度なリズム技法によるアルス・ノーヴァの音楽、イタリアのトレチェント音楽の持つ優美な旋律の作風と統合されることによって始まりました。ポリフォニーによる声楽が中心であり、宗教曲と世俗曲が主な形式です。宗教曲では、グレゴリオ聖歌や民衆に広まった世俗曲を定旋律として用いた循環ミサ曲が発達しました。世俗曲では、フランス語を歌詞としたシャンソンが人気を博しました。

この時期の代表的な作曲家としては、以下のような人物が挙げられます。

  • ジョン・ダンスタブル:イギリスの作曲家で、3度・6度の和音を大陸に伝えたとされる。ミサ曲やモテット、シャンソンなどを作曲した。

  • ギヨーム・デュファイ:ブルゴーニュ楽派の創始者とされるフランドル出身の作曲家。イタリアやフランスで活躍し、循環ミサ曲やモテット、シャンソンなどを作曲した。

  • ジル・バンショワ:デュファイの弟子で、ブルゴーニュ楽派の代表的な作曲家。宮廷や教会で活躍し、循環ミサ曲やモテット、シャンソンなどを作曲した。

中期ルネサンス音楽

中期ルネサンス音楽は、 ジョスカン・デ・プレ などに代表される フランドル楽派 が活躍し、 通模倣様式 を用いた 循環ミサ曲モテット などの宗教曲や、 シャンソン と呼ばれる世俗曲を作曲した時期です。この時期の音楽は、古典古代の音楽理論や数学的な比率に基づいた完璧な調和を目指し、ポリフォニーの技法を高度に発展させました。作曲家たちは、声部間の模倣や対位法、定旋律の変奏などを駆使して、美しく複雑な音楽を創り出しました。

この時代の代表的な作曲家としては、以下のような人物が挙げられます。

  • ジョスカン・デ・プレ:フランドル楽派の最高傑作とされる作曲家で、循環ミサ曲やモテット、シャンソンなどを作曲した。通模倣様式の名手であり、声部間のバランスや表現力に優れていた。

  • オケゲム:ジョスカンの師とされる作曲家で、循環ミサ曲やモテット、シャンソンなどを作曲した。ポリフォニーの技法を高度に発展させ、複雑なリズムや和声を用いた。

  • イザーク:フランドル出身だがドイツで活躍した作曲家で、循環ミサ曲やモテット、シャンソンなどを作曲した。ドイツの民謡や舞曲を取り入れた音楽で知られる。

後期ルネサンス音楽

後期ルネサンス音楽は、 ローマ楽派ヴェネツィア楽派 などが活躍した時期です。この時期の音楽は、 マニエリスム と呼ばれる、複雑で不自然な表現を追求する傾向が見られます。また、 マドリガーレ と呼ばれる、詩の言葉や感情に応じて音楽を変化させる世俗曲が流行しました。このマドリガーレは、 モノディー様式 の発生とともに バロック音楽 への移行の基礎を作りました。

この時期の代表的な作曲家としては、以下のような人物が挙げられます。

  • パレストリーナ:ローマ楽派の最高傑作とされる作曲家で、トレント公会議の方針に沿って、清澄で美しいポリフォニーを作曲した。ミサ曲やモテットなどの宗教曲が多い。

  • ビクトリア:スペイン出身だがローマ楽派に属する作曲家で、パレストリーナよりも感情的な表現を用いた。ミサ曲やモテットなどの宗教曲が多い。

  • ラッソ:フランドル出身だがドイツで活躍した作曲家で、宗教曲や世俗曲を幅広く作曲した。マニエリスムの影響を受けた作品もある。

  • ヴィラールト:ヴェネツィア楽派の創始者とされる作曲家で、二重合唱や複数の聖歌隊を用いた音楽を作曲した。宗教曲や世俗曲を作曲した。

  • デローレ:ヴェネツィア楽派に属する作曲家で、ヴィラールトの後継者として活躍した。二重合唱や複数の聖歌隊を用いた音楽を作曲した。宗教曲や世俗曲を作曲した。

  • ジェズアルド:イタリア出身の作曲家で、マドリガーレの名手として知られる。マニエリスムの影響を強く受けた、不協和音や変拍子を多用した音楽を作曲した。

  • モンテヴェルディ:イタリア出身の作曲家で、マドリガーレやオペラなどを作曲した。ルネサンス音楽とバロック音楽の橋渡し的な役割を果たした。

ルネサンス音楽の魅力

  • ルネサンス音楽は、人間の声を最大限に活かした音楽です。無伴奏の合唱曲が多く、声部間の調和や対話が美しく聴こえます。声の表現力や感情も豊かで、神聖なものから愉快なものまでさまざまな雰囲気を作り出します。

  • ルネサンス音楽は、ポリフォニーという技法によって複雑さと単純さを両立した音楽です。ポリフォニーとは、複数の旋律が同時に鳴っていることです。それぞれの旋律は独立していて、自由に動きますが、同時に全体としての調和も保ちます。ポリフォニーは、音楽的な知性や創造性を高めるとともに、聴く者に驚きや発見を与えます。

  • ルネサンス音楽は、古典文化や自然科学に触発された音楽です。ルネサンス期は、古代ギリシャ・ローマの文化や思想が再発見された時代であり、音楽家たちはそれらに学びました。例えば、古代ギリシャの音楽理論や数学的な比率を用いたり、自然界の現象や動物を音楽で表現したりしました。ルネサンス音楽は、人間の知性や感性を磨く音楽です。

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