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数学

定義

数学の定義は、数学者や哲学者の間で様々な見解があります。一般的には、「数・量・図形などに関する学問」という説明がよく使われます。しかし、数学の研究対象は、量(数)・構造・空間・変化など多岐にわたります。

数学は形式科学に分類され、自然科学とは区別されます。数学では、ある一定の条件のもとで定理を述べてそれを証明することが中心的な研究となっています。

  • 定理とは、「数理論理学および数学において証明された真なる命題」のことです。

  • 証明とは、「用語の意味をはっきり述べたもの」である定義から、論理的な推論を用いて定理の真偽を判定することです。

数学は古代から発展してきた学問であり、現代においても多くの分野や応用があります。

目的

数学の目的は、数学者や哲学者の間で様々な見解があります。一般的には、以下のようなものが挙げられます。

  • 社会的必要からおこる問題に応えること。数学は、農作物の分配管理や商取引のための計算、農地管理のための測量、暦法のための天文現象の周期性の解明など、人類が生活する上で必要とした問題を解決するために発展してきました。

  • 自然現象に合理的な関係を与えること。数学は、自然界に存在するさまざまな現象や法則を数や図形や記号などで表現し、それらの間に成り立つ規則性や法則性を発見し、理解しようとする試みです。

  • 知的好奇心と純粋な思考への興味。数学は、自分自身や他人が気づいた疑問や問いに対して、論理的かつ創造的に考えることで答えを探ろうとする活動です。数学は、その過程で新しい概念や定理や証明などを生み出し、知識の体系を拡張していきます。

  • 美を追求する心。数学は、数や図形や記号などで表現される対象や関係において、簡潔さや対称性や調和などの美しさを感じ取り、それを高めようとする感性です。数学は、その感性で新しい発見や洞察を得たり、美しい証明や理論を構築したりします。

以上のように、数学の目的は一つではありませんが、共通していることは、「考えること」が中心的な役割を果たしているということです。数学では、ある一定の条件のもとで定理を述べてそれを証明することが重要な研究方法になっています。

歴史

数学の歴史は、数学上の発見の起源や発展についての研究です。数学の歴史は、文明が起こる以前から始まり、人類が生活する上で必要とした計数や測量などの概念を生み出しました。また、自然現象や法則を数や図形や記号などで表現し、それらの間に成り立つ規則性や法則性を発見し、理解しようとする試みも行われました。以下、古代・中世・近世・現代に分けて解説します。

・古代

古代の数学とは、一般に紀元前3000年頃から紀元後500年頃までの時代に行われた数学のことを指します。この時代には、メソポタミア、エジプト、インド、中国、ギリシアなどの文明で数学が発展しました。これらの文明では、計数や測量や幾何学などの基本的な数学的概念や技術が生まれました。また、無理数や無限や代数などの抽象的な概念にも取り組みました。

メソポタミアでは、紀元前3000年頃から60進法を用いた数記法や算盤が使われました。メソポタミア人は、素数ピタゴラス数ピタゴラスの定理などについて知っており、円周率3.125と概算したり、2次方程式を解いたりすることができました。

エジプトでは、紀元前3000年頃から10進法を用いた数記法や分数が使われました。エジプト人は、測量や建築に必要な幾何学的な知識を持っており、円周率3.16と概算したり、切頭体の体積を求めたりすることができました。

インドでは、紀元前3000年頃からインダス文明で10進法を用いた計量法が発達しました。インド人は、ヴェーダシュルバ・スートラなどの古典に数学的な知識を記述しました。インド人は、無限0の概念について考察し、2の平方根円周率を高い精度で計算したり、三角法代数法を発展させたりすることができました。

中国では、紀元前1600年頃から漢数字算籌記法が使われました。中国人は、易経九章算術などの古典に数学的な知識を記述しました。中国人は、方程式連立方程式を解いたり、三角関数解析幾何学を発展させたりすることができました。

ギリシアでは、紀元前6世紀頃から論理的な証明法が確立されました。ギリシア人は、タレスピタゴラスユークリッドなどの優れた数学者を輩出しました。ギリシア人は、無理数無限について発見し、幾何学代数学だけでなく、整除論素因数分解などの数論も発展させました。

・中世

中世の数学とは、一般に紀元後500年頃から紀元後1500年頃までの時代に行われた数学のことを指します。この時代には、イスラム世界、インド、中国、ヨーロッパなどの文明で数学が発展しました。これらの文明では、古代の数学の遺産を受け継ぎながら、新たな数学的概念や技術を発明したり改良したりしました。また、文化や言語の交流によって数学的な知識や方法が伝播しました。

イスラム世界では、紀元後8世紀から紀元後15世紀にかけてイスラム数学が隆盛しました。イスラム数学者は、ギリシアやインドやバビロニアなどの古典をアラビア語に翻訳し、その内容を研究しました。イスラム数学者は、代数学幾何学三角法解析学などの分野で多くの業績を残しました。例えば、アル=ハワーリズミー代数方程式算術法則について著述し、代数という用語を作りました。アル=ハイサム光学幾何学について著述し、測定法や実験法を発展させました。オマル・ハイヤーム3次方程式を解く方法を発見し、円周率を高い精度で計算しました。

インドでは、紀元後5世紀から紀元後12世紀にかけてインド数学が発展しました。インド数学者は、無限小無限大負の数虚数などの概念について考察しました。インド数学者は、0という記号位取り記数法を発明し、10進法を普及させました。インド数学者は、三角法微分法積分法などの分野で多くの業績を残しました。例えば、アリヤバタは天文学や算術について著述し、円周率三角関数の値を高い精度で計算しました。ブラフマグプタ負の数0について著述し、ペル方程式の一般解を求めました。バースカラ2世微分法積分法について著述し、微分方程式を解きました。

中国では、紀元後3世紀から紀元後13世紀にかけて中国数学が発展しました。中国数学者は、算籌記法算盤などの計算道具を用いて高度な計算技術を持ちました。中国数学者は、方程式連立方程式不定方程式などの分野で多くの業績を残しました。例えば、劉徽は九章算術に注釈を付けて方程式の解法や三角関数の定義などを示しました。祖沖之円周率を高い精度で計算する方法を発見しました。楊輝楊輝三角形(パスカルの三角形)や二項定理などについて著述しました。

ヨーロッパでは、紀元後12世紀から紀元後16世紀にかけてヨーロッパ数学が発展しました。ヨーロッパ数学者は、イスラム世界からギリシアやアラビアなどの古典を伝えられたり翻訳されたりしてその内容を研究しました。ヨーロッパ数学者は、代数学幾何学三角法などの分野で多くの業績を残しました。例えば、レオナルド・フィボナッチフィボナッチ数列などについて著述しました。ニコラウス・コペルニクスは天動説から地動説へと天文学的な観点を変えました。ジェロラモ・カルダーノ4次方程式までの解法について著述しました。

・近世

近世の数学とは、一般に紀元後1500年頃から紀元後1800年頃までの時代に行われた数学のことを指します。この時代には、ヨーロッパを中心に数学が大きく発展しました。これらの発展には、ルネサンスや宗教改革や科学革命や啓蒙主義などの文化的・社会的・政治的な動きが影響しました。また、新大陸や東洋との交流によって数学的な知識や方法が伝播しました。

近世の数学では、代数学幾何学解析学確率論などの分野で多くの業績が残されました。例えば、ニコロ・タルタリア3次方程式と4次方程式の解法を発見しました。ルネ・デカルト解析幾何学を創始し、代数と幾何を統合しました。ブレーズ・パスカルピエール・ド・フェルマー確率論の基礎を築きました。アイザック・ニュートンゴットフリート・ライプニッツ微積分学を発明しました。レオンハルト・オイラー無限級数無限小量複素数などの概念を発展させ、多くの定理や公式を証明しました。

近世の数学では、数学と自然科学との関係も深まりました。ニュートンライプニッツは、微積分学を物理学や天文学に応用して、自然現象を説明しようとしました。オイラーラグランジュは、力学や流体力学などの分野で多くの業績を残しました。ガウスフーリエは、電磁気学や熱伝導などの分野で重要な貢献をしました。

・現代

現代の数学とは、おおよそ1800年以降に発展した数学のことを指します。この時期には、数学は純粋数学応用数学に大別されるようになりました。純粋数学は、数学そのものの美しさや論理性を追求する学問であり、応用数学は、自然科学や工学などの他の分野に数学を適用する学問です。

現代の純粋数学は、代数学・幾何学・解析学の三大分野に分けられます。代数学は、数や方程式などの代数的な対象の性質や構造を研究する分野です。幾何学は、図形や空間などの幾何的な対象の性質や構造を研究する分野です。解析学は、関数や微分・積分などの解析的な対象の性質や構造を研究する分野です。

これらの分野は、互いに関連しあって発展してきました。例えば、微分幾何学は、幾何的な対象に解析的な手法を用いる分野であり、代数幾何学は、幾何的な対象に代数的な手法を用いる分野です。また、抽象代数学は、さまざまな代数的構造を一般化して研究する分野であり、位相幾何学は、さまざまな幾何的構造を一般化して研究する分野です。

現代の応用数学は、物理学や統計学・確率論・最適化・暗号理論・情報理論・計算機科学・生物学・経済学などの多様な分野に応用されています。これらの分野では、現実の問題を数理モデル化して解くために、純粋数学で発展した理論や手法が活用されます。また、応用数学で生まれた新しい問題や発見が、純粋数学にフィードバックされることもあります。

分野

・大分類

数学の分野は、大きく純粋数学応用数学に分けられます。純粋数学は、数学そのものの美しさや論理性を追求する学問であり、応用数学は、自然科学や工学などの他の分野に数学を適用する学問です。

純粋数学(Pure Mathematics)

純粋数学は、代数学・幾何学・解析学の三大分野に分けられます。代数学は、数や方程式などの代数的な対象の性質や構造を研究する分野です。幾何学は、図形や空間などの幾何的な対象の性質や構造を研究する分野です。解析学は、関数や微分・積分などの解析的な対象の性質や構造を研究する分野です。

応用数学(Applied Mathematics)

応用数学は、確率論・統計学・情報数学など数学理論を他の科学へ応用する分野です。確率論は、偶然性や不確実性を扱う分野です。統計学は、データを収集・分析・推測する分野です。情報数学は、情報や通信に関する問題を扱う分野です。

・小分類

代数学(Algebra)

代数学は、数や方程式などの代数的な対象の性質や構造を研究する分野です。代数学は、古代から発展してきた学問であり、方程式の解法や多項式の分解などの基本的な問題から、群・環・体などの抽象的な概念まで、多様なトピックを扱っています。

代数学の中でも重要な概念として、代数的構造があります。代数的構造とは、集合とその上に定義された演算の組み合わせであり、その演算が満たすべき公理や性質を考えます。例えば、整数の集合と加法や乗法という演算は、環という代数的構造をなします。環は、加法に関して可換群であり、乗法に関してモノイドであるという公理を満たします。また、乗法に関して可換であるという性質も持ちます。

代数的構造には、環の他にもさまざまな種類があります。例えば、加法だけを考えるときは群という構造になります。群は、加法に関して単位元・逆元・結合律・可換律を満たす集合です。また、乗法に関して逆元も持つような環は体という構造になります。体は、加法と乗法に関して可換群である集合です。

代数的構造は、数学の他の分野とも密接に関係しています。例えば、幾何学では、図形や空間を代数的に表現することでその性質を調べることができます。これを代数幾何学といいます。また、解析学では、関数や微分・積分などを代数的に扱うことでその振る舞いを理解することができます。これを解析的整数論微分方程式論などといいます。

幾何学(Geometry)

幾何学は、図形や空間の性質について研究する数学の分野です。幾何学は、古代エジプトで土地測量の必要から生まれたもので、古代ギリシアで理論的に発展しました。ユークリッドの『原本』は、幾何学の基本的な定理や証明を体系化した古典的な書物です。

幾何学には、さまざまな種類があります。例えば、平面や空間の図形を扱うユークリッド幾何学非ユークリッド幾何学、座標や関数を用いて図形を表現する解析幾何学、図形の連続的変形によって変わらない性質を研究する位相幾何学、曲面や多様体の微分や積分を用いて研究する微分幾何学などがあります。

幾何学は、数学の他の分野とも密接に関係しています。例えば、代数学では、方程式や多項式などの代数的な対象を図形として捉えることでその構造を調べることができます。これを代数幾何学といいます。また、物理学では、時空や重力などの現象を幾何学的に表現することでその法則を理解することができます。これを物理幾何学相対性理論などといいます。

解析学(Analysis)

解析学とは、極限や収束といった概念を扱う数学の分野です。代数学や幾何学と合わせて、数学の三大分野の一つとされます。解析学では、微積分級数などを用いて、関数の変化量や性質などを調べます。解析学の基本的な部分は、微分積分学と呼ばれ、大学の1年生や2年生で学びます 。微分積分学では、実数や極限、微分や積分の厳密な定義を学びます。また、多変数関数や無限級数なども扱います。解析学は、微積分を基礎にして、さらに発展した分野も多くあります。例えば、微分方程式や関数論、フーリエ解析、関数解析などがあります 。

確率論(Probability Theory)

確率論とは、偶然現象に対して数学的なモデルを与え、解析する数学の分野です。確率論では、ある事象が起こる確率を数値で表し、その性質や規則性を探ります。例えば、サイコロを振ったときに1の目が出る確率は1/6ですが、これはどのようにして求められるのでしょうか?また、サイコロを何回振っても1の目が出ないとしたら、そのサイコロは正しいものなのでしょうか?このような問題を考えるのが確率論です。

確率論は、16世紀から17世紀にかけて賭博の研究として発展しました。18世紀から19世紀にかけて、ラプラス古典的確率論と呼ばれる理論をまとめました。20世紀に入ると、コルモゴロフ公理的確率論と呼ばれる新しい基礎を築きました。公理的確率論では、「確率」が満たすべき最低限の性質をいくつか規定し、その性質から導くことのできる定理を突き詰めていきます。公理的確率論では、集合論・測度論・ルベーグ積分などの数学的知識が必要です。

確率論は、現在では解析学の一分野として分類されています。特にルベーグ積分論関数解析学とは密接な関係があります。また、統計学情報理論などの応用分野にも大きな影響を与えています。

統計学(Statistics)

統計学とは、統計に関する研究を行う学問です。統計とは、経験的に得られたバラツキのあるデータから、数値上の性質や規則性あるいは不規則性を見いだすことです。統計学では、データの収集・整理・分析・解釈などを行い、応用数学の手法を用いてデータから情報を引き出します。

統計学は、大きく分けて記述統計学と推測統計学に分類されます。

  • 記述統計学とは、データをグラフや表などで視覚的に表現したり、平均や分散などの代表値やバラツキの指標を求めたりすることで、データの特徴を要約する学問です。

  • 推測統計学とは、母集団と呼ばれる全体から一部の標本を抽出して得られたデータに基づいて、母集団の性質や傾向を推測したり、仮説を検証したりする学問です。推測統計学では、確率や確率分布などの確率論の知識が必要です。

統計学は、さまざまな分野で応用されています。例えば、物理学化学などの自然科学では、実験データの解析や理論の検証に統計学が使われます。経済学社会学などの社会科学では、市場調査や世論調査などに統計学が使われます。医学薬学などの生命科学では、臨床試験や遺伝子解析などに統計学が使われます。また、最近では、ビッグデータや機械学習などの情報科学でも、統計学が重要な役割を果たしています。

情報数学(Information Mathematics)

情報数学とは、コンピュータや通信などの情報技術に関連する数学のことです。情報数学には、以下のような分野が含まれます。

  • 離散数学:集合、論理、組合せ、グラフ、暗号など、連続的でなく離散的な構造を扱う数学です。

  • 情報理論:情報の量や品質を定量化し、データの圧縮や通信の最適化などを研究する数学です。エントロピー、通信路容量、符号理論などが重要な概念です。

  • 計算理論:計算可能性や計算複雑性など、計算機の能力や限界を理論的に分析する数学です。チューリングマシン、オートマトン、P-NP問題などが有名なトピックです。

  • 数値解析:微分方程式や線形代数などの連続的な問題を、有限桁の数値で近似的に解くための数学です。誤差解析や反復法などが重要な技法です。

情報数学は、情報技術の発展に伴って重要性が高まっている分野です。プログラミング暗号化データ分析機械学習などに応用されています。

参考文献

とてつもない数学(永野裕之)
数学の歴史や発展に関するエピソードやトリビアを楽しく紹介した本です。数学の難しい理論や証明はあまり出てきませんが、数学の魅力や面白さを感じられる本です。

東大の先生! 文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!(西成活裕)
東京大学の教授が文系の女子大生に数学を教えるという設定で、中学から高校までの数学の基礎をやさしく解説した本です。漫画やイラストも多く、読みやすく楽しい本です。

イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! 数学のしくみ(加藤 文元)
数学の基本的な概念や用語をイラストや図解でわかりやすく説明した本です。数学が苦手な人でも気軽に読める本です。

暗記しない数学(迫佑樹)
数学は暗記するものではなく、理解するものだという考え方を示した本です。数学の基本的なルールや法則を理解すれば、応用問題も解けるようになるということを実例や演習問題で説明しています。アンリミに入っていれば無料で読めます。

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