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美味しさの科学 科学的視点での食品安全

フッ素樹脂は、アルミは、錆びは、有害であるのか。当店で扱う道具たちは、体内に入るものですから、安全性が問われます。安心してお役立て頂くために、安全性の基本的な考え方を整理させて頂きます。


摂取量によって見分ける

まず、ある物質を有害なもの、有害でないものと分けてしまうことに気を付けなければなりません。 良いものと悪いものに峻別するとも言えるでしょうか。 これが事の本質を覆ってしまいます。それは、どんな物質も有害でありえるのです。そして、有害か有害でないかは、摂取する量によって決まるのです。 スイスのパラケルススの言葉が分かりやすいです。 「すべてのものは毒であり、毒でないものなど存在しない。その服用量こそが毒であるか、そうでないかを決めるのだ。」

人工合成物と天然物では判断できない

ここで、樹脂などの人工合成物は有害であり、木製などの天然物は有害でないとするイメージが定着しています。 しかし、基本的に人工合成物も天然物も同じ化学物質です。厳密には天然物も化学式で表すことができます。 すなわち、どの物質も人工合成物か天然物に関わりなく、毒になりえるのです。 ただ、天然物の多くは、長年の経験によって、体に影響がないだろうと考えられていることが多く、 人工合成物は比較的新しく誕生したために、判断がしにくい要素もあるでしょう。

少量であれば有害ではない

そこで、すべてのものが毒となりうる前提で大切なのは服用量です。どの程度の量を摂取するかという点です。 例えば、食塩であっても、一度に大量に摂取してしまえば有害なものとなります。 かたや、天然物のジャガイモの皮や芽には、ソラニンという毒物が含まれていますが、 少量というレベルであれば問題ありません。 放射線も同じように、太陽光等で日々浴びていますが、一度に多量と呼ばれる線量を浴びると有害なものとなります。

リスク評価で判断する

この摂取量という視点で安全性を判断していくために、 国の食品安全委員会などがリスク評価と呼ばれることを行っています。 リスクとは、健康に及ぼす悪影響の発生確率と程度のことで、このリスクを科学的知見に基づいて客観的かつ中立公正に評価します。 このリスクは、物質の毒性(人の健康に及ぼす危害の程度)と物質の摂取量の掛け算で表すことができます。 すなわち、毒性が強くても摂取量が少なくなっていけば、リスクは低くなっていきます。加えて、 毒性が弱くても摂取量が多くなっていけば、リスクは高くなっていくことになります。

ゼロリスクを求めるとは

もちろん、リスクが全くないゼロであることが理想ですが、それを目指してしまうと日常生活に支障が出てしまいます。 極端なところでは、リスクがゼロとなるためには、摂取量をゼロにすることとなり、 その物質を一切使わないことが絶対安全となります。 しかし、その物質を使うことでのベネフィット(利益および恩恵)もあるわけです。 そのベネフィットを生かすために、科学的知見より、有害にならないと想定される最低限の摂取量を求めているのです。

動物実験を通じて摂取量を算出

そこで、この科学的知見は、人間での実験はできませんので、動物実験で求めて行きます。 一定期間、毎日一定量の物質を動物に摂取させます。 その摂取量ごとのサンプルの比較を通じて、動物の状態を観察します。 摂取量が増えるとともに生理的変化を来します。さらに増えると障害(中毒)を引き起こします。さらには、死に至ります。 この死に至る摂取量が、致死量と呼ばれます。

無毒性量と一日許容摂取量とは

かたや、生理的変化すら起きない限界となる最大量が、無毒性量(NOAEL No Observed Adverse Effect Level)となります。 そして、動物と人間との違い、人間の間での個体差なども考慮して、 より安全サイドに立って、安全係数と呼ばれる100で割って、さらに少なくします。これが、ヒトの一日許容摂取量(ADI Acceptable Daily Intake)です。 人が一生涯、毎日摂取しても健康に悪影響がないと判断される量となります。

折り合いをつけながら向き合う

ただ、あくまで動物実験由来のものであり、絶対安全と呼ばれるものではありません。 しかし、物質から多くのベネフィットを受けている今日の社会では、ある程度の折り合いをつけながら 向き合う必要があるでしょう。 もちろん、科学を過信してもなりません。それでも、風評などの社会的混乱を防ぐためには、この摂取量を考慮するリスク評価という視点を消費者一人一人が理解しておく必要があります。

【参考にして下さい】
「科学の目で見る食品安全」(食品安全委員会)
「化学物質のリスク評価について」(独立行政法人製品評価技術基盤機構)