七七夕|脚本
※在りし日の落選作となります
※ファイルは縦書き版となります
梗概
強迫性障害を煩う森田徹(28)は無意味な行動がやめられない。
Yシャツのボタンをなくせば、予備のボタンを持っているにもかかわらず、なくしたボタンを一日中探す始末。
森田の病は七夕になると重篤化し、「動作や言葉を七回繰り返さないと気が済まない」強迫行為に悩まされる。
それが理由で七夕の日は毎年何もせずに家に閉じ込もる森田だったが、運悪く橋本勘太郎(40)が泥棒にやってくる。
森田の強迫行為によってことの事態が悪化した結果、森田は誤って刺されてしまう。
逃げようとする橋本へ森田は呻きながら懇願する。「あと六回俺を刺せ」。
登場人物
森田徹(7)(28) サラリーマン
橋本勘太郎(40) 無職
奥寺(45) 森田の上司
少女(7)
脚本
○テロップ
「OCD(Obsessive Compulsive Disorderの略)。不合理な考えにとりつかれ、それを打ち消すために無意味な行動を繰り返す障害。強迫性障害」
○マンション・外観
○同・森田の部屋
Yシャツ姿の森田徹(28)、パソコンの前に座ってリモートワークをしている。
パソコン画面にはネクタイをした奥寺(45)が映っている。
奥寺「…それじゃ一旦休憩に入ろうか」
森田、大きく背伸びをする。
奥寺「森田」
森田「あ、はい」
奥寺「君、来週の7日は有給?」
森田「あ、そうです」
奥寺「七夕の日じゃないか。彼女とデートか(と茶化す)」
森田「いや、そんなんじゃないです(と笑う)」
森田、立ち上がる。
× × ×
森田、台所で水を飲んでいる。
森田M「OCDの症状は強迫観念と強迫行為の二つに分かれる」
森田、Yシャツの袖のボタンが取れていることに気づく。
森田「…」
森田、床に視線をやる。
森田、ポケットを漁る。
森田、部屋に戻る。
森田、屈み込んで机の下をのぞき込む。
が、ボタンは見つからない。
森田、机の上のものをがさごそ動かす。
予備のボタンの入った袋が出てくる。
森田、予備のボタンには見向きもしない。
森田、また屈み込んで机の下を見る。
やはりボタンは見当たらない。
森田M「多くの場合、強迫観念は何か不吉なことが起こるのではといった強い不安感によって生じる」
○森田の部屋
森田、パソコンの前で仕事している。
森田、ボタンのないYシャツの袖が気になる。
× × ×
夜。
森田、ベットで天井を見つめている。
森田、急に起きあがる。
森田、台所にいく。
森田、ゴミ箱をひっくり返す。
森田、床のゴミを漁ってボタンを探す。
森田M「強迫観念を解消するための行動が強迫行為であり、無意味な行動だという自覚がある中でそれは行われる」
× × ×
早朝。
ゴミや物が散乱した室内。
森田、床に這いつくばってボタンを探している。
○マンション・外観(一週間後・夜)
○同・森田の部屋
森田、スマホをいじっている。
スマホ画面に時計が表示されている。
「7月6日23時49分」
森田、スマホの電源を切る。
森田、玄関へいく。
○同・玄関の外
森田、ドアに以下の文章が書かれた貼り紙をはる。
「不在につきインターホンは鳴らさないでください」
○同・森田の部屋
明かりの消えた室内。
森田、タオルケットにくるまってベッドの上にじっと座り込んでいる。
森田M「私を苦しませる病は七夕の日になると更なる猛威をふるう」
○小学校・教室(回想)
笹の葉に短冊が吊されている。
少年時代の森田(7)、机に座って短冊に願い事を書き込んでいる。
机の上にフタの開いた筆箱。
森田、筆箱から消しゴムを取り出す。
森田、消しゴムを筆箱に戻して、また取り出す。
森田、取り出した消しゴムをまた筆箱に戻して、またまた取り出す。
隣の席の少女(7)、不思議そうに見ている。
少女「何やってるの?」
森田「(答えない)」
森田、消しゴムを戻しては取り出す動きを計7回繰り返したあと、消しゴムで短冊の書き間違いを消す。
少女、森田から消しゴムを取り上げる。
少女、消しゴムを筆箱に入れる。
森田、消しゴムを取り出しては戻す動作を繰り返す。
少女「何やってるの?」
森田「(答えない)」
森田、7回動作を繰り返したあと、消しゴムを使おうとする。
少女、すかさず消しゴムを取り上げる。
少女、消しゴムを筆箱に入れる。
森田、消しゴムを取り出しては戻す。
少女「(耳もとで)何やってるの!」
森田「(答えない)」
○(戻って)森田の部屋
暗い室内。
森田、じっと目を閉じている。
森田M「いつからか私は七夕の日になると同じ言葉や動きを7回繰り返さなければ気が済まなくなっていた。私はそれをスリーセブンの呪いと命名した」
森田、じっと目を閉じている。
森田M「そんな呪いから逃れるために、私は毎年七夕の日になると仕事を休み、来客を寄せ付けず、食べることも寝ることもせず、一日が終わるのをこうしてじっと待っているのだった」
× × ×
早朝。
カーテンの隙間から朝日が射し込む。
森田、ベッドに座り込んだままじっと目をつぶっている。
○同・外廊下
橋本勘太郎(40)、怪しげに周囲を窺っている。
橋本、ある部屋の前に立って耳を澄ます。
ドアから住人が出てくる。
橋本、慌てて歩き出す。
橋本、今度は森田の部屋の前にくる。
橋本、ドアの貼り紙が目に入る。
橋本「(にやり)」
○同・森田の部屋・玄関
外から鍵が開けられる。
そっとドアが開く。
橋本、忍び足で入ってくる。
○同・森田の部屋
橋本、電気をつける。
橋本、ベッドの森田に気づく。
橋本「(驚く)うわっ!」
森田「(驚いて橋本を二度見)」
三度見。
四度見。
森田、橋本を七度見。
橋本「な、何でいる?!」
森田、恐怖で声が出ない。
橋本「…か、金だ! 金を出せ!」
森田「お、落ち着け」
森田、立ち上がる。
森田、座っては立ってを計7回繰り返しながら、
森田「落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け…」
橋本「俺は冷静だ!」
森田「落ち着け(7回目)」
橋本、懐からナイフを出し、
橋本「金を出さねえとこうだぞ!」
と森田を脅す。
森田「わ、わかった。わかったわかったわかったわかったわかっ…」
橋本「いちいち繰り返すな!」
森田「わかった(7回目)」
森田、タンスの上に置かれた財布を掴んでは離しを繰り返し、7回手にする。
橋本「(苛立つ)何してる!」
森田、万札を一枚取り出して渡す。
橋本、受け取る。
森田、万札を一枚渡す。
橋本、受け取る。
森田、万札を一枚渡す。
橋本「いっぺんに渡さねえか!(と財布ごと奪う)」
橋本、財布の中をあらためる。
森田、橋本から財布を奪い返す。
森田、万札を一枚渡す。
橋本「この野郎」
と財布を奪う。
森田、橋本から財布を奪い返す。
橋本、森田から財布を奪う。
二人、奪い合いを計7回繰り返す。
橋本、やっと財布を懐にしまい込み、
橋本「…他に金目の物は?」
森田「もう勘弁してくれ。勘弁してくれ勘弁してくれ勘弁してくれ勘弁してくれ勘弁して」
橋本「腕時計をよこせ!」
森田「かん」
橋本「早くしろ!」
森田、タンスの上に置かれた腕時計に目をやる。
腕時計の近くにボタン。
森田がなくしたボタンだ。
森田、7回ボタンを手に取る。
森田「(感動して橋本に7回ボタンを見せる)」
橋本「そんなもんいるか。腕時計だ!」
森田、動こうとしない。
橋本「よこせ!」
森田「勘弁してくれ(7回目)」
橋本「…」
橋本、タンスの前へどかどか歩く。
橋本、乱暴に腕時計を掴み取る。
橋本、立ち尽くす森田へ、
橋本「一つ教えてやる。あんな貼り紙をドアに貼ったんじゃ泥棒に入ってくれといってるようなもんだ。次からは気をつけるこった」
橋本、玄関へ去る。
森田「…」
森田、いきなり橋本に飛びかかる。
森田、橋本の背中を拳で殴りつける。
橋本「(喘ぐ)」
橋本、体勢を崩す。
森田、さらに一発。
もう一発。
橋本「や、やめろ!」
もう一発。
もう一発。
もう一発。
とどめの一発。計七発。
橋本「(振り返る)7発も!」
二人、取っ組み合う。
森田、橋本の懐をまさぐり財布を奪う。
森田、財布から万札を取り出す。
森田、万札を一枚渡す。
橋本、万札を払いのける。
二人、取っ組み合う。
森田「!!」
突然、森田、床に倒れ込む。
森田、呻き声をあげる。
森田の腹にナイフが刺さっている。
橋本「(呆然)」
森田「(呻く)」
橋本「お、おとなしく金を出さなかったお前が悪い!」
橋本、逃げ出す。
森田「た、頼む…」
橋本、足をとめる。
森田、哀願するように、
森田「あと6回…刺してくれ」
(おわり)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?