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ストーリーの印象は後半で決まる

ファーストシーンの重要性を説く、
シナリオセンターに盾つくわけではありませんが、
ストーリー全体を見渡したとき、
ファーストシーンは、
重要度の低いシーンだと思います。

心に残るラストシーンなら、
いくつもあげられますが、
一方で、
心に残るファーストシーンは、
なかなか思い浮かばないからです。


心理現象の一つに、
「ピークエンドの法則」があります。

ピーク・エンドの法則とは、「人はある出来事に対し、感情が最も高まったとき(ピーク)の印象と、最後の印象(エンド)だけで全体的な印象を判断する」という法則です。

https://keiei-shinri.or.jp/word/%E3%83%94%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%89%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87/

引用のとおり、
人はピークとエンドから全体を判断する、
というもので、

これをストーリーに当てはめますと、
ファーストシーンの場合、
ピークを迎えるには早すぎますし、
当然エンドでもありません。

つまり、
たとえ印象的だとしても、
印象に残りづらいのが、
ファーストシーンであり、

そうであるのなら、
そこに力を入れるのは、
効率的に誤りなのでは、
と思うわけです。


翻って、
ピークエンドの法則は、
前半パートと後半パートの関係においても、
当てはまると思います。

面白さが前半に偏ったものと、
後半に偏ったものとでは、
トータルで同じくらいの面白さでも、
その印象は大きく変わります。

自分が観た映画の中で、
完璧な前半を持った脚本だと感じたものに、
「ザ・ピーナッツバターファルコン」があります。

https://filmarks.com/movies/81710 

「チョコレートドーナツ」や「ミッドナイトスワン」や、
あるいは「ペーパームーン」と同系統の作品で、

はぐれものの主人公が、
はぐれものの子供と出会って、
面倒を見るうちに愛情が芽生えていく、
といったストーリーです。

本作では漁師とダウン症の少年との、
交流が描かれているのですが、
最初は嫌々だった主人公が、
徐々に心を開いていくパート、
つまり、
前半パートは、
見ていて引き込まれるものがあります。

しかし一方で、
クライマックスのプロレスシーンをはじめ、
後半がグダグダで、
これまで積み上げたストーリーを、
どこに着地させようとしているのか、
その着地点が不明で、
書き手が迷走しているのがわかります。

つまり、
100点満点でストーリーを評価するなら、
自分の中では、
前半は50点満点、
後半は10点の、
計60点くらいの映画なのですが、

ピークエンドの法則に照らしたとき、
ピークはあるがエンドが欠けているために、
印象としては、
60点よりもっと下です。



https://filmarks.com/movies/2917 

「悪魔のような女」もまた、
優れた前半を持ったストーリーです。

本作はハッタリ型のストーリーであり、
女ふたりが共謀し、
男を殺し、
その死体をプールに沈めるのですが、
プールの水を抜くと死体が消えていた、
という強力な謎で、
ストーリーを引っ張りますが、
結局は狂言でした、
で終わる話です。

そのため、
この作品に関しましても、
前半50点、
後半10点の60点であり、
印象としてはそれ以下、
のストーリーだと思います。



https://filmarks.com/movies/38708 

「ハンコック」も同じです。

本作は尻切れトンボ型のストーリーで、
スーパーマンが刑務所暮らしをする、
というエッジの利いたシチュエーションで、
ストーリー前半を盛り上げますが、

後半パートがほとんど存在せず、
起承転結でいえば、
転のない、
起承結のストーリーと呼べます。

やはり計60点ですが、
印象はそれ以下といった映画です。



今あげた作品は、
いずれも優秀な序盤中盤をもっていながら、
後半がダメなストーリーですが、

それに対して、
前半がダメで、
後半がいい映画も存在します。

https://filmarks.com/movies/30487 

「バベットの晩餐会」は、
自分がたまに見返す映画の一つであり、
純愛といえば、
この映画です。

前半はストーリーというよりも、
単に主人公姉妹のエピソードを羅列したもの、
といった感じで、
はっきりいえば退屈なのですが、

一転、
後半からは、
ドラマが凝縮された、
見応えのある晩餐会が始まります。

したがって、
ストーリーの評価としては、
前半10点、
後半50点満点の、
計60点なのですが、

先ほどの3作品と異なり、
ピークエンドの法則に適っているため、
(エンド付近でピークを迎えているため)
印象では80点くらいです。


https://filmarks.com/movies/76912 

「 カメラを止めるな!」も、
仕込みの都合上、
長い前振りがあり、
「バベットの晩餐会」同様、
前半はツカミのないストーリーが続きますが、

しかし後半になると、
退屈と引き替えに仕込んだ前振りが、
遺憾なく発揮された、
見事なストーリーが展開されます。
(パクリ疑惑はありますが)

こちらも前半10点、
後半50点の計60点で、
印象としてはそれより上、
といった感じです。



https://filmarks.com/movies/2699 

「素晴らしき哉、人生」は、
ピークとエンドの瞬間がシンクロした、
ピークエンドの法則を地でいったストーリーです。

いくらまじめに生きても、
人に親切にしても、
一向に報われない人生を送ってきた主人公が、
ストーリーのラストで、
最高の幸せを得る、
という話で、

先に挙げた「バベットの晩餐会」や「カメとめ」と比較しても、
話が面白くなるまでの時間が長く、
かつ面白い時間も短いため、

総合的な評価は、
赤点でもおかしくないのですが、
印象としては、
92点くらいです。

ピークエンドの法則で連想するのが、
不良と捨て猫に代表される、
ギャップ効果です。

普段真面目な人が、
少し悪さしただけで、
印象だださがりですが、

悪さばっかりしている不良が、
雨の中で、
ちょっと捨て猫を抱きしめただけで、
好印象。

実に理不尽ですが、
世の中、
そんなもんです。

そうであるなら、
同じ60点でも、
印象で変わってくるのであれば、
力を入れるべきは、
後半パートなのでは、
といった旨の主張が、
今回の記事となります。



もっとも、
コンクールの場合、
序盤前半がつまらないと、
審査員に最後まで見てもらえない可能性もありますし、

あるいは、
持ち込みも場合も、
忙しいプロデューサーなら、 
冒頭しか見ないかもしれません。

しかし、
そうした事情を抜きにした場合、

(もちろん、
前半も後半も面白いのが理想ですが、)
おわりよければ、
すべてよしで、
ストーリーは後半で決まる、
といえるのではないでしょうか。

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