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♯呑みながら書きました

アメリカの作家パトリシアハイスミスはアルコールをがん飲みしてから執筆にとりかかっていたらしい。

"無人島に一冊本を持っていけるとしたら?"
と質問されたら間違いなくハイスミスの『太陽がいっぱい』を選ぶ。
天才にしか書けない作品だからだ。
自分はもうこの作品を何度読み返したかわからない。

あらすじはざっくりとこうだ。(note記事風にタグを付けてみた)

同性愛者のトムリプリーが、愛憎の果てに親友を船の上で殺して海に沈め、親友になりすますことで完全犯罪を目論む。

♯小説 ♯呑みながら書きました

♯呑みながら書きました

ハイスミスが生み出した珠玉の作品の全てにこのタグがついている。
それを思うと文学史に燦然と輝く気難しい顔つきをした女流作家に対して何だか少しだけ親近感がわいてくる。

そこでこのオシャレなタグを使わせてもらうことで彼女へのオマージュとして僭越ながら自分なりの『太陽がいっぱい』を書き綴りたいと思う。
(ちなみに自分も週末なので飲んでまふ)

この嫉妬の正体は何だろう…

高校時代ずっと考えていたことがある。
あれは高3の頃だ。
突然親友の平間に彼女ができた。

平間と僕は学校が終わるとゲーセンにあるダーツ場でダーツばかりしていた。
投げた矢を取りにいき戻ってきてまた投げる…その動作を延々繰り返すだけの反復運動に掛け値ない青春時代の生命力やら熱情やらの一切を捧げていたと思うと今更ながら悔やまれてしかたない。

それはいいとして、ダーツ場でトイレからなかなか戻ってこない平間が女の子と話しているところを見かけた時、僕は胸がざわつくのを感じた。平間とその子がお互いに好意を持っているだろうことは一目瞭然だった。

それから間もなくして平間は彼女と交際を始めた。

彼女は志穂(仮名)といった。
僕らより一学年下で、面食いを自称する僕から見てもかわいい顔をした女の子だった。
僕は平然とした態度を装ってはいたが、平間と彼女が一緒に歩いているのを見ると無性に苛々した。

なぜ僕はこんなにカリカリしているのだろう。
遊び相手である平間を取られたから?
ツルむ相手を失って惨めだから?
それはあるだろう。
親友にかわいい彼女ができたのを僻んだ?
親友の祝福された青春を羨んだ?
それもある。

だけど、この気持ちはなんだろう…
この得体の知れない嫉妬心は何なのだろう…

ふいに冷や汗が滲み出た。
(まさか…)
その先を考えるのが怖くて、僕は一人ダーツを投げ続けた。

高二の夏のことだ。

放課後、帰宅部だというのに僕は校庭にしゃがみこんで長年放置していたがために汚れた体育館シューズを熱心に洗っていた。
と、ふいに人影が現れた。
その人影はパイプ椅子を置くと、大股開きで僕の目の前へと腰を下ろした。
パイプ椅子の座った男の股間が至近距離で目の前にくる。
僕はどぎまぎした。
「俺さァ、サッカー部やめたわ」
声で平間だとわかった。
「…マジで?」
「マジ」
平間は雑誌を読んでいるようだった。
僕は心なしか呼吸が荒くなった。
「なんで?」
「何となく。だからこれからは一緒に帰ろうぜ」
「別にいいけど…」
と僕は答えながら内心で歓喜していた。平間と帰れる? そして彼のサッカーで培った鋼のような太ももから見つめながら僕はさらに呼吸を荒くするのだった。

こんなこともあった。
平間の家に僕が遊びにきたときのことだ。
平間は自宅では常に上半身裸だった。
当時流行っていたゲーム"鬼武者"を二人でプレイしていた。
その最中、ふと平間がTシャツを着ようとした。
「服、着るな」
とっさに言葉が出た。
なんでそういったかは今でもわからない。
が、とにかく僕はそういった。
「は?」
「…」
「じゃあ着ないわ」
と平間はTシャツを投げ捨てた。

それらの一件があって、僕は平間と通じ合えていたつもりになっていた。
曖昧な関係でいい。
曖昧な関係こそがいい。
平田といつまでもこうしていられたら…



彼女ができてから平間は変わった。
日が経つにつれて平間は僕にそっけない態度をとるようになった。
まるで僕とのこれまでの関係がなかったかのように、平間は志穂との時間を大切にした。

だから…
自分にとって異性とは楔であり、自分以外の男にとっては異性とは磁石だった。

残念ながら今でもそう思う。
もし異性が磁石ならどれだけ幸せか。
どれだけ人生のアドバンテージとなるか。
おそらくnoteを書くこともなかっただろう。
結局のところ創作とはある意味で呪われた人間のする行為なのだから。

かくして僕は親友を失った。
志穂という抜き差しならない存在によって。少なくとも表面上は平間と僕との関係は終わったのである。



近くダーツ大会があった。

僕は平間を誘った。まだ平間との仲を諦めきれなかった。
別に彼女がいたっていい。
これまで通り親友の関係でいればいい。
が誘いに対して平間は乗り気じゃなかった。
それでも哀願するように頼んだ。
しつこい僕に対してついに平間は汚いものでも見るかのような表情でいった。
「無理だっていってんだろ…」
「…わかった」
と僕は喉から絞り出すようにか弱い声でいった。

家に帰り、鏡の前に立った。
フェイスタオルで自分の首を締めつけた。
見る見る顔が赤く膨れ上がり、全身が熱くなってきた。

じゃあ、何だったんだ。
股間を見せつけるように俺の前に座ったのは、あれは何だったんだ。
服を着るなといってTシャツを投げ捨てたのは、何だったんだ。
ハッキリいえばよかった? 平間が好きだと。でも僕は怖かったんだ。親友を失うことが。異性に告白してフラれるのとは訳が違うじゃないか。

そんなことを考えながら次第に意識が薄れていった。

この嫉妬の正体は何だろう…
夢の中で志穂が出てきてこう答える。

"お前が嫉妬している相手は私だ"
"お前は平間の隣を歩く私に嫉妬しているんだ"

勝ち誇った顔だった。
途端に僕はそんな彼女の顔面を猿のように引っ掻いてやった。

でも現実はそうはいかない。
僕は平間と彼女との関係に何もいえず、嫉妬に塗れながら高校を卒業した。

寝ます。

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