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消えてしまえない彼女と夜 紫凰ゆすら生誕祭2023

砂浜に寝ころび、砂をつかんで、指のあいだから黄色っぽくやさしいひとすじがこぼれ落ちていくにまかせ、<砂は時間みたいに逃げていく>と思ったり、<それは安易な考えだ>と思ったり、<安易な考えは楽しい>と思ったりした。なんといっても夏だった。

『悲しみよこんにちは』フランソワーズ・サガン


初めてMAPAを観た今年の大森靖子歌舞伎町祭でも、初めてMAPAのリリイベを立川の屋外ステージで観たときも、紫凰ゆすらのことはさして印象に残らなかった。

その名前とキャリアを以前から知っていたコショさんや、端正なSサイズのお顔からは信じられないほど力強い歌声を降り注がせる宇城茉世ちゃんのほうが印象は鮮烈だった。

実際に当時の歌舞伎町祭の自分の感想を読み返しても、おれは紫凰ゆすらに一切言及していない。

なぜ彼女に惹かれるようになったのか。

たぶん彼女のnoteを読んだのがキッカケだったように思う。noteには明らかに文章を書き慣れている人の言葉の連なりがあり、幻想文学とかフランス文学とかあの辺りのルーツを感じた。紫凰ゆすらのギャルな見た目と軽妙な話しぶりからは想像だにしない繊細かつ丁寧な言葉の選び取り方を見つけたのだ。

そのギャップに興味をそそられ、『らぶぴ/Summer shooter』のタワレコ錦糸町PARCO店のリリイベでチェキを撮ったのがはじめての会話だった。

タワレコの錦糸町PARCO店は、店長さんが紫凰ゆすらを猛烈に推しているお店で、「紫凰錦糸町」特製のぼりが無償のご厚意によって作られるほどで、それもあってこの日は彼女と話してみようと思った。

喋ってみた印象はやっぱりギャルで、おれは人生でほとんどギャルという人種と親交がなかったので、会話のテンポや距離感の近いノリに多少とまどった。ヲタクに優しいギャルってやつの実像なのだろうか。

綺麗に噛み合ったやり取りこそ出来なかったものの、noteの文章すごいねって感想を伝えることはできた。直に話してみてもあのnoteを書いている人間と同一人物だと合点がいくことはなかった。

しかしながら彼女の間を埋めるように喋る口ぶりからは根っこにある隠しきれない真面目さが滲んでいたし、世間一般にイメージされる陽の部分だけで生成されたギャルとは違う雰囲気があった。

おれは「紫凰ゆすら」という文字面や語感が好きで、ある時から文章でも対話でも「紫凰ゆすら」呼びしかしなくなっているのだが、彼女と会って間もないうちのおれは「ゆすらちゃん」と書いていて、いま読み返してみるとなんだかすごくムズムズして気持ちが悪い。しっくりこない。

おれのなかではもう紫凰ゆすらは紫凰ゆすらで、呼べば呼ぶほど書けば書くほどその輪郭にしっかりと響きが馴染んでいくのだった。

何度目かの特典会で本人からもその呼び方に関して言及されて笑われた。「まあエゴサしやすいからいいんだけど」と言っていた。

紫凰ゆすらと特典会で話すようになったり、SNSでの彼女のキャラクターを知るようになって、そのクソ真面目な感じや意外と不器用なところや人間味がどうしたってこぼれ出ちゃってる感じに親近感を覚えた。恐らくかなり人の機微に敏感で、良くも悪くも自我や本音を出すよりもその場のバランスを取ることを優先するタイプ。一方で、自分のことに手一杯のときは周りをフォローできるほどの器用さや余裕はないのにそれをしようとする気概はあるから、結果なんだかガチャガチャやっちゃう人。そんな印象。

というかおれは自分がそれに近いタイプだから、紫凰ゆすらを見ていると勝手に同じフリーWi-Fiを拾ってしまうような感覚があって。共感性羞恥とか同族嫌悪とかそんな厭な感じではないけど、自分の感性や客観性を一番近い感覚で重ねられるひとがTOKYO PINKの中なら誰よりも彼女だった(あ、おまえと一緒にすんなっていうゆすらオタの言葉は真摯に受け止めます)

きっと「あなたはTOKYO PINKなら誰タイプ?」なる診断テストがあるならおれは紫凰ゆすらタイプだと自認している。いやあんなに陽じゃないけどたぶん根っこは近い。

重ね重ね「一緒にするな」と言われたら返す刀も無いのだけど、別にこの感覚はおれに特別なものではなくて、紫凰ゆすらに一番身近な雰囲気を感じたり親しみやすさを覚えるひとは多いのではないだろうか。

ステージに立つアイドルはどこか孤高で奥底が見えない深淵があって普通だし、あればあるだけそのまま魅力になったりもする。裏を返せばどこか近寄りがたさや緊張感を放つ雰囲気ともいえる。
その点、紫凰ゆすらはプロフェッショナルであることは大前提として、孤高や畏怖といった空気感を与えてこない。
彼女のルーツや感性を考えれば絶対にそれらが無いわけないのに、それを上回るほどの優しさや人間味が先行している。

これも勝手な主観で申し訳ないけど、MAPAなら茉世ちゃんや笑夢ちゃんは自我や本音をハッキリ貫くことがナチュラルにできる人だと思うし、コショさんでいえば自分のことで手一杯にならず俯瞰的に周りが見えて先回りの優しさやさりげない空気作りができる人。

ゆすらに何ともいえない可愛げや人間っぽさを感じるとすればそれは絶対的なアイドルでありながらひとりの女の子としての奮闘や発奮を他のメンバーの誰よりも誤差なく感じ取ることが出来るからかもしれない。

実際に他のメンバーを特に推しているヲタクからゆすらについて「ゆすらは推しがいがあると思う」「伸びしろがあってどんどん成長する姿は見ていて楽しいよね」「いつも常に分け隔てなく優しい」と言われたことがある。ひとりでなく、複数人から別に別にそんな所感を聞いたので、他の人たちからしても彼女の印象ってどこか身近で憎めない存在なのだろうと想像する。

先日の紫凰ゆすらのお誕生日のときに宇城茉世ちゃんがインスタのストーリーで「誰からも愛されるゆすらちゃん」的なコメントを添えていたけど、ほんとそれなんだと思う。てかMAPAの4人は4人ともそうでしょ。基本的に敵を作らないタイプ。敵を作らないように生きているダサい感じではなくて、ナチュラルにそう。不思議と愛される星のもとに生まれた4人が集まっている。

初めて立川で単体のMAPAのライブを観た時も、そのときは立川立飛のららぽーと屋外ステージで、全然アイドルなんて興味もない家族連れやカップルや学生集団とかもいたのに、おれはなんだかMAPAがその時点でもう誇らしかった。誰に見てもらっても大丈夫な人たちだと思った。ルックスも曲もパフォーマンスも愛され要素しかなくて、「ほら、どう考えても良くない?」って心から信じられたから。


やばい。生誕祭の感想に至る前にボリュームが長くなりすぎた。もしここまで読めている人がいるならもうちょっとお付き合いください。
なるべくその時点で生じた気持ちを冷凍保存するように記録しておかないと、もう次に同じテーマで心を振り返るとき同じ精度や立体感では引き出せない可能性が高く、おれはそれが厭で長々と備忘録にしてしまう。

というわけで、紫凰ゆすらからそこはかとなく漂う人間性や言葉や表現に対する感受性に共感することが多く、気付けば彼女のことをステージでもSNSでも特に追いかけるようになった。特典会でも話せば話すほどキャッチボールの返りの球がミットによくおさまってグラブを動かさなくてもそこにボールが来るような安心感があった。紫凰ゆすらになら伝わるだろうという無責任な確信だけで放つ球種やコントロールもない言葉でも、彼女は余裕でキャッチしてきた。



でか美ちゃん×ありぼぼさん×コショさんのたぬきのダンスを先月横浜に観に行った際、恋愛相談のテーマだったか、3人が「お互い同じものが好きだったとして、同じものが好き同士の解釈違いは一番しんどいかも」といった興味深いトークをしていた。

例えば大森靖子(敬称略)が好きだったとしても、解釈や思い入れはそれぞれファンの中でもグラデーションはあるだろう。もしかするとヲタク同士ならまだしも、仮に恋人同士とかなら同じものが好きでもそこに決定的な解釈の違いが発生したときに思わぬぶつかりや興醒めが起こるかもしれない。

Xでも、色んな感じ取り方をするひとがいて面白い一方で、毎回同じような痺れ方や目のつけどころをする人がいて「この人と絶対話合うよな」という濃淡はあるから当然といえば当然。

その点もゆすらには言葉や表現に対する感受性に近いものを覚えて結構しっくりくることが多い。彼女はMAPAというものすごいアイドルのメンバーで、おれはしがないヲタクのひとりに過ぎないけど、重ねられる感受性は似ているか、あるいはまるで違いすぎて面白くて尊敬しちゃうか、そのどっちかが良い。



生誕祭での紫凰ゆすらは本人が事前にSNSで語っていたように、"しおゆす"の部分がフィーチャーされていた。MAPAである前、ひとりの何者かになろうとしていた少女の、今もまだMAPAの中でもさらなる脱皮を誓う紫凰ゆすらの本質的な部分が取り上げられていた。

MAPAのときと違って、たったひとりステージに登場した彼女は心細そうにソワソワを隠さなかった。

マイクを手に取り喋り出す第一声も電源が入っていなくて「あ、」となって、緊張しているのが伝わった。

LOFT9にくるまでおれもこれまでのどのライブ前とも違う形容しがたいワクワクや緊張感があったけれど、本人が誰よりも緊張していそうなのを見て一瞬で緊張感から解放された。優しいなあ紫凰ゆすら。

「緊張しなくなったら終わり」って現役のときのイチローが昔言ってたし、タモリさんも「緊張するようなことをやらせてもらえることが幸せ」と言っていたから緊張って大事だと思うよ。

ガルフィーのゆるギャルみのあるビビッドなファッションと犬耳つけた紫凰ゆすらは可愛かった。

前半はゲストとのトークタイムでMAPA以前の紫凰ゆすらも紐解かれた。

ゲストには前世"ミスiD時代からの付き合いの環やねちゃん(きゅるりんってしてみて)。

やねちゃんはミスiDの選考段階からSNSで目立っていて、おれですら当時フォローしていた。実物は初めて観たけれど、ビジュアルがいかつい。「フランスのハーフ」「ギリシャとのクォーター」
本人が冗談で言っていたけどそう言われても疑いの余地すらないほどの顔立ち。それで長身でくびれの効いた痩身。紫凰ゆすらとの身長差並びは尊かった。

10代の未成年の頃からふたりは夜の東京で、それこそ渋谷の宇田川カフェやコメダ珈琲で朝5時まで語り明かしていたそう。
今のふたりが夜の渋谷で再現してもそれはそれで映画『あの子は貴族』の名シーンに重なりそうでめっちゃ良い。

当時の動画を紫凰ゆすらが編集したらしく、当日会場で流された。2人のリアルな仲の良さが伝わった。

熊本からミスiDきっかけで上京し、当時友達も東京にいなかったやねちゃんは、紫凰ゆすらと一緒に東京での青春を作ったらしい。やねちゃんの当時の写真のほとんどは紫凰ゆすらが撮影したという。

2人の青春動画は全カット「やねちゃんのルックスえぐ」という感想と、まだ今よりずっと幼い顔をした紫凰ゆすらの超少女具合がエモかった。

TOKYO PINKの誰かと一緒では出せない紫凰ゆすらを出したかったんだろうから、正式に世にデビューする以前からお互いを知って何度も夜を一緒に超えたという関係性のやねちゃんは呼んだのは最適解だったのかも。

環やねちゃんのサバサバして煽るときは煽ってツッコむときはきちんとツッコんでってノリは、紫凰ゆすらと相性が良い。ステージ上でも時間が経つにつれて2人の素に近い掛け合いやノリが出てきて面白かった。動画中にはMAPAのらぶぴがBGMに使われていた。

2人の動画とは別に、紫凰ゆすらの寝起きから1日のルーティン的な動画も流され、それも観られて有り難かった。自宅の部屋でデコチェキを使ってるシーンや『いちご完全犯罪』の撮影裏もちょっと。てか本人が緊張からか会場で動画に被せて喋り倒していて、せっかく動画に付いていた副音声が全く聴き取れなかった(爆笑

でか美ちゃんのラジオ出演時も作ってると語っていた卵料理、ライスペーパーのガレット(そう言うらしいけど全然覚えられない)が美味しそうだった。それを作ってるとき口もとがモゴモゴ動いていて、なんか独り言を喋ってるみたいで、紫凰ゆすら曰くそれが癖らしくまじで意味がわからなくて環やねちゃんも会場のみんなも笑ってた。でも可愛い。

2人のツーショットチェキなどが当たる抽選チェキでは、前方の席が近い人たちに連続で当たったり、「欲しいってちゃんと叫んだら当たるかもよ?」と2人が煽った後にすぐ「欲しい!!」ってひとり叫んだ男性がいて、ほぼその直後に本当にその男性が引き当てられてたのとか神展開だったな。

客席から差し入れされたテキーラを飲んでいく紫凰ゆすらも面白かった。

休憩を挟んだ後にライブパート。

1.きゅるきゅる(やねちゃん紹介への導入のため途中まで)
2.いらんこといわんこ(きゅるりんってしてみての曲。環やねちゃんとのコラボ披露)
3.えちえちDELETE
4.VOID

セットリスト

セトリが紫凰ゆすららしいなと思った。

VOIDは最近も本家・靖子ちゃんから生で浴びて改めて大好きになってた曲だったから紫凰ゆすらの歌声で聴けたの嬉しかった。徐々にギアが上がっていくのかっこよかったな。

えちえちDELETEは会場でも良いなと思ったけど、後から何度も反芻したくなったのはVOIDよりむしろこちらだった。ゆすらに合っていると思ったし、最後の歌い終わりに腕を横に振って締めて決めてたのもバッチリだった。

会場では開演前BGMの紹介もされ、靖子ちゃんのハンドメイドホームもピックアップされていた。ゆすらも大好きな曲の一つだそう。

紫凰ゆすらが靖子ちゃんを心から尊敬しているのも、だからこそもっと自分を高めたくて靖子ちゃんから今以上に認めてもらいたいんだろうなとかそういう志向も伝わった。

おれは靖子ちゃんがミスiDのときの紫凰ゆすらに贈った「素材と才能はちゃんとしているんだから、あとは魅せ方で、誤魔化す必要なんかないんで〜」から続くコメントが大好きで、「ほんとすげーウザいギャルだけど、まだ不完全な感じ好きですよ」っていう愛の向きも素敵。

ゆすらの魅力やポテンシャルをあの時点で明確に言語化しながら見出して、MAPA結成から立ち合わせて、ゆすら自身も今なおTOKYO PINKの一員で活躍してるってものすごいことだよね。超誇れること。だからこそもっともっと期待に応えたいってなっちゃうのは当然の思考回路なんだろうけど。



とにもかくにも幸せで和やかな空間だった。






会場には犬もいた。
あの日からあの犬が忘れられない。
またあの犬に会えるかな。




紫凰ゆすらのことをもっと身近に感じられる最高の時間になった。TOKYO PINKは秋生まれが多いから公式プロフィールを4月生まれに変更したいとかいう話もやねちゃんとのトークでしていたけれど、おれは自分が4月生まれだったからなんだか嬉しかった。

これからもきっとたくさん惑うし、バカみたいにしんどい日があると思う。それは紫凰ゆすらもオタクのみんなもきっと同じで。でもそんな矢先にライブハウスやレコードショップに行けばお互い確かなものを共有できる。「音楽で会いましょう」って素敵なフレーズだよね。靖子ちゃんってまじで何でもとっくに誰よりもはやく歌詞や曲にしていてほんとすげえよ。

MAPAのこれからも、紫凰ゆすらのこれからも本当に楽しみ。おれもおれらしく、きちんと加担していこうと思います。

お誕生日おめでとう、ゆすら








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