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8人を知る 椿宝座の全貌動画を見た

椿宝座の全貌動画を見た。

正直これを見てかなり椿宝座に対する印象が変わった。いい意味で。
変わったというより更新されたってほうがニュアンスは近い。適切なアップデート。

それほど8人のことを全然知らなかったのである。知らないものに対して人は警戒する。防衛本能が働く。

要は見方が分からないのだ。

お笑いの話になるけれど、M-1グランプリ2017年の決勝ステージにマヂカルラブリーが初めて出てきたとき、彼らは大いにスベッていた。漫才終わりの平場でもチグハグな立ち振る舞いで審査員の上沼恵美子にブチ切れられる始末。結局マヂラブは最下位に沈んだ。

当時テレビ越しに見ていてたしかに面白いと思えなかった。我を出して爪痕を残そうとする彼らはひたすら空回りしていて、その浮ついたテンションは温度差を広げるばかりだった。

マヂカルラブリーといえば馬鹿馬鹿しい設定のコント漫才を男子中学生みたいなノリと少年ジャンプのようなテンションで繰り広げるコンビだが、得体の知れない二人が何かやったところで「よくわからない人間がよくわからないことをやっている」に終始する。わかりづらい人間がわかりづらいことをすると大抵見る側は戸惑うか冷める。

そんなマヂカルラブリーは3年後の2020年大会で優勝する。「最下位取っても、優勝することあるんで、諦めないでください皆さん」

そう涙ながらに語った野田クリスタルの言葉はどこまでも芯に迫るものだった。実際このときは文句なしに面白くて、リアルタイムで見ていてゲラゲラ笑った。でもマヂラブが披露した漫才の本質は、3年前とさして変わっていないのである。
変わったのは"こちら側"だ。

大コケしたとはいえ3年前の彼らの馬鹿馬鹿しさや愚直な芸風は多くの人が覚えていた。3年の間に僅かばかりにも出演したテレビでマヂラブは自分たちのキャラクターを着実に世間に認知させていった。

そして3年ぶりに決勝ステージに帰ってきたマヂカルラブリーに対して、明らかに大会の空気も審査員側も、その芸風や見方を知っていた。
この"知っている"が何よりでかい。

知っているから知っていることを期待通りやってくれると安心する。「またバカな奴らがバカなことやってるよ笑」という喜び。逆に"バカなことをする奴ら"が趣向を凝らした計算されたパフォーマンスでも見せるとギャップも感じる。

見方がわかってるからこそ楽しめる。
キャラクターを知ってるからこそギャップが分かる。
往々にしてそんなことがある。

ライブでも新曲でも靖子ちゃんの繰り出すパフォーマンスに対して「靖子ちゃんらしくて好き」と思うのも、「こんな靖子ちゃん見たことない!」とテンション上がるのも、それは大森靖子のことを知っているからこそじゃないですか。揺るぎない視点が1つ確保されてるから、そこからの振り幅や派生に気付けて楽しめる。

「椿宝座はまだ正直よくわからない状態で、推すとか受け入れるとかそんな秤にも乗ってない。見方もわからない。曲とライブが良ければ好きになるだろう単純に。靖子ちゃんが見出した面々だからってのと、靖子ちゃんのチャレンジは応援したい、今はそれだけ」

これは11/11のTOKYO PINK FESを見た夜にXで呟いた自分の感想。整理も理解も追いつかなかった。受容しようにも上手くできない。それが正直な感想だったし、この時点では8人に対する印象のすべてだった。

ZOCでいきなり堂々たるパフォーマンスをした荼緒あいみちゃんやTOKYO PINK MINDSにはそんな違和感は覚えなかった。
既存のメンバー(グループ)とパフォーマンスしたから?
聴き馴染みのある曲をやってくれたから?
それもあるだろう。
でもそれだけじゃない。

荼緒あいみちゃんやTOKYO PINK MINDSは事前にオーディション動画を見ていたからだ。

だから、おそらくこの子が選ばれるだろうとか、この曲をパフォーマンスするんだろうとか、心の準備ができていた。この子が選ばれたら応援したい、この子ならZOC(MAPA)に合いそうとか、シミュレーションや受け入れるための素地が出来ていた。そんな人は多かったろう。

新メンバー加入のお知らせが発表された時点では「今のままでいいのに」って声のが遥かに多かったと思う。それがオーディション動画を見て徐々に心をほぐされてった人は多かったはず。TOKYO PINKでステージに立ちたいと、ひたむきにオーディションを戦う一人ひとりの姿に多くの人が心を打たれていった。靖子ちゃんやり子ちゃんの想いも汲み取れた。

そんな下地が椿宝座にはなかった。

実質いきなりあの日が"はじめまして"。
男性メンバーのオーディションや新ユニットの話は出ていたものの、情報の出方はほぼ1→100だった。8人?男女混合?自己紹介?いきなりパフォーマンス披露?
そりゃ容易に咀嚼できるわけがない。サプライズに近いお披露目は戦略的なものだろうけど、なかなか戸惑った。

でもそれは単に8人のことをあまりにも知らなすぎたから湧き起こっただけの混乱の感情に過ぎなかった。無知は時に想像力を奪い、想像力の欠落は無自覚に誰かを傷付けることになる。

今回の動画を見て、8人に対する解像度は上がった。人間味がたっぷりとあったり、ミステリアスで底の知れなさがあったり、このオーディションに懸けていた強い想いが溢れていたりと、知ろうとしないとリアリティの見えなかった多色の魅力が広がっていた。
あまりに散り散りな個性が揃っていて面白い。遠目に見たフェス当日ともルックスの印象も変わった。SNSで見る静止画と動画ではこれまた見え方も変わる。

これからどうまとまっていくのか。そもそもまとまるのか。まとまらなくてもそれはそれで面白いような、そんな天井知らずのスケールも感じる。

この8人がどこかのライブハウスに集まったとして、知らない人が見たら8人とも同じグループだなんて思いもよらないだろう。

靖子ちゃんとり子ちゃんのレジェンド二人が熱心に丁寧に椿宝座に対してリコメンドし、思いの丈を費やすだけの価値を持った人たちだというのは動画を見る前と今では納得感が違う。

きちんと知ろうとすることは大切だ。
厭とか苦手とか無関心とか、思考停止で分別しているあらゆることも、案外ほとんど単なる無知からくることかもしれない。まあそもそも興味の土俵に乗せるのが何より大変で、今回その一番核となる部分はTOKYO PINKというブランドがあってこそだけれども。

とはいえ、好きや尊敬を寄せる人たちが自信を持って選んで紹介する人たちなら尚更、まずはきちんと知ってみる価値はあるなと思った。

本番前、先輩のリハーサルを客席から見守る8人の表情や眼差しはどこまでも澄んでいて綺麗だった。

椿宝座の宣材写真、今見るとまた少し最初よりも見え方が変わってくる。

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