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堺雅人が紡ぐ言葉の魅力とは


堺雅人のインタビューなどで語る言葉が好きだ。

台詞を流麗に発するお芝居も好きだが、それ以上に理性と知性に満ちた素の言葉に惹かれる。

独特、というとちょっとニュアンスが異なるかもしれない。ただ、ほかの役者とは明らかに異なるアプローチや表現を、堺雅人が語る言葉のなかには感じるのだ。

丁寧かつ機知に富んだ物言い。テレビや雑誌等のインタビューを読むたびに感じる。「声に出して読みたい日本語」そのものというか。

エッセイは2冊とも読破しているけど、エッセイよりもインタビューの言葉のほうが個人的には好き。


なぜなのか。


おそらく自発的でなく、インタビュアーによる質問に当意即妙な返しをする点と、その質問の真意や核心を即座に捉えて、真摯な思考と整理された回路によって導き出された言葉だと分かるから。紡がれる言葉に一切の無駄もなく、適正に語られるから。

言葉の選び方が雑でも惰性でも小慣れでもない。

瞬発的に真意とはズレた返事なり回答なりをしてしまう経験は誰しもあるだろう。それは経験値による癖、思考停止による反射、スピードを重視するあまり単語の選択や本音を熟慮しなかった等々、多様な要因があると思う。

堺雅人に関しては、これまであらゆるシチュエーションに対して真摯に深く向き合ってきた人だからこそ瞬時に引き出せる言語化であると不思議と信頼が持てる。上っ面感や雑味を覚えない。

堺雅人からは、質問に対して一度険しい顔をするなり腕を組むなりし、熟慮する時間を排除しない姿勢を感じる。


先日出演した『初耳学』の人気コーナー"インタビュアー 林修"に初登場した堺雅人の語りはまさにその体現だった。ずっと以前からインタビューでも過去の情熱大陸でもそうだったけれど。

あらためてこの人は異質で高度な言葉を用いて聴衆を聴き入らせる力があると感じた。素の人柄ないし本質が、芝居においても不思議と力を持った台詞となって放たれ、他の誰かが言う以上に大衆に刺さる強度を備えるのだなと。

ドラマ『リーガル・ハイ』での5分半に及ぶ超長台詞(台本10ページ分)は語り草だが、途中で淀むことなく、「言う」でもなく「伝わる」熱量で大演説したのは痺れる。

しかも圧倒的に聴きやすい。
堺雅人の台詞の言い方にはまた彼ならではの抑揚とテンポがあり、まるで譜面から起こされた音楽のような言い回しで、ストレスなく耳に入り込む。


そのリーガル・ハイでの長台詞について、共演した新垣結衣がすごいと語った。

「途中の新垣結衣さんがすごい」
「もし俺だったら気が狂っちゃう」
「ひとの台詞の間の『あぁ…』とか『はい…』のほうが大変です」

「自分だったら自分の中の論理がずっとあるけど、何人もの台詞の流れがある中で台詞を間違えたら大変だし、合い手とかの方が大変だと僕は思います。(流れを)全部覚えなきゃいけないから」


堺雅人の演じるにあたってのポリシーは、台本のセリフをアレンジしないというもの。
台本に書かれた台詞のことは「神様からの言葉。聖書」と言い切っていた。

ちなみに今月の8月で、乗客乗員520人が犠牲となった1985年の日航ジャンボ機墜落事故から38年となる。この事故を題材にした映画『クライマーズ・ハイ』で私は堺雅人のファンになった。

それは言葉のまんま、鬼気迫る演技だったのだ。


インタビュアーの林修先生は、堺雅人出演のお気に入り作品のひとつに『ジョーカー 許されざる捜査官』を挙げていたが、こちらも印象深くて個人的にも好きなドラマだ。

法で裁けない悪人たちを堺雅人が痛快に闇討ちし、「お前に明日は来ない」という決め台詞の後に毎回容赦なく拳銃をぶっ放すカタルシス。大杉漣の存在感も抜群だった。

堺雅人といえば、菅野美穂と結婚したことでも知られる。結婚に至るのとは随分前に彼はインタビューで好きな女性のタイプをこんなふうに語っていた。

「言葉→声→顔」の順に惹かれる傾向があるとし、「まず会話をしていて楽しいと感じ、この人の声をずっと聴いていたいと思い、その人の顔が可愛らしいと気づく」と語っていたのだ。
だから結婚報道が出たときに相手が菅野美穂で、「うわピッタリだ!」と思った記憶がある。にしても好きなタイプの答え方ひとつとっても素晴らしい表現の仕方。


インタビューを終えた林先生は堺雅人の印象を「努力の人」と語っていた。その努力は決して他人には見せないけど、あの技量には裏打ちされたものがあると。

かつて情熱大陸で堺雅人は真面目な役者と自身がいわれることに対して以下のように語っていた。

「どっちとも取れますね。嬉しいとも…憑依型と自力型があるとしたら(私は)自力型だと思います。よくやってるねってことじゃないですか。ただ、天才じゃないねって言われてる気もして。それはそうだなと思います」


また、Twitterで自分も定期的に好きで投下してしまう、雑誌『ダ・ヴィンチ』のインタビューで語っていた堺雅人の言葉を記したい。

「正義や正解は必ずどこかにあるものだからと、判断を先延ばしにするというのももちろん大事な選択です。

しかし、そうは思いながらも踏み出さなければならない時があり、どうせ踏み出すなら力強く踏み出そうではないかと。

そして、あなたが見つけた真実を自分で肯定できたなら、それこそがあなたの正義なのだ、と」


『日曜日の初耳学』は自分の好きな役者さんが今一番出てほしい番組だと思っている。林先生の利発かつ軽やかなインタビューはゲストをリラックスさせ、素の言葉を引き出す。

かつてそれが出来ていたのは今は無き『ぴったんこカンカン』における安住アナウンサーぐらいだったと思うから。


今ほどの大物になってもイメージに根強い象徴的な笑みは絶やさず、芝居以外ではとても軽やかで優しい雰囲気を感じる堺雅人。

やっぱり素敵なひとだなあと思った。

サポートが溜まったらあたらしいテレビ買います