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映画「ジェーン・バーキンのサーカス・ストーリー」

とてもマイナーな映画ですが、クラウンのシーンが印象に残っているので紹介します。

原題:36 Vues du Pic Saint-Loup
英題:Around a Small Mountain
邦題:ジェーン・バーキンのサーカス・ストーリー
2009年 フランス・イタリア合作

2009年・第22回東京国際映画祭にて「小さな山のまわりで」というタイトルで六本木の映画館で上映されました。

あらすじ:
中年の女性(ジェーン・バーキン)が田舎道で車がエンストして困っていると、アルファロメオの中年の男性(セルジオ・カステリット)が立ち止まって直してくれます。直った車で女性が小さな街にたどり着くと、男性も後を追うかのようにそこに到着しました。そこはピク・サン・ルーという山の麓の街。もうすぐサーカスが行われるらしく、狭い広場にテントが張られつつあります。どうやらこの女性はこのサーカス一座に深く関わりのある人物のようで、男性をサーカスを観に来るよう誘います。
男性が行ってみると座席はガラガラ。やがて照明が暗くなってサーカスが始まります。オープニングもなく、音楽もなく、始まります。クラウンのギャグ・・・なのですが淡々と進んでいきます。でも男性には大ウケしました。
男性はこの女性とサーカス一座に興味を持ち、しばらく巡業についていくことになるのです。


クラウンの演目は、映画全体を通して小出しに見せてきます。ギャグの展開を見たい、早く全容を見たいと思うのですが、女性の過去が暴かれていくシーンとクラウンにまつわるエピソードが淡々と交互に小出しにされていくので正直もどかしい。団員の様子なども交えて舞台演劇的な台詞回しとか照明使いとかあったり斬新なのだけど。監督はジャック・リヴェットという人なのらしく、これがおフランスのヌーヴェルヴァーグというものなのでしょうか。

ギャグは、銃と椅子と皿を使ったクラシックな作品。
知ってる! 見たことある! 
でもいまいちやる気がない感じでどこか面白くありません(そういう演出)。
後日、クラウンのロムはヴィットリオ(アロファロメオ野郎)から皿の持ち方について一つアドバイスをされるのですが、「俺は、この寸劇を何十年も長いこと演じているんだ」「伝統なんだ」「素人に何がわかる」と不機嫌になってしまいます。でも次の公演のときそのアドバイスを取り入れてやってみたところ、観客を笑わせることができて、ロムは嬉しくなります。

淡々と話は進んで後半、ひょんなことからヴィットリオが道化師をやる羽目になります。でもズブの素人なのでどうしようもない。そしてサーカスと演劇がドキュメンタリー風に融合して、現実なのか映画なのか不思議なものを見ている感覚に陥りました。

フランスにはこういう小さなサーカスが無数にあるらしく、この映画はその一つを題材としたフィクション。
主人公はあくまで中年のジェーン・バーキンです。
物語自体は地味ですが暖かい大人のストーリーで、一応ハッピーエンドになります。

ネタバレになりますが、クラウンのギャグはピオ・ノックで有名な皿を割るサーカスギャグがモチーフになっています。オリジナルはピオ・ノックではなかったのか?はわかりませんが、彼が演じるあの抱腹絶倒のサーカスギャグがこれほどまでに面白くなく演じられることは逆にこの映画の見どころかもしれません。しかし毎回違う断片を見せられ、しかも毎回進化するため、見えてない部分は想像するしかありません。いやあ、おフランスのヌーヴェルヴァーグってレベル高い。

原題の「36 Vues du Pic Saint-Loup(ピク・サン・ルー 三十六景」は、葛飾北斎の「富嶽三十六景」をもじったものだという説があります。でもそれがどうやったら「ジェーン・バーキンのサーカス・ストーリー」というセンスのない邦題になるのか? むむむです。


(月刊クラウンライフ10月号に寄稿しました)https://clownlife.studio.site/

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