神話的　──WrestleMania40の星辰図像

 WrestleMania 40のメインイベントたるコーディ・ローズとローマン・レインズのNo DQ戦とは、偽なるユピテルを廃し真なるユピテルを擁立する試合であった。奈辺に依るか。星辰図像を鑑みつつ論ずる。
　
　そもそもWrestleMania 40とは、四十回目の同大会なるを忘れる莫かれ。四十とは、新旧聖書に於ける一世代である。ヘブライの民は約束の他を信じ四十年もの間流浪した。ダビデやソロモンの治世は四十年だった。他にもある。四十日や四十年は聖書のオブセッションだ。WWEは四十回目に(偶なるか約束の地で虐殺行為が行われてる最中に)大会ロゴの鐘を割った。アンダーテイカーの世代は終わったのだ。

　現役時のアンダーテイカーは土星だ。ジョン・シナがJBLと王座を争った、セス・ロリンズがキャッシュインした、ロック様が復活した。誰何か。アンダーテイカーがWrestleManiaに出場する、是れ以上の物語は無いと断言する。何を以っても年に一回という最も周期の遅いアンダーテイカーの試合を超えない。全ての惑星が土星の内側に軌道を取るが如し。土星は天王星の発見まで全ての外側だった。ルドルフ・シュタイナーのオカルト治療学に於いて肝臓と結びつけられた其の星の内側で全てが為されるに過ぎない。

　役割のみならず、図像も土星だ。其の男は南部出身だ。テキサス・レッドだ。墓掘り人時代の姿はThe Fields of Nephilimのゴシック的感性で誇張された農業州アメリカ南部そのものだ。土星の星辰図像に農民の姿があることは説くに値せず。2008年以後は尚更だ。この年を境に魔王たるアンダーテイカーの演出が始まるが、その衣装はサトゥルヌス図像だ。

　しかし、殿堂入り時のアンダーテイカーは天蠍宮だ。冥王星だ。AJスタイルズとの引退試合で見せたバッドアススタイルは天蠍宮入りを示した。其の男の最も素顔に近い姿は、長い髪を蠍の如く束ねている。そして殿堂入り時やドキュメンタリー出場時も其の姿だ。天蠍宮の支配星は冥王星であり、光が届かない。今WrestleManiaが物語の進行に深く影を落とす最後の場面だと予測しよう。何故に。冥王と成るアンダーテイカーの持物は割られてしまったからだ。

　試合を争った二人は如何。コーディは鷲。ユピテルの化身だ。試合の入場時が乙だろう。仰々しい衣服に教皇権と軍事権を象る、是当にドミニク・アングルの描くナポレオン也。ノーマン・ブライソンの論を借りれば、アングルは常に伝統から切り離されている不安を秘めていた。故にナポレオン像は大立回りだ。ユピテルや教皇などの王たる図像を総動員し、大革命という断絶を無効化する不自然なまでに伝統的な王を描いたのだ。コーディ図像は新世代という断絶を象りつつ絶対的なる体制を敷くことからアングルのナポレオン像が重ね合わされる。

　然しロック様の牡牛もユピテルの化身だ。ここにユピテルの座を巡る試合が成立する。そしてアンダーテイカーは介入した。冥王星が土星の如く振る舞った。我が子を喰らった。こうしてユピテルは一人となった。

　WrestleMania 40とは神話劇なのだ。しかし、土星の振る舞いをしたアンダーテイカーはそのまま冥王星となり、WWEは土星不在の時代を迎える。巨人族との戦いもなければ、無論コーディによる去勢の執行も星辰の神話を鑑みるに不可能だ。然ればコーディが去勢さる原父となる日を待たねばならぬ。其の原父を打倒する男こそ次世代の土星であり、其の去勢者を打ち砕く男こそ次世代WWEの主神ユピテルなのだ。