東京大学教養学部統合自然科学科で教員免許(数学)を取得しよう

 この記事は 統合自然科学科 Advent Calendar 2023 の5日目の記事です。
 中学高校数学の教員免許を取得するという観点から、自らの経験も踏まえて統合自然科学科の良さを紹介します。
 同Advent Calendarには 統合自然科学科全体数理自然科学・物質基礎科学コース統合生命科学コースについてのより一般的な解説があるので、そちらもぜひご覧ください。



はじめに

 この記事は 2023(令和5)年度 時点の情報をもとにしています。取得要件や開講科目は変わる可能性があるので、実際に免許の取得を目指す方は必ず最新の便覧を確認しましょう。
 教員免許は大学院修了時に取ることも可能ですが、この記事では学部卒業時に取る場合に限定して書きます。
 2023年度から開設されたスポーツ科学コースについては情報が少ないため考慮していませんが、統合自然科学科のコースであるため数学の教員免許取得はおそらく可能です。

主旨

 数学の教員免許取得を目指していて、以下に1つでも当てはまる人には、統合自然科学科を強くおすすめします!

  • 数学の教員免許取得を第一に考えている。

  • (主に解析方面の)純粋数学の研究ができる数学力を身につけたいが、純粋数学以外のことも学びたい。

  • 数学に限らず物理・化学・生物およびその融合分野など、様々なことに手を出したい。

  • 数学の教員免許を取りたいが、メインでは物理・化学・生物などを学びたい。

 逆に以下に当てはまる数学教員免許取得希望者は、統合自然科学科に加えて他学部学科も検討するといいでしょう。

  • とにかく数学を極めたい・数学を体系的に学びたい → 理学部数学科

  • 理論や基礎研究よりも工学・社会的応用に興味がある → 工学部

    • 現象のモデル化や情報・制御などに興味がある → 計数工学科

    • 物理(特に量子・物性)をメインにしたい → 物理工学科

東大で数学の免許を取る流れ

 東京大学における教職課程の一般的な流れについては、例えば UT-BASEのサイト にまとまっていますが、ここでも概要を述べます。知っている方はこの章は飛ばして結構です。

 まず、学部卒で取れる数学の免許には中学一種高校一種の2種類があります。必要な単位はほとんど同じですが、高校免許は中学免許に比べて「必修単位が少ない」「教育実習の期間が短い」「介護等体験が無い」といった違いがあります。そのため、全て取り切って中高両方の免許を取得する人と、やや削って高校免許のみを取得する人がいます。目的に応じて決めるといいでしょう。

 教職課程の単位は次のように分類されます。

  • 教育職員免許法施行規則第66条の6に定める科目:前期課程必修の一部+日本国憲法のことです。

  • 教育の基礎的理解に関する科目:いわゆる教職教養です。

  • 道徳、総合的な学習の時間等の指導法及び生徒指導、教育相談等に関する科目

  • 各教科の指導法

  • 教育実践に関する科目:(主に)教育実習と教育実践演習のことです。

  • 教科に関する専門的事項

 前期課程(1・2年生)では、まず必修科目を取らないといけません。加えて総合科目である「日本国憲法」の単位を取ることが強く推奨されます。これは後期課程で取る手段が法学部の他学部聴講(6単位!)しかないためです。
 これらの他に、「教育の基礎理解に関する科目」のうち持ち出し科目に設定されているものは、1Sセメスターから履修することができます(持ち出し科目か否かは便覧を見れば分かります)。早くから取り始めればその分後が楽になるので、教員免許を取ると決めているならどんどん取りましょう。ただし、あくまで前期課程の科目が優先であることをお忘れなく。持ち出し科目自体は後期課程の単位なので進振りには参入されませんが、他の科目が疎かになっては元も子もないです。

 後期課程に進学する際は、大前提として「教科に関する専門的事項」を開講している学科に進学する必要があります。数学の教員免許を学部卒業時に取得したい場合、候補は次の4つです(*)

  • 教養学部統合自然科学科

  • 理学部数学科

  • 工学部計数工学科

  • 工学部物理工学科

(*)それ以外でも他学部履修等で無理やり取得できる可能性もありますが、少なくとも私はそのような人を見たことがありません。
 特に教育学部では基本的に国語と社会の免許しか取れないので注意しましょう。

 進学後は、それぞれの学科科目である「教科に関する専門的事項」と、前期課程で取らなかった「教育の基礎理解に関する科目」を取ります。後者については、特に教育実習に必要な単位を優先的に取りましょう。3年の夏頃に次年度の教育実習・介護等体験(**)・教職実践演習の申し込みを行います。
 4年時にあるのは教育実習介護等体験(**)、そして教職実践演習です。また関連して教育実習のオリエンテーションやまとめの会、保険加入や教員免許申請
などの手続きもあります。人によってはさらに教員採用試験や院試、卒業研究なども重なってとても忙しくなります。このため、できるだけ3年時までに取れる単位は取っておくことが望ましいです
 必要な単位を全て取得すると、学部卒業時に教員免許が発行されます。

(**)介護等体験だけは、2年の夏に申し込みを行えば3年時に行うこともできます。4年時でも忙しい時期(教育実習期間や院試直前など)は避けることができますが、研究室によっては1週間が惜しいこともあると思うので、中学免許を取ることを決めている人は3年時に済ませておくと後が楽かもしれません。ただし教育実習と同じ年に取る人が多数派ではあります。

統合自然科学科の特長

 それでは本題に入ります。数学の教員免許をとる上での統合自然科学科をおすすめする理由、他学科との違いをお伝えします。

◎進学しやすい

 前章で述べたように、数学の免許を取得するためには先述した4つの学科のどれかに進学する必要があります。統合自然科学科は比較的新しい学科であるためか、他の3学科と比べて進学に必要な最低点数(底点)が低い傾向にありました(認知脳科学コースを除く)。つまり進振りに失敗して免許が取れなくなる、ということが避けやすいです。また前期課程で過度に成績を気にしなくていいので、早くから持ち出し科目に労力を割けるというメリットもあります。教職課程を取るという目標を持って進学するのであれば、絶好の穴場です!
 
統合自然科学科ではどのコースでも数学免許の取得が可能なので、まずは自分の興味に応じて選びましょう。実際に数学の教員免許を取る人が多いのは数理自然科学コース、次いで物質基礎科学コースだと思います。

◎教職課程の履修に親切

 統合自然科学科は必修科目が少なく設定されており、また教養学部開講でない教職科目の一部を卒業単位として算入できる(最大10単位)ため、授業期間に無理なく教職科目を取ることができます。前期課程のうちにあまり教職科目を取れなかったという人や、集中講義をなるべく取りたくない人でも教職課程を取り切れるチャンスができるというのは大きいと思います。
 また、学科ガイダンスで教職課程の扱いについての説明がなされたり、教養学部後期課程チームから来る教職課程関連の連絡が他学部より丁寧だという話を耳にしたりと、学部学科全体で教職課程をサポートする土壌ができあがっていると感じることがしばしばありました。

◎数学科目は数学の研究者が担当する

 これは工学部の2学科との差別化点になります。工学部の授業を受けたことがあるわけではないので詳しい比較はできませんが、一般的に工学部の数学は工学の研究者が行い、応用を念頭に置いた内容です。例えば証明の過程を追うことよりも結果を利用することに重きを置いているイメージです。
 一方で統合自然科学科の数学は数学の研究者(主に数理科学研究科の教員)が担当し、数学的な考え方を習得することに重きが置かれます。演習では具体的な計算だけでなく証明が出され、議論が正しいかきっちり見てもらえます。これについてはどちらがいいということはなく、どういった進路を目指すかによって決めるといいでしょう。教員としてはどちらを身につけてもいいと思います。

◎数学以外のことも学ぶ選択肢がある

 統合自然科学科では数学に限らず様々な授業を履修することができます。極端な話、必要単位さえ取ってしまえば数学を極める必要はなく、卒業研究を数学以外について行っても問題はありません。「実は理科系科目を修めたいけど免許は数学で…」という人でも無理なく履修を組むことができます。特に化学や生物をメインにしつつ数学免許を取りたい人統合自然科学科一択です。物理をメインにしたい場合は工学部物理工学科も併せて検討するといいでしょう。
 数学を主に勉強する場合でも、例えば物理で使う数学には純粋数学ではあまり触れられない直感的な説明やアイデアが多くあり、純粋数学のみを学んだ人と比べて一概に劣るとは言えません。

上の2つをまとめると、統合自然科学科は数学と理科系科目を両方学べるハイブリッドな学科であると言えます。それぞれに関しては他の学科に譲るところもありますが、厳密な議論経験的な議論の両方に精通することができるのは、統合自然科学科ならではだと思います。

統合自然科学科の懸念点

 私は統合自然科学科で良かったと思っていますが、人によって気になるかもしれないことを挙げておきます。

・本郷キャンパスの授業を履修しづらい

 多くの教職科目は本郷と駒場の両方で開講されますが、教育学部が本郷キャンパスにあるため本郷のみ開講の教職科目もあります。そういった科目を授業期間に取ろうとすると、キャンパス間を移動しなくてはならず履修を工夫しないといけません(私の時はコロナウイルスの流行によりほとんどの授業がオンラインだったのでこの問題を経験していません)。
 ただ多くの科目は持ち出し可能科目として駒場開講の授業も用意されていますし、本郷のみ開講でも長期休暇中の集中講義なら履修には影響しません。

・「教科に関する専門的事項」の必須科目数が多い

 「教科に関する専門的事項」では「代数学」「幾何学」「解析学」「確率学・統計学」「コンピュータ」の5つの科目区分ごとに「一般的包括的内容を含む科目」という取らなければいけない単位が指定されています。理学部数学科や工学部の2学科では「一般的包括的内容を含む科目」は各科目区分で1つずつなのですが、統合自然科学科ではいくつかの講義がセットで定められているものがあります。例えば「幾何学」については「構造幾何学」と「構造幾何学演習」の2講義を、「解析学」については「複素解析学」「実解析学Ⅰ」「実解析学演習Ⅰ」の3講義を取らないといけません。これに関しては他学部学科よりやや大変だと言えるでしょう。

 余談ですが、「一般的包括的内容を含む科目」の内容は学部によって統一されていません。例えば理学部数学科では「幾何学」は集合と位相、「解析学」は複素解析のみで実解析(ルベーグ積分)は含まれない、となっています。なぜなんでしょうか…。

・学ぶ数学が偏る

 統合自然科学科では集合論や関数解析などはセミナーで扱われるので、他のセミナー科目との選択を迫られます。特に集合論はその後の数学科目に必須なので、2A(または3S)で取ることをおすすめしますが、他にどうしても取りたいセミナーがある場合は自分で勉強することになります。
 また「教職課程さえ取れればよい」という人には関係のない話ですが、そもそも統合自然科学科で学べる数学は解析学に偏っています。特に環・体論や多様体・微分幾何の講義が開講されていない点が他の学科との違いです。
 解析や数理物理に興味がある、または物理の中でテンソルや多様体を扱うくらいで十分だという場合は問題ありませんが、代数・幾何方面に興味がある人は他の学科も検討するといいでしょう。

実際に取ってみてのアドバイス

 ここからはおまけです。統合自然科学科で教職課程を取る際に見落としがちなことを中心にお伝えします。

手続き

 学内で行われる手続きに関しては、全学向け資格掲示板と、教養学部後期課程チームや教育学部教職担当から届くメールを見ておけばまず問題ありません(他学部でも同じかは知りません)。仮に分からないことがあっても、教育学部教職担当にメールすれば対応してもらえます。
 気をつけるべきは学外とのやりとりです。例えば、母校で教育実習を行いたい場合、およそ実習の前年度5月頃まで(学校によります)に内諾をもらう必要があります。2年生のうちに一度母校のホームページを見たり連絡をとったりして、スケジュールを把握することをおすすめします。大学を通じて東大附属や都内の中学校で実習を行う場合は学内の手続きと同様です。

履修戦略

 「教科に関する専門的事項」については、確率論の授業だけ4Sにあり、5~6月に実習を行う場合被りが避けられません。落とすと免許が取れないので頑張って単位を取りましょう(幸い採点は厳しくありませんでした)。3Sでも取れる難易度ではありますが、他の重要な科目と同じ曜限で競合することがあり悩みどころです。
 中学免許の場合、「数学科指導法」の科目は「基礎」2単位+「実践」6単位が必要です(高校免許のみの場合は「基礎」2単位+「実践」2単位になります)。「実践」はA、B、C(1)、C(2)の4つが開講されていますが、このうちどの3つを取っても大丈夫です。Aが授業期間かつ本郷での開講なので、集中講義だけで済ませたい場合はB、C(1)、C(2)という取り方がありえます。C(1)、C(2)は講義名が似ているだけでなく同じ教員が担当しているため不安になりますが、別講義扱いのため全く問題ありませんでした

その他

 「教科に関する専門的事項」以外の教職科目は出席を重視するので、やむをえず欠席する場合は必ず教員に連絡を入れましょう。
 教職科目を履修したら、忘れないうちに履修カルテを書いておくと後々楽です。履修カルテは資格掲示板からダウンロードできます。

終わりに

 統合自然科学科は前期課程生向けのイベントをいろいろ行っていますが、教職課程は統合自然科学科のカリキュラムではないので具体的に取り上げられることは少ないように思います。この記事が進学後のイメージの助けになれば幸いです。

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