統合自然科学科ってどんなとこ?

こんにちは、物質コース4年のろきです。

ここでは、東大1,2年生の進振り前の学生を念頭に、「東京大学 教養学部 後期課程 統合自然科学科」を紹介していきたいと思います。

この記事は、統合自然科学科 Advent Calendar 2023 の2日目の記事です。明日12/3に公開予定の数理・物質コース紹介記事数理・物質コースってどんなとこ?もよかったら見てください! また、同期の書いた生命コースの紹介記事統合生命科学コースの紹介と具体例もどうぞ!


「進振りで駒場」の選択肢

 東京大学では、1,2年生は「教養学部 前期課程(いわゆる前期教養)」として駒場キャンパスで学び、2Sセメスター終了後に進振りを経て後期課程の学部学科に進みます。
 そのときの選択肢は、理学部や工学部など、赤門のある本郷キャンパスの学部学科が多いですが、選択肢はそれだけではなく、「教養学部 後期課程(後期教養)」理学部数学科といった駒場キャンパスで引き続き学ぶ選択肢もあります。

 理学部数学科は名前からなんとなく想像がつきますが、後期教養はどんなことをしているのでしょうか?

後期教養って?

 後期教養は2013年度から学科体制が改編された学部で、「学際性」「国際性」「先進性」をキーワードに、現在は「教養学科」「学際科学科」「統合自然科学科」の3学科体制で運営されています。

  • 教養学科:主に文系。人文科学や社会科学など

  • 学際科学科:文理融合。科学史から自然言語処理まで

  • 統合自然科学科:主に理系。自然科学の大半をカバーする

 それぞれの学科がさらにコース・分科に分かれ、サブコースなども含めれば21個の小分類の中で学んでいくのが後期教養です。

後期教養の3学科の構成(出典

 ここでは、その中でも特に「統合自然科学科」にフォーカスして紹介していきたいと思います。

統合自然科学科って?

5つのコース

 前述のように、統合自然科学科は後期教養の理系学科にあたり、理系のほとんどの分野について学ぶことができる学科です。
 統合自然科学科は「『自然科学知をインテグレイト(統合)する』次世代研究者の養成」を目標に設置された学科で、1つの学問分野や単なる境界領域の研究に留まらず、学問領域を自由に越境し、様々な分野を統合した新しい科学を創り出すことを目指しています。

 この学科は5つのコース:数理自然科学コース」「物質基礎科学コース」「統合生命科学コース」「認知行動科学コース」「スポーツ科学コースに分かれており、学生はこの5つの内の1つを主専攻としながら幅広い分野を学んでいきます。

統合自然科学科のシンボルマーク:5つのピースが組み合わさるマークになっている(出典

 また、これら5つのコースは一見不思議な分け方にも思えますが、これは統合自然科学科の前身である「基礎科学科」「生命・認知科学科」の流れを汲んだものとなっているからです。
 このこともあり、内部システムなどは大きく「数理+物質」「生命+認知(+スポーツ)」の2つのグループに分かれています。
(数理・物質コースについては、明日12/3に公開予定の統合自然科学科 Advent Calendar 2023 3日目の記事「数理・物質コースってどんなとこ?」で詳しく扱います。また、生命コースについては、同Advent Calendar 2023 4日目の記事「統合生命科学コースの紹介と具体例」をご覧ください。)

統合自然科学科の沿革(出典;スポーツ科学サブコースは2023年度からスポーツ科学コースに変更)

研究棟

 統合自然科学科は、駒場キャンパスの中でも16号館や3号館などのキャンパス西側に位置する研究棟での生活がメインになっており、主に1号館などの教室棟を使用している前期教養の学生にはあまり馴染みないかと思います。
(位置的にはテニスコートや野球場の近く。また、一部の学生はさらに西の駒場2キャンパスにいることもあります。)

16号館、3号館の位置:1号館やKOMCEEと比べるとかなり西側に位置する(出典

必修・選択科目

 統合自然科学科の授業は他学部に比べてかなり自由度が高く、自分の好きなように履修を組むことができます。
 具体的には、必修科目がかなり少なく、例えば数理・物質コースでは、多いセメスターでもセミナー+実験の週7コマ分しかありません。下にあるように、"選択必修"科目を入れても3コマの追加にしかならず、他の時間は自由に授業を取ることができます。

  • 必修:セミナー(2A〜4S、各1コマ)+演習実験(3S〜4S、各6コマ)+卒業研究(4A)

  • "選択必修":高度教養科目(2A〜4Aで合計3コマ以上)

  • 選択:他の授業全て(最低単位数の規定はある:2A〜4Aで合計約17コマ以上)

 私もこのシステムを活かして、興味のある生物や認知系の授業も取りつつ、学科同期と自主ゼミを行うような生活をしています。

 たまにある誤解ですが、「統合自然では"後期のALESS"を受けないといけない」というのは正しくありません。確かに「Advanced ALESS 1,2」という授業はありますが、これは"選択必修"にあたる「高度教養科目」に位置しており、この単位は他の授業で埋めることができるため、Advanced ALESSは必ずしも取る必要はありません。(実際、私はAdvanced ALESSを一切取っていません。)

 必要単位数や開講授業の詳細は、学科HPのカリキュラム・時間割や教養学部便覧(後期)などを参照してください。

コース科目

 統合自然科学科の授業は数多くあり、学生はその中から好きな授業を選んで履修を組んでいきます(この自由度は前期教養以上です)。5つのコースそれぞれに「コース科目」が設定されており、これを目安に自分が受ける授業を考えていくことが多いです。
 コース科目には、「物質コースなら物理・化学」「生命コースなら生物」といった科目が割り当てられていることが多いですが、「その分野で扱う手法の基礎となっている科目」「その分野や境界領域の研究に関係する科目」などは、複数のコース科目に指定されています。(例:電磁気学、統計力学;バイオ・ソフトマターの物理)

 詳しくは以下のコース科目一覧やカリキュラム・時間割をご覧ください。(コース科目一覧では、「量子力学1,2,3」のような連続授業が「量子力学」のようにまとめて記載されています。また基本的に演習授業は記載されていません。)

コース科目一覧(出典

 また、「量子力学1,2,3」のように名前が連続している授業も多くありますが、一部の授業では「統計力学2」→「情報と計算の物理」のように、内容は繋がっていても名前が連続していない授業もあります。
 そのような授業については、以下のコースツリーやシラバスを参考にしてください。

コースツリー:科目間の繋がりがある代表的なものについてツリー状に表したもの(出典

統合自然科学科の利点

 ここでは、他の学科と比べた時の統合自然科学科の利点について見ていきます。

  1. 分野に縛られず、理系分野について幅広く学べる

  2. 深い勉強をしながら、自分の専門について考えられる/考え直せる

  3. 少人数授業で、先生と学生の距離が近い

  4. 基礎を重視している

  5. 数理生物学、生物物理などの境界領域に強い

 1と2について、前期教養の良さを受け継ぎながらも、「後期課程で実際に専門的な授業を受けながら専門を考えられる」のはかなり大きな利点だと思います。実際に、これをうまく利用して自分が本当にやりたい分野を見つけた結果、「数理コースで脳の研究をする人」「生命コースで身体運動の研究をする人」など、進振り時点とは違う道へ進んでいく人もいます。

 3は他の理系学科にはあまり見られない特徴でしょう。私が受けた授業では、基本的に多い時でも2,30人、少ない時は5人程度で受けていました。そのため授業中に質問しやすく、分からないことがあれば他の学生にあまり気を使わず、気軽に訊くことができます。(人数が少ない分ほぼ全員のことを知っているというのも、気軽に質問できる要因だと思います、)

 4の基礎についてはあまり知られていないですが、今の時代に重要なことだと私は思います。前身が「基礎科学科」という名前だったこともあり、各時代の最先端を追いかけるのではなく、いつの時代にも通用するような基礎を身につけることを重視しています。
 たとえば、3S〜3Aの物質科学実験では、最先端の大型装置を使った実験などではなく、物理や化学の各分野の基礎となる実験手法の理解、習得に重きを置いています。これらを通して得た盤石な土台があるからこそ、どんな変化にも対応できる力が身につくのかと思います。

 5に関して、数理モデルなどを扱う石原秀至先生や澤井哲先生、先日『システム生物学入門』を上梓された畠山哲央先生、またソフトマターを扱う柳澤実穂先生など、生物物理・数理生物学などの境界領域を研究している教員が多く在籍しています。(2023年12月現在)
 それ以外でも、薬物送達学の野本貴大先生や深層学習などを用いた生物物理の新井宗仁先生、文系に近い言語脳科学の酒井邦嘉先生など、多くの分野の教員が1つの学科に集まっているので、ぜひ学科HPの教員紹介ページを見てみてください。

 ここに挙げた以外にも、今泉允聡先生(情報α)や野口篤史先生(先進科学Ⅰα)いった、前期教養のアドバンスト理科を受け持っている先生の下で研究ができるのも利点として挙げられるでしょう。(少なくとも実験でない科目に関しては、アドバンスト理科の全教員の下で授業、研究を受けることができます。)
 また、理論物理をしたい人で、「実験をできるだけ回避して理論の勉強がしたい」という理由で、理物や物工ではなく統合自然に来たと話す学生もいます。

統合自然科学科の欠点

 では一方で、統合自然科学科の欠点として何があるでしょう。上で挙げた利点の裏返しになるものもありますが、次のようなことが挙げられます。

  1. 「1つの科目を全て究める」ことは難しい

  2. やりたいことが既に決まっている人は合わない場合も

  3. 同期が少ない

 1は、たとえば理物や理数など、1つの科目について全てのことを扱う学科と比べた時に、どうしても統合自然では物理、数学を扱う時間が前者に比べて少なくなってしまいます。開講されている授業としても、物理や数学などそれぞれ1科目に限ると、前者より種類は少なくなってしまいます。
 例えば物理の中でも、宇宙系の授業は統合自然には殆どありません。このような分野を学びたいのであれば理物や天文、地物などに進むのが良いかと思います。(なお、再来年くらいに宇宙論の授業が出来ているかもしれません。知らんけど。)
 ただし、関数解析や量子情報のように、科目の中の1分野に絞って話をすれば、それは統合自然でも全く遜色ないと言えると思います。

 2に関しては1と繋がる面もありますが、「やりたいことが決まっていて、かつそれが統合自然で学べない」という場合は他の学科を選択する方がいいでしょう。また、統合自然で学べる場合であっても、自分の決めた1つの分野以外のことを学ぶのが好きではない人であれば、合わない場合もあるかもしれません。

 3について、あなたが「興味が近い友人と一緒に勉強、研究をしていきたい」などと考えている場合は、統合自然は向かないかもしれません。統合自然は学科全体でも50人程度で、科目ごとに分けると10人程しかいません。そこから細かい分野に分かれていくので、同期が自分と同じ分野に進もうとすることはかなり稀なことだと思います。
 実際私の場合も、今取り組んでいる分野は学科同期が誰もおらず、基本的に研究室の先生や先輩、また偶々知り合った他所の4年生などと行っている状況です。

こんな人におすすめ

 長くなりましたが、次に挙げるような人は統合自然に興味をもってもらえるのではないかと思います。

  • シラバスを見ながら時間割を組むのが好きな人

  • 1つの分野だけでなく、数学や物理、生物など色んな分野のことを知りたい

  • 自分のやりたいことが決まっておらず、色んなことを勉強していく中で確定させていきたい

  • 分野に縛られず、境界領域の研究がやりたい

  • 最先端を追うばかりではなく、基礎的な土台を身に付けたい

さいごに

 さいごに、10年以上前のものになりますが、統合自然科学科の学科紹介動画を置いておきます。

 物理と化学、文系と理系、様々なものが混ざり合う中、自らの内で統合し新たなものを切り開いていく統合自然科学科で、皆さんの進学をお待ちしています。

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