数理・物質コースってどんなとこ?

こんにちは、物質コース4年のろきです。

ここでは、東大1,2年生の進振り前の学生を念頭に、東京大学 教養学部 後期課程 統合自然科学科の「数理自然科学コース」「物質基礎科学コース」を紹介していきたいと思います。

この記事は、統合自然科学科 Advent Calendar 2023 の3日目の記事です。
統合自然科学科全体については、私が書いた2日目の記事統合自然科学科ってどんなとこ?などを参考にしてください。また、生命コースについては、同期の書いた統合生命科学コースの紹介と具体例をご覧ください。


統合自然科学科、数理・物質コースって?

 昨日の記事で書きましたが、統合自然科学科は「『自然科学知をインテグレイト(統合)する』次世代研究者の養成」を目標に設置された教養学部 後期課程(後期教養)の理系学科で、数理自然科学コース」「物質基礎科学コース」「統合生命科学コース」「認知行動科学コース」「スポーツ科学コースの5つのコースに分かれています。
 この中で「数理自然科学コース」は、主に数学・物理を中心として、自然現象の背後にある数理構造を学ぶことを目標としています。また「物質基礎科学コース」は、主に物理・化学を中心として、ミクロからマクロまで広いスケールの物質世界に対する理解を深めていくコースです。

統合自然科学科のシンボルマーク:5つのピースが組み合わさるマークになっている(出典

 この5つのコース分けは、統合自然科学科の前身である「基礎科学科」「生命・認知科学科」の流れを汲んだものとなっており、内部システムなどは大きく「数理+物質」「生命+認知(+スポーツ)」の2つのグループに分かれています。

統合自然科学科の沿革(出典;スポーツ科学サブコースは2023年度からスポーツ科学コースに変更)

 この記事では、システムが似ている「数理自然科学コース」と「物質基礎科学コース」の相違点について見ていきたいと思います。
 (その都合上、主に数学物理が中心となり、化学についての記述は少なくなります。ご了承ください。)

数理コースと物質コースの違い

 「統合自然科学科で数学や物理を学びたいが、数理コースと物質コースのどちらを志望すればいいかわからない」という人は、次のことを覚えておいてもらえると良いです。

  • 進振りの際の底点は、例年数理コースの方が高い

  • 3A・4Sの演習・実験は、数理コースの方が選択肢は多い

  • その他のことは、授業やセミナー・卒業研究も含め、両コースで全く違いがない

 1つ目については前期教養のことなので、ここでは実際に進学してからのことである後者2つについて見ていきましょう。

3A・4Sの演習・実験

 演習・実験に関して、数理コースと物質コースでは次のような違いがあり、雑に言えば「数理コースが物質コースの上位互換になっている」と言えます

  • 3A:数理コースは「数理科学演習1」を受けられる(場合がある

  • 4S:数理コースは「数理科学演習2」を受けられる(場合がある

 歯切れが悪い書き方になっていますが、そこも含めて説明していきます。

 3Aセメスターでは、数理・物質コースは基本的に全員が「物質科学実験2」(物理・化学の基礎実験)を受けることになっていますが、数理コースの一部の学生は実験の代わりに「数理科学演習1(プログラミング演習・選抜制)」を受けることができます。(物質コースは対象外。)
 数理科学演習1は、「力学系(非線形振動、カオスなど)」や「統計力学(相転移など)」などを対象に、CやPythonなど好きなプログラミング言語を用いて数値的に解析していく授業です。(2023年度現在)
 その際、数理コースだとしても希望者全員が必ずしも受けられるわけではなく、希望者の中で2A・3Sの授業で高い成績を収めた学生が選抜されます。(例年3〜6人程度。)

 同様に4Sセメスターでは、基本的に全員が「物質科学実験3」と呼ばれる、各研究室に配属されての実験研究("プレ卒業研究")が行われますが、数理コースはその代わりに「数理科学演習2」を受けることができます。(物質コースは対象外。)
 これは実験ではなく、数学科兼担の教員や理論物理の教員の下で、輪講などの勉強・研究を行う授業科目になっています。ただし、数理コースなら誰でも申請することはできますが、注意として

  • 数学・理論物理の教員を1名のみ志望できる

  • その研究室の志望者が多いと抽選になり、外れた場合は物質コースと同じ物質科学実験3の扱いとなり、実験の研究室に配属される

などがあり、必ずしも数理コース全員が受けられるわけではありません


  なお、ここで挙げた「数理>物質」の実態について、最近ではこの制度を解消し、物質コースでも同じ演習授業を受けられるようにしようとする動きもあるとか無いとからしいです。知らんけど。


 また、余談になりますが、数理・物質コースどちらも、申請すれば物質科学実験2・数理科学演習1を「統合生命科学実験2」に変更することもできます。これは生命コースの実験にあたるもので、演習実験とは異なり週3日(9コマ)を使って生命コースの各研究室を回りながら研究手法を身につけていく科目です。

授業・セミナー・卒業研究

 演習・実験とは異なり、普通の授業科目や必修のセミナー、4Aセメスターの卒業研究については、数理・物質コースとも違いがありません。ここでは特にセミナー・卒業研究について見ていきます。

 必修のセミナーについて、各セミナーの名称は

  • 2A:統合自然科学セミナー

  • 3S〜4S:数理科学セミナー1,2,3、物質科学セミナー1,2,3

となっており、一見すると3S〜4Sのセミナーは別々の授業になっているように見えますが、中身としては同じものです。
 つまり、「授業科目名は異なっているが、数理コースも物質コースも同じ教員のセミナーを受けられる」ということです。(履修登録システム的な違いからでしょうか? 知らんけど。)
 そのため、例えば

  • 数理コース:「数理科学セミナー」として、超伝導や化学のセミナーを受ける

  • 物質コース:「物質科学セミナー」として、集合・位相や関数解析のセミナーを受ける

ということが全く問題なく出来ます。(実際、私は物質コースでしたが、3Sでは群論のセミナーを受けていました。またセミナー内容の詳細は後の章をご覧ください。)

 また、4Aセメスターの卒業研究についても、数理・物質コースに違いはありません。つまり、「(数理科学演習と違い)物質コースも理論の卒業研究ができる」ということです。
 卒研の研究室配属についても、数理科学演習2と同様に「希望者が多い場合は抽選式」となっているものの、卒研では「理論の教員を複数人志望できる」となっており、数理演習に比べて少し改善されています。

 最後に、数理・物質コースの違いではないですが、4Sの演習・実験と4Aの卒研の研究室は別々の指導教員の下につくことができます
 とはいえ、半年のみで研究するよりも1年かけて行う方が出来ることが増えるので、その点から研究室を変えない学生も多いです。一方で、「様々な分野の研究に触れたい」などの理由で研究室を変える学生もいます。
 また、4月に赴任した新教員については、4Sの演習・実験では配属できないですが、4Aの卒業研究からは基本的に配属可能となっています。

他学科と比べた利点・欠点

 主な利点・欠点は2日目の記事に記してあるので、ここでは数理・物質コースに限ったものを見ます。

 他学科に比べた数理・物質の利点としては、「数理生物学・生物物理・複雑系に強い」「データ科学・数値計算に強い」などでしょうか。
 後者については今泉允聡先生や福島孝治先生などが在籍しており、セミナーや授業、卒業研究でこのような内容の勉強・研究をすることができます。

 一方で欠点としては、既に書きましたが「1つの科目を全ては扱わない」「人数が少ない」などがあるでしょう。
 特に前者の数学については、統合自然では主に解析しか扱わず、代数や幾何は殆ど無い状態です。解析に関しては統合自然でも多くのことを扱いますが、他の数学分野に興味がある場合は数学科などに行くことをお勧めします。
 また、物理においても、例えば宇宙系の先生は量子重力の野海俊文先生くらいで、宇宙論の一部についてセミナーや卒研で触れることは出来るものの、宇宙についてあまり広い範囲のことはできないのではないかと思います。

授業内容:必修・選択科目

 数理・物質コースの学生が受ける必修科目や選択科目について、その内容も含めて簡単に見ていきます。
 統合自然科学科全体の記事でも触れましたが、数理・物質コースの授業は大まかには次のように分かれています。

  • 必修:セミナー(2A〜4S、各1コマ)+演習実験(3S〜4S、各6コマ)+卒業研究(4A)

  • "選択必修":高度教養科目(2A〜4Aで合計3コマ以上)

  • 選択:他の授業全て(最低単位数の規定はある:2A〜4Aで合計約17コマ以上)

 それぞれについて見てみましょう。

必修:セミナー・演習実験・卒業研究

 まず、セミナーについては上で触れたように、2Aの「統合自然科学セミナー」と3S〜4Sの「数理科学セミナー1,2,3、物質科学セミナー1,2,3」があり、所属コースに関係なく好きな授業に参加できます。(※人気が高いと抽選に)
 これらは1つにつき4,5人程度の少人数で輪講・発表などを行う授業で、内容は毎年変わります。例えば2023年度であれば、

  • 3S:情報理論、群論、数理モデル

  • 3A:関数解析、宇宙論・重力理論、量子情報

  • 4S:関数解析、量子情報、超伝導

などの授業が開講されました。
 2Aや3Sあたりは基礎を学ぶセミナーが多いですが、4Sになると博士論文や洋書などを輪読するものが多くなり、内容も高度になっていきます。

 演習・実験に関する数理・物質コースの違いは、多くは先に書いたとおりです。ここでは「物質科学実験1,2」の内容について見ましょう。
 物質科学実験1,2は、3S3Aでターム毎に内容が変わる計4種類の実験を行います。これらは物理・化学で2つずつあり、

  • 自然現象における揺らぎ(物理):測定技術、揺らぎ(揺動散逸など)

  • 物質の姿(物理):超伝導(試料作成〜測定)、回折

  • 分子の機能(化学):有機合成、機能解析

  • 光と分子(化学):分子分光、量子化学計算

の合計4つです。昨日の記事にも書きましたが、最先端の実験を行うというよりは、それらの基礎となっている実験の手法などを理解・習得することが目的となっているような内容構成です。
 物質科学実験では、基礎物理学実験のような実験ノートへの異常な執念は無く、実験参加と実験レポート(ターム末or複数回)がメインとなります。また、レポートはwordやTeXによる電子作成です。(当然ですがグラフは手書きではありません。)

 卒業研究については既に書いたので割愛します。

"選択必修":高度教養科目

 後期教養の各学科では、「高度教養科目」に指定された授業を2A〜4Aの間で計3コマ以上取得する必要があります。
 高度教養科目にはいくつか種類がありますが、その中で統合自然科学科の学生をメインの対象とする授業として、「"コース概論"」「科学技術社会論」「Advanced ALESS 1,2」があります。

 "コース概論"(概論)は、「数理科学概論」から「スポーツ科学概論」まで5種類あり、それぞれ統合自然科学科の各コースの教員が1週ずつ話していくオムニバス授業です。(そのため、概論のみで3コマを埋める学生も多いです。)
 内容は主に研究室紹介を兼ねた分野解説になりますが、稀にその年のノーベル賞を解説する教員などもいます。

 科学技術社会論(Science, Technology, and Society:STS)は、その名の通り科学技術と社会との関わりについて学ぶ授業で、実際の事例の紹介を受けたり、ディスカッションやプレゼン発表などを行います。最終レポートでは各自で事例を選び、それをSTSの知見から考察していきます(A4 5ページ)。

 Advanced ALESS 1,2は、ALESSの発展形に位置付けられるもので、その年の教員によって内容は変わりますが、文献を読んだり発表のスキルを身につけていきます。主に統合自然科学科の学生を対象としていますが、必修ではないので受講者はそう多くないです。(私もALESSには嫌な思い出があるので受講していません。)

選択:それ以外全て

 ここまでに挙げた授業以外は全て選択になり、最低単位数の規定を満たしてさえいれば、どんな授業をどこまで取ろうと(取らないでいようと)自由です。その規定も、ざっくり言えば「2A〜4Aで合計約17コマ以上の単位取得」であり、単純に割れば各セメスターで3,4コマなので余裕で超えられます。
 また、演習・実験と異なり、ここに含まれる授業は数理・物質コースの垣根なく自由に履修することができます。

 数学系では、「常・偏微分方程式論」「実解析1,2(ルベーグ積分、フーリエ解析)」「複素解析学」などの解析系の授業が多くあります。また、「数理代数学(群、環)」「数理情報学(オートマトン)」「計算数理(数値計算)」「確率統計1,2」といった授業などもあります。

 物理系では、「電磁気学」「量子力学1,2,3」「統計力学1,2」などの基本的な科目や、「物性物理学1,2」「凝縮系物理学」などの物性物理、「量子エレクトロニクス」「情報と計算の物理」などの情報に近い授業などがあります。また、4年生科目として「素粒子物理学」や「一般相対論」なども存在します。
 注意としては、統合自然の科目としては「解析力学」が授業として開講されていません。そのため、前期課程の「解析力学」(Aセメスター木曜1限)や物理工学科、物理学科などの「解析力学」(Aセメスター;木曜2限、月曜3,4限)などの授業を受けたり、自習や自主ゼミで補う必要があります。

 授業について詳細が気になる方は、学科HPのカリキュラム・時間割やシラバスをご覧くださいい。

おわりに

 この記事では、数理コース・物質コースの違いを中心に、利点欠点や授業内容などについて書いてきました。ここまでの繰り返しになりますが、両者について考える際は、

  • 座学などの授業やセミナー・卒業研究は、数理・物質コースともに差はない

  • 現状、数理コースの方が物質コースより出来ることの幅が僅かに広い(実験→演習についてのみ

などに注意して考えてもらえると良いかと思います。

 この記事で記したことが、進振りに迷う皆さんの一助になれば幸いです。最後まで読んでいただきありがとうございました。


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