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連続読み物「いつか教科書で見たあの名作」

いつか教科書で見たあの名作 その2      黒田清輝《湖畔》 

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                出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)
    黒田清輝《湖畔》 1897年 東京国立博物館蔵 重要文化財              

 箱根の芦ノ湖を背景に、団扇をつかい涼をとる浴衣美人。ゆったりと着こなした浴衣の色と柄を映したようなおだやかな湖面が、かすかにさざ波を立てています。向こう岸に連なる山も空も、夏の湿気をはらんで淡くかすんでいるかに見えます。描いたのは黒田清輝。モデルは照子夫人。その艶やかで凛とした風情に思わず惹きこまれます。

 黒田は、日本の「近代洋画の父」と言われる画家です。フランス留学中に師事したラファエル・コランから、自然光による明るい色彩を描く技法を学びました。帰国後、東京美術学校に西洋画科が創設されると、その指導者として迎えられ、ながく後進の育成にあたることになります。表現者としての立場と教育者として負わなければならない責任。明治という時代の転換期ならではの特殊な舞台装置も加わり、難しい役どころだったことが容易に推察されますが、大役を演じきりました。

 《見返り美人図》と同様、切手にもなったこの作品。避暑地の湖畔で佇む麗しき姿に、現代の礎となった明治の古き良き時代の憧れの女性像が重なります。

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