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160.落語番組についてのメモ1『落語ディーパー!』

Eテレ『落語ディーパー!〜東出・一之輔の噺のはなし〜』の新シリーズがこの9月に放送される。

番組のホームページから、紹介文を引用してみよう。

若い世代が落語を知らないなんてもったいない!落語に魅せられた東出昌大が春風亭一之輔たち落語家と、毎回ひとつの演目をとりあげ、深~く語り合います。名人のお宝映像やスペシャルゲストも登場。そして番組で収録した落語の動画をこのホームページで番組放送後、期間限定で公開します。

僕は割とこの番組が好きなので、今回は「観てみてね〜」というレコメンドの意味を込めて、簡単に紹介してみようと思う(文中、人物名は敬称略)。

番組をサブテキストにするEテレアプローチ

この番組、落語ファンの中には否定的な反応をしている人もいる。その意見として一番よく見かけるのは「落語本編を一席ちゃんと流さないのがダメ」ということだ。まぁ、「せっかくだったら演目一本まるっと見せてくれ」という気もちも分からないではない。

ただし、この番組のターゲットはあくまで「落語を知らない若い世代」だ。落語を知らない人にいきなり「まるっと30分、テレビの前で落語を観てね」というのはハードルが高い。一席流すとなると、番組を途中から観た人は話がわからなくて離脱する可能性もある。その上、NHKには『日本の話芸』を始め、落語を放送する演芸番組だってあるわけだから、わざわざ落語を紹介する番組で一席全編流さなくてもいいだろう。(ちなみに「落語とテレビは親和性が低い」という指摘をしている落語家もいる。その問題を解消する試みだったのがNHK『超入門!落語 THE MOVIE』だったのだが、それはまたの機会に書く)

落語を全編流すのは、初心者向け番組としては得策でない。そこで『落語ディーパー!』は番組自体を演目のサブテキスト化する、というアプローチを選んだ。落語についての解説をふまえて、WEBにある本編動画へ流入していく流れを作っている。このあたり、例えば同じEテレの『100分de名著』などと同じような構成だ。「落語入門」をEテレのメソッドで作ると『落語ディーパー!』になる。

ディープ過ぎる内容と、「落語家の目線」

さて、番組の内容の方へ話題を移すと、30分間の話の深堀り具合がハンパない。演目のあらすじ紹介や時代背景の解説はそこそこに、演者による演出の違いとか、出演している落語家さんたちが考えていることなど、かなりマニアック方向に振っている感じがある。
第一弾の初回なんて「目黒のさんま」で殿さまがさんまを食べるシーンをどのように演じているか、馬生・圓楽・市馬の映像を見比べるなんてことをやっていた。「あたま山」の回では、立川談志の提唱した「落語のイリュージョン」について取り上げている。テレビを見ながら「初心者向けとは思えないぞ……」と思ったものだ。

とはいえ、ネタを各回のお題にしつつ、それについて落語家がどのように考えているのか紹介するところに時間を割いているのはいいなぁ、と思った。
以前、別のnoteでも書いたが、落語は同じネタでも落語家によって演出が異なる。あるいは、声質やテンポが、あるいはストーリー展開すら変わってしまうことがある。この点、落語ファンにとっては共通認識だろう。
しかし、落語を聴き慣れていない視聴者の中には、演者によるバリエーションにまで思い至らない人も多いはず。そういう人たちに、「同じネタでも演者によって全然違う!」という気付きを与えてくれる落語ディーパーは、本質的な「落語入門」のツボをしっかり押さえていると思う。

東出昌大という人選のナイスさ

「落語入門番組」の出演者で重要なのは、視聴者との橋渡し役となるメインパーソナリティだろう。変に落語についてマニアックに詳しい人だと、話の内容が内輪になってしまう。落語に詳しくない人を選ぶ手もあるが、あんまりメインパーソナリティが前提知識を知らな過ぎると、深堀りする手前で話が止まる。この難しいポジションに、東出昌大をキャスティングしたのはかなりの慧眼だったと思う。

東出昌大が以前より落語を愛好していたのは知っていたが(東京かわら版に巻頭コラムを書いていたのも読んだ)、いざ番組が始まると、めちゃくちゃ詳しいのに驚いた。「目黒のさんま」回では十代目金原亭馬生が好きだと語り、馬生が色紙によく書いた文言についてさらっと話して、共演者たちが明らかに「この人、ガチだ……」と勢いに押されている一幕があった。音源で落語を聴く際は、「花火を見たいときはたが屋を聴くとか、夏の暑いときは船徳、寒いときは二番煎じを聴くとか」と季節感でネタを選ぶという東出。思っていたより造詣が深い……。
その上、「フラ」など落語家内の符牒については知らなかったりして、あくまで観客として素朴に楽しんでいるスタンスのため、トークが内輪な感じにはならない。落語マニア特有の面倒くさい自意識なんて微塵も感じられないところに、面倒くさい落語ファンの僕はものすごく好感を持っている。

また、彼自身が俳優という「演じる職業」なので、落語とドラマ・映画で「演じること」にどのような違いがあるのかも浮き彫りになる。落語内だけの話でなく、隣接する他ジャンルと比較することで、落語自体に詳しくない視聴者でも面白く見れる作りだ。

まぁ、もろもろの能書きはさておき、東出昌大がものすごく楽しそうに落語家たちのトークを聞いている姿がものすごくいい。こういう爽やかで人気もある好青年が「落語って面白い」と言ってくれるだけで、落語界にとってはプラスだよなぁと思う。

というわけで、今回は『落語ディーパー』の個人的な推しポイントを紹介してみた。9月の毎週月曜・午後10時50分~Eテレで放送なので、チェックしてもらえると嬉しい。初回の9月2日は柳家喬太郎ゲスト回で「怪談 牡丹灯籠」だよ!

※ちなみに落語番組についてのメモでは今後、『超入門!落語 THE MOVIE』『噺家が闇夜でコソコソ』のことを書けたらいいなと思う。

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