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267.好きなWEB記事、WEB連載の話 その1『滝沢カレンの物語の一歩先へ』

好きな本や、音楽、映画の話はみんなよくするのに、「好きなWEB連載は~」「このWEB記事が私の人生を変えた!」みたいな話をする機会はそれほどない。もうインターネットも普及して随分経つのだから、そろそろWEB記事の話をみんなもした方がいいんじゃないか。

個人的にWEB記事アンソロジーとか編みたいし、誰かが編んだものも読みたいんですよ。「今年印象に残った記事10選」とかで記事を選出していく企画。これなら記事のURL貼っていくだけでもいいから、note内とかでも完結するし。

という考えもあり、今回は試しに好きなWEB連載について書いてみる。
紹介するのは朝日新聞社が運営する書籍情報サイト「好書好日」内で連載されている、『滝沢カレンの物語の一歩先へ』だ。

滝沢カレンといえばファッションモデルとして活躍しながら、独特の言語感覚が話題となり、バラエティ番組にひっぱりだこのタレントだ(いま調べたら僕と同じ1992年生まれ)。見ない日はないくらいテレビに出ている。

そんな彼女が世界の名作のタイトルやあらすじをヒントにして、滝沢流のストーリーを空想していく、という連載が『物語の一歩先へ』。
まず、企画説明で、滝沢カレンを紹介する一文が最高だ。

読書が趣味だけれど、1行読むたびに想像がふくらんで1年で1冊しか読めないという滝沢カレンさん。

この記述がもう素晴らしすぎませんか。
読書好きっていうとどうしても、「年間何十冊、何百冊と読む」みたいな分量の話をしてしまいがちだけれど、1年1冊読みこむスローな書籍との関わり方だって、読書好き以外のなにものでもないじゃん!!
もうこの紹介文の時点で、僕はいたく感動してしまったのだ。

さて連載本文。滝沢カレンが物語を妄想していくわけだが、これはもう一読してもらうしかない。おそらく連載の担当編集者もテイストを損なわないように最低限の校正しかしていないのだろう、ワンダーな言語表現と思いもよらぬ展開が次々と飛び出してくるのだ。
与謝野晶子『みだれ髪』回の冒頭を引用してみよう(そもそも『みだれ髪』って歌集なのだが、そんなのはお構いなしだ!)。

これは遥か昔のムクッと温かい、情熱溢れる物語です。

時代は昔々の○○時代と呼ばれてしまうほどの昔だ。
春の木漏れ日が掬うように障子から突き刺さり、桜の花がペタペタと地面にお化粧するかのように散り下がる。
春も春でいいとこだ。
ピンクから茶系に差し掛かる桜は早く存在自体をチリトリにされてしまいたいようにはじに集まる。

もう書き出しからしてこの調子だ。登場人物すら出てきてないのに、全文章が謎のパワーで満ち満ちている。
「遥か昔の情熱溢れる物語」という堅めな字面に、突如挿入される「ムクッと温かい」のやわらかさ。
普通なら「明治時代」や「江戸時代後期」と言ってしまうところを、「○○時代と呼ばれてしまうほどの昔」と記述する思い切りの良さ。そしてここでふと僕は「たしかに、平成時代や昭和時代って言わないもんな。ある程度昔になると『○○時代』と呼ぶようになるのかな。だとしたらその区切りはどこから……?」などと考え込んだりもする。
よく読むと意味が取れないのに、さーっと読むと春の日差しや散り始めた桜の花びらが鮮やかに思い浮かぶ情景描写、「春も春でいいとこだ」という身も蓋もない感想(しかし、自分もある春の日にそんな風に感じたことがあった気もする)、「存在自体をチリトリにされてしまいたい」という比喩……。

いろんな部分を気にかけているうちに、僕もまた「1行読むたびに想像がふくらむ」という滝沢流読書を体験させられる。
しかも、冒頭でこの調子だというのに、滝沢カレンの『みだれ髪』は6000字くらいあるのだ。めちゃくちゃ楽しく読める。

「単に文章を書くのがヘタなだけでは……」という人もいるかもしれない。確かに読みにくさはあるけど、それは僕らが普段書いている文章表現の「常識的なものさし」で読もうとしているからだろう。
空想をできるだけ率直に伝えるべく、のびのびと振るわれる滝沢カレンの言葉は、「常識的なものさし」を大きくはみ出してきて、「文章かくあるべし」なんて凝り固まった考えを解きほぐしてくれる。
……とそこまで大層な話ではなく、ただ、面白いから読んでね、というだけなんだけどね。

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