見出し画像

138 夕方のジャムトースト

休日に夢中で本を読んでいると、なんとなく活字が見えにくくなったな、と思い顔をあげたら夕方でした。秋の夕方はほんの一瞬。あ、と思ったら、すぐに夜になっています。
窓から見える夕方の空はとてもきれいで、顔をあげてよかった、と思いました。

早足で過ぎる雲。オレンジ色の空気。
今日一日にさよならを告げる太陽の光は、心底あたたかくて贈りもののようです。

そんな風に夕方に見惚れていると、ほら、もう夜です。
この夕暮れを目にとどめたい、と思いました。

冷蔵庫を開けると、ジャムがふたつ並んでいました。
前に母からお裾分けされたものです。
りんごとオレンジ・マーマレード。

少し時間は遅いけれど、お茶にしましょう。
パンを薄くスライスして、トーストします。
かりっとさせたら、熱いままジャムを塗っていただきます。
どちらのジャムにしようか悩んだので、両方のせました。

りんごとオレンジの境目は夕暮れのよう。
果肉の形が少し残った果物を感じるジャム。
確実に夜に向かって暗くなっていく中、ジャムの甘さが胸に染みて、涙が出ました。

どうして出た涙なのかわかりません。
でも、母が背中に手を添えてくれたような気がしたのです。

ここ最近続いている体調不良は、いつの間にか心まで蝕んでいました。
薬の副作用を恨み、精密検査をしても原因究明できない病院に苛立ち、大きく広がったり改善したり、かと思えばまた悪化するを繰り返しながら常に痛みを発する皮膚炎に一喜一憂して、仕事を思うようにできない状況に焦燥感を覚え…。
いつも夜の中を一人で歩いている気持ちでした。

でも、私が一番嫌だったのは、自分をコントロールできないことを病気のせいにしてしまうことでした。

情けなくて、でもここで泣くのは違う気がして、踏ん張っていました。
前にジャムトーストを食べたのはいつだっただろう。
きっと、病気になる前でした。
多少成果が出なくても、くさらずに前を向いていたころでした。
そのころは「すぐに成果を求めてはいけない。こつこつ積み重ねる音は、きっと自信につながる」と思っていました。
忙しくて、台所で立ったまま食べたトースト。

そのころも、今も、きっと果物の甘さと手作りから感じる母のあたたかさが私を支えてくれていました。

ことこととがんばっていくしかないよね。
すっぱいときはお砂糖を足して。
ごろごろに切った果物の形が崩れたって、その方がおいしいじゃない。
煮詰まったら取りだして、冷ましましょ。

ときどき目にする美しい景色をしっかりと頭の中に保存して、つらいときには味わいましょ。そのとき涙がこぼれたとしても、大丈夫。
また心ふるえるほどのきれいな夕方はくるよ。

そんな、夕方と夜のはざまにある曖昧な時間に紅茶とジャムトーストの香りの中で思ったことでした。

今回も最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

-----------------------------
Twitterもしています。
ゆるゆるとプチふむふむともくもくをつぶやいています。
写真やnoteで紹介したイラストを載せています。
ぜひ遊びに来てくださいね。
アカウント名:@fumu_moku
URL:https://twitter.com/fumu_moku

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?