見出し画像

131 熱帯夜熱帯魚

暑さで目が覚める季節です。
しっとりと湿気を帯びていて、寝苦しい夜。
私は、ずっとエアコンをつけておくことにどうしても抵抗があって、夜中にタイマーをかけて自動で切れるよう設定しています。そうすると、エアコンが切れた数時間後に目が覚めてしまいます。

この前も、寝苦しくて目を覚ましました。
ベッドの横にある窓の向こうには、朝の気配すらない真っ暗な夜が広がっています。
じっとりとパジャマが張り付くような感覚。
髪の毛すら煩わしく、すっかり目が冴えてしまいました。

午前4時すぎ。物音ひとつしません。
今日が休日でよかった…。
そう思いながら、シャワーを浴びることにしました。

蛇口をひねると、なぜかお湯は出てきませんでした。
温度を上げても、ぬるくしかなりません。

もういいや。
そう思い、頭からぬるま湯を浴びます。
目を閉じると、水の音が大きく聞こえます。

ざぁざぁざぁ

なんだか、小さな滝みたいです。

しゃあしゃあしゃあ

雨のようにも聞こえます。

昔、雨の日に滝を見に行ったことがあります。
なぜかはわかりません。
ただ、私は今よりも幾年か若かったですし、一緒に行った青年も幾年か若かったのです。

突然降り始めた雨に、スーパーで購入したビニール傘。
大きめの滝は水をざばざば落としていて、滝つぼはこんこんと潤っています。
私も彼も無言でそれを眺めていました。
いえ、話していたのかもしれません。私も彼も声が大きい方ではないので、水の音に負けたのかもしれません。

その中で覚えているのが、彼がぽつんと言った言葉だけです。

「こういう日にだけ出てくる魚がいる気がするね。白か水色で、半透明の魚。雨の日だけ出てくるきれいな魚」

なんだかくたびれたから滝を見に行こうよ、と言っていた彼。
予期せぬ雨が降り始めて、少しがっかりしているのかな、と思っていましたが、きちんと楽しんでいるようでした。

夏の夕立ちの中、暑さを忘れて水の中にいた二人。
なんとなく行き場がなくて、行き先もわからなくて、立ち止まっていた二人。
目に見えない魚を見ていました。

お風呂から出ると、外は少しだけ明るくなっていました。
すっかり涼しくなって、そよそよと扇風機から出る風を浴びます。

体がすみずみまで水分を含んで、いい気持ち。
寝苦しい夜だって、水で流せばこんなに心地良い。

そして、寝苦しい夜はやがて明けます。雨が上がるように。
立ち止まっていた二人が、いつの間にか歩き出すように。

またあの魚を見たいな。


どこかで風鈴が揺れています。

今日が休日でよかった。
さっぱりとした一日のはじまりです。

今回も最後まで読んでくださって、ありがとうございました。


-------------------
Twitterもしています。
ゆるゆるとプチふむふむともくもくをつぶやいています。
写真やnoteで紹介したイラストを載せています。
ぜひ遊びに来てくださいね。
アカウント名:@fumu_moku
URL:https://twitter.com/fumu_moku


この記事が参加している募集

夏の思い出

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?