マガジンのカバー画像

ふむもくエッセイ

109
ふむふむと思ったことと、もくもくと感じたうれしいことを集めました。
運営しているクリエイター

#秋

174 記憶を花束にして

風がすっと冷たくなった。 それは本当に突然のことで、ある日の雨上がり、窓を開けるとすでに冬に近い秋がいた。 「久しぶり」 冷たい空気に、そう言われた気がした。 秋生まれの私は、空気が冷たくなってくると元気になる。 晴れているのに肌寒い。雲はぞろぞろと流れていく。夕陽が作る影は夏より濃く感じる。 べたべたしていない優しさというか、凛とした甘さというか。 そういうさっぱりした感じが好きで、うきうきしながら秋冬の支度をする。 部屋で履く靴下を出したり、湯たんぽを探したり。

172 金木犀と深呼吸

気がついたら、夕方になる時間が早くなっていた。 お昼の気温が高くても夏と明らかに違うと感じるのは、きっと夜の存在が少しずつ濃くなってきたからだろう。 夜に向かう時間を味わいたくて、仕事を早めに切り上げた日のことだ。 別に何をするでもなく、ただ夕暮れに染まる街や川や木を見に外へ出た。 歩いていると、ばったり父に出会った。 わりと近くに住んでいるのに、顔を見るのは久しぶりだった。 「ちょっと背が伸びたんじゃないか」 父にそう言われて、心がくしゃっと寂しくなった。 私は中学2

170 秋の気配とチーズケーキ

この夏はずっと雨が降っていて薄暗い毎日だったので、目覚めたときに部屋が明るいとうれしい。 午前中、窓を開けて仕事をしていたら、青空が近く感じられて心強かった。 遠くで聞こえる、のんびりした工事の音(天気が不安定だったので、工事もなかなか進まなかったようだ)、車の音。ときどき誰かの話し声も聞こえるような。 私が知っている人も大切な人も、今ごろ誰かと話しているかな。 車に乗っているかも。もしかしたら、工事現場の近くを歩いているかも。 自然の音も心落ち着くやさしい音楽だ。

080 はちみつを落として

ときどき、頭に浮かぶ言葉があります。 それはひとつではなくて、そのときそのときで色々な言葉が浮かびます。 ほとんどが本の中や映画、テレビ、誰かとの会話の中で出会ったもので、そういった言葉たちがひょいと、それはもう自然に顔を出します。 そして一度顔を出したらしばらく漂っています。 -------------------- 朝早くごみ出しをしたら、さむくて震えました。 でも、そのさむさが心地良くて、部屋に戻って窓を開けました。 外と変わらない、つめたい空気がすいすいと入ってき

066 星くずの香り

秋が進むとともに空はぐんぐん澄んでゆきます。 「天高し」や「爽やか」といった言葉がぴったりな日々。 空気がさっぱりと涼しくて、肌も汗ばむことなく心地よい秋は、五感が研ぎすまされるような気がします。 そろそろアロマオイルを買わなくちゃ、と思ってお店に行きました。 お目当てのブレンドオイルを手にレジへ向かおうとしたら、はっと呼び止められたような気がして振り向きました。どこからか、なつかしい香りがしました。 香りのする方を見ると、金木犀のアロマオイルが置いてありました。 金木犀

048 ほっこりくつした

みなさんは秋のしたくをしましたか。 お昼はまだ暑いのですが、朝と夜は暑さがやわらいできました。 会社へ出勤するときに空を高く感じたり、洗濯物を干すときにからっとした空気が頬をなでたり。街もじわじわと秋色になりつつあるので、秋に履きたいくつしたを買いに行きました。 くつしたはやるべくしっかりとした作りで、やわらかい手触りのものを選びます。 私はモノを選ぶのがとても遅いです。これいいなと思っても、あれと合うかしら、色はこれで良いかしら、などぐるぐると考えてしまいます。 くつした