マガジンのカバー画像

ふむもくエッセイ

109
ふむふむと思ったことと、もくもくと感じたうれしいことを集めました。
運営しているクリエイター

2020年3月の記事一覧

111 真夜中のチャイ

その日も残業して、ぎりぎり終電に乗って帰り、家に着いたら23時40分でした。 マンションのエントランスは、明かりがついていてもどこかうす暗くて、もちろんだれもいません。ポストを開ける音がずいぶん響く、静かな夜です。 部屋に入ったら、鞄を置いて、スーツをクローゼットにかけて、顔を洗います。 心なしか、水が冷たさをやわらげたような気がして、春を肌で感じます。 さっぱりした顔で、部屋着になって台所に立ちます。 冷蔵庫に手をかけたとき、こんな声が聞こえました。 今日の記憶がない

110 なつかしい約束

すっかり春になった空の下で、その日も電車に乗りました。 ゆらゆらと揺れながら、繰り返されてきたいくつもの午前と同じように その日も電車の中で立っていました。 冬は曇り空が多かったので本ばかり読んでいましたが、まばゆい光が 美しい今の季節は、電車の窓から見える風景を楽しんでいます。 仕事場に着くまでに電車は3つの川を超えます。 川はそれぞれの輝き方で太陽を受け止めています。 大きめのたっぷりとした川、幅はやや細いけれど土手が充実している川、緑色の橋がかかった川。 どの水面も