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アントワープのユダヤ人

初めてアントワープに行った。
デュッセルドルフに行くついでに足を伸ばした。
デュッセルドルフからは、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクなどは指呼の間である。

ホテルに荷物を置き街に出る。
クリストファー・ストリート・デイ最終日ということもあり、壮麗な建造物には虹色の装飾がほどこされ、ドラアグクイーンと思しき派手な方々が旧市街を闊歩する。

しかし、目に立ったのは、「世界の最も美しい駅10選」に選ばれた中央駅でも、「フランダースの犬」のネロが見たいと焦がれた大聖堂のルーベンスでもない。

ユダヤ人の多さである。
ヤムルカという頭頂に載せる小さな帽子をかぶった人も、ウルトラオーソドックスと呼ばれる超正統派の出立ちをしたユダヤ人も居る。
ウルトラオーソドックスのユダヤ人は盛夏の候、黒い長いコート、黒い帽子、髭、長く伸ばしたもみあげで街を行く。
長いコートで自転車に乗っている人も多い。
これが、ドイツから行ったわたしには驚愕であった。

アントワープには、ヨーロッパ最大のユダヤ人街がある。
ユダヤ人と切っても切れない関係にあるのがダイヤモンド産業。
15世紀中頃に1人のユダヤ人が研磨技術を開発、以来、多数のユダヤ人技術者が集まったアントワープには、現代にまで続く世界最大のダイヤモンド街が出来上がる。

街の発展に一役も二役も買ったダイヤモンド産業、そしてユダヤ人。

彼らが、アントワープの街を「ユダヤ人」とはっきり分かる出立ちで行き交うことが出来るのは、ユダヤ人がこの街の隆盛の立役者であったこと、ベルギーが西ヨーロッパの中心に位置し、様々な国の支配を受けた結果、多様性を抱える国となったことと無関係ではないだろう。

ドイツで、ヤムルカやウルトラオーソドックスの装いを見ることは、ほぼ無い。
ハマスとイスラエルの衝突以来、ベルリンの大学講内で、イスラエル人がアラブ人に襲われる事件が相次いだ。
自分の宗教を表明する出立ちでいることは危険なことであるはずだ。

最近、ベルリンに住むあるユダヤ人のインタビューを読んだ。
「あなたはヤムルカをかぶっていますね?」
と聞かれて彼は答える。
「勿論、ユダヤ人が道を行くのが普通なことで、誰もジロジロ見たりしない社会を望む。でも、そうじゃない。色んな視線がある。単に、『へえ、興味深い。』っていうポジティブでもネガティブでもないニュートラルな視線。『うえっ、なんでここに居やがるんだ。』という否定的な視線。何か言ってくるわけじゃないけどね。最後が『おお!君たちまだ居たんだね。💖』というポジティブな視線。」



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