繊細な心にそっと寄り添い、包み込んでくれる 『檸檬』梶井基次郎
梶井基次郎の「檸檬」を初めて出会ったのは、体調を崩した日のことだった。数日間、微熱が続いていた私は、気が参ってしまい、孤独感に襲われていた。気晴らしに本を読みたいと思ったが、本を読む気力はなかった。
布団で横になっていても退屈だったので、朗読を聴きあさっていた。そのうちの一つが、梶井基次郎の「檸檬」だった。人の声によって紡がれていく文学の世界に、私は惹き込まれた。
この作品に漂う孤独感や哀愁が、私は好きだった。繊細に揺れ動く感情を、ひとつひとつ、丁寧に掬ってくれてい