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「健康なバズ」が中国ニュースに必要だ。テレビ局→ウェブメディア記者が「音声」を選ぶ理由

「若い人はテレビを見ない」だの、「新聞社は斜陽産業」だの。

メディアの世界に生きる私たちは、ずっと厳しいことを言われてきました。何年も同じ「問題」を突きつけられているのに、解決策はまだ無し。

かくいう私も、どうすれば良いかは分かりません。

答えを見つけるため、私はテレビ局を辞めウェブメディアの世界に飛び込みました。そこで感じたことは、無理して「バズ」を追わないほうがいいジャンルもあるということ。このnoteでは、テレビ局記者だった私が、ウェブメディアで「バズらない」音声をやろうと考えるようになった経緯をお伝えしたいと思います。

誰も見てないの!?

私はウェブメディア「ハフポスト」で記者をしています。ただ、ほんの3年前まではNHKに在籍していました。静岡県などで事件・事故や選挙を担当する記者だったのです。

そこで言われてきたのが「若い人はウチの番組を見ない」というもの。別に若い人が見る=良いとは限りませんが、ニュースの作り手としては、これからを担う世代に見て欲しい、というのは綺麗事ぬきの本音です。

実際、7〜8分の特集だって物凄い労力をかけています。数ヶ月かけたリサーチとロケ、そして積み重なった映像テープの山を前に、編集マンと二人、デスクの悪口を叩きながら徹夜することだって1度や2度ではありません。

しかし、見てくれない。地域の大学などに足を運ぶと、おったまげるほど優秀な学生に出会うこともしばしば。彼らは、地域、ひいては日本社会そのものを変えるという熱い意志を持っていました。しかしNHKですら「普段は見ないっすね汗」と言われてしまうのです。

「バイラル」という武器

2019年、私はNHKからハフポストに転職します。担当も中国一本になりました。理由は色々あるのですが、自分の書いたニュースが読者に「届いている」という実感に飢えていたのは大きい。

ウェブメディアの特性は「バイラル」するという点にあります。元は「Viral(ウイルス性の)」という意味ですが、SNSや口コミでどんどん拡散されることを指します。

これは良かった。例えば普段、ハフポストをアプリから見てくれている読者には全く刺さらないニュースでも、配信先のLINEニュースを読む人なら「お?」と思ってくれるかもしれない。プラットフォームごとの読者にアプローチできるのは、NHKではできない体験でした。

ただここでも問題が発生します。

中国ネタをバイラルさせるのは、思ったよりも簡単じゃない。

考えれば当たり前です。芸能やスポーツ、政治などと比べて、中国ニュースを身近に感じる人は多くありません。

しかし、無理に「バズらせよう」とするのは良くない。中国政府や共産党には否定的な見方もあって当たり前だと(個人的には)思いますが、報道の役割はファクトに根ざした「考える材料」を提供すること。タイトルなどで過度に煽ってしまえばそれが一人歩きし、偏見や負の感情を増長させかねない。それは、特定の国々を敵視するまとめサイトなどを見れば一目瞭然かと思います。

もちろんPV(ページビュー)はとても大事です。読まれない記事は存在しないも同じ。でも中国ニュースは(変な言い方ですが)「健康なバズ」が特に強く求められるのです。

ここ2年くらいの試行錯誤の中で、それに成功した例もあります。

例えばこれ。

あとは、これもそうです。

いずれも、偏見やヘイトスピーチを助長せずに、記事の伝えたいメッセージが広がっていき、SNS上の会話につながっていきました(私の観測範囲内ですが)。

ただ、毎回それができるとは限らない。むしろこれはレアケースです。

「健康なバズ」で加速度的にバイラルさせる努力も必要。その一方で、中国ニュースをじんわりと広げられる場所を次第に求めるようになりました。

取材のはずが、スカウト

そんなことを漫然と考えていた私は、2020年1月に中国発の音声プラットフォーム「ヒマラヤ」に出会います。きっかけは、単純に日本でのビジネスモデルを知りたくて、ヒマラヤの日本法人を取材に訪れたことです。記者の私は当然ICレコーダーを取り出したのですが、なんと取材相手のヒマラヤ幹部も同じように会話を録音し始めたのです。

取材は40分ほど。そのあと、相手からの逆取材が50分。8年くらいの記者人生で初めての展開です。そして、会話が終わるとおもむろに、

「うちで音声番組をやりませんか?」

とスカウトが掛かりました。何かに合格したようです。結局、そこから半年・72話にわたって中国経済をテーマにしたニュース番組を続けました。

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収穫は間違いなくありました。リスナーの数はハフポストの記事と比べると泣きたくなるくらい少ないのですが、その一方でほとんどの人が番組終了まで聞いてくれている。

オープニングを聞いた後、エンディングまでの離脱者がほぼ0という回もありました。これは文字ベースの記事ではなかなか考えられないことです。

それに、リアルで出会う取材先に「聞いていますよ」と声を掛けられることも何度かありました。じっくりニュースを広げる手法として、音声は有望かもしれない。そんなことを感じたのです。

clubhouseでいいじゃん!と思ったけども

そんなとき、日本で流行ったのが音声SNSのclubhouseです。彗星の如く現れ、スタートアップ界隈やインフルエンサーを巻き込んでいきました。

「これ、podcast終わるかもなあ」。そんなことを思った私は、取材先を巻き込んでせっせとroomを立ち上げてはトークに参加していきました。波に乗り遅れるなとばかりに。

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しかし、しばらくやってみた結果「clubhouseはpodcastを駆逐しないだろう」という暫定的な結論にたどり着きます。

理由は単純。clubhouseは素晴らしいけど、疲れる。

記者は常在戦場。とはいえ、休日や夜間などどこかでスイッチをOFFにしないと壊れます。clubhouseはログが保存されないSNSです。取材先などがroomを主催していると「やばい、話題に乗り遅れる、聞かなきゃ」と焦燥感に駆られます。最初の10日間くらいは何とかなりますが、段々とclubhouseの通知が恐怖になってくるのです。

かたやpodcastは「いつでも、どこでも」という気軽さが売りです。clubhouseのユーザーがpodcastに遷移するとは考えていませんが、podcastユーザーにとってはその良さが際立ったのではないでしょうか。

私の記事でなくてもいい

と、いうわけでclubhouse旋風が収まらないこのタイミングですが、podcastを再び始めようと思います。

テーマは中国ニュースが「予習なし」でわかる番組。中国の情報は大事だけどまだ情報収拾できていない、いつかやりたい、というような方をイメージして発信していこうと思います。

正直、今の音声市場の規模感で、この番組がバズるとは全く思っていません。

それでもいいかなと思っています。なにせ、中国のニュースですから。「中国はスゴイ!」でも「ほらやっぱり恐ろしい国だ!」でもなく、じっくり伝わるニュースを、何百人かにお伝えしたい。その人たちが、SNSなどで中国ニュースを「健康的なバズ」に変えていく原動力になっていってほしい。

それは、私の書いた記事じゃなくたっていいわけです。中国ニュースに向き合い、乱暴な言葉や偏見を抜きに語り合う空気が徐々に生まれていけば、記者としての役割は果たしたと言えるのではないでしょうか。

そんな野望を抱きながら、音声番組を始めます。

まあ、これじゃあ目先のカネにはならないのだけど。

世の役に立ちたいから、じゃあダメですかね...。

その辺、NHK時代の癖がまだ抜けていないのかもしれません。

(音声番組「#ハフちゃいな」第一回はこちら)

記事に出てきた「ヒマラヤ」でも引き続きお聴きいただけます。




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