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建設アスベスト訴訟

令和3年5月17日最高裁判所第一小法廷


概要

労働大臣が建設現場における石綿関連疾患の発生防止のために労働安全衛生法に基づく規制権限を行使しなかったことが屋内の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した者のうち労働者に該当しない者との関係において国家賠償法1条1項の適用上違法であるとされた事例。

  • 一人親方Xらは、石綿粉塵により肺がん等に罹患した。

  • Xらは、国に対し損害賠償請求をした。

  • 原審は、一人親方や個人事業主は労働者に当たらないとした。

  • 最高裁は、安衛法57条は労働者以外の者も保護する趣旨であると判断した。

要旨

安衛法57条は、労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるものの譲渡等をする者が、その容器又は包装に、名称、人体に及ぼす作用、貯蔵又は取扱い上の注意等を表示しなければならない旨を定めている。

同条は、健康障害を生ずるおそれのある物についてこれらを表示することを義務付けることによって、その物を取り扱う者に健康障害が生ずることを防止しようとする趣旨のものと解されるのであって、上記の物を取り扱う者に健康障害を生ずるおそれがあることは、当該者が安衛法2条2号において定義された労働者に該当するか否かによって変わるものではない。

また、安衛法57条は、これを取り扱う者に健康障害を生ずるおそれがあるという物の危険性に着目した規制であり、その物を取り扱うことにより危険にさらされる者が労働者に限られないこと等を考慮すると、所定事項の表示を義務付けることにより、その物を取り扱う者であって労働者に該当しない者も保護する趣旨のものと解するのが相当である。

なお、安衛法は、その1条において、職場における労働者の安全と健康を確保すること等を目的として規定しており、安衛法の主たる目的が労働者の保護にあることは明らかであるが、同条は、快適な職場環境の形成を促進することをも目的に掲げているのであるから、労働者に該当しない者が、労働者と同じ場所で働き、健康障害を生ずるおそれのある物を取り扱う場合に、安衛法57条が労働者に該当しない者を当然に保護の対象外としているとは解し難い。

また、本件掲示義務規定は、事業者が、石綿等を含む特別管理物質を取り扱う作業場において、特別管理物質の名称、人体に及ぼす作用、取扱い上の注意事項及び使用すべき保護具に係る事項を掲示しなければならない旨を定めている。

この規定は、特別管理物質を取り扱う作業場が人体にとって危険なものであることに鑑み、上記の掲示を義務付けるものと解されるのであって、特別管理物質を取り扱う作業場において、人体に対する危険があることは、そこで作業する者が労働者に該当するか否かによって変わるものではない。

また、本件掲示義務規定は、特別管理物質を取り扱う作業場という場所の危険性に着目した規制であり、その場所において危険にさらされる者が労働者に限られないこと等を考慮すると、特別管理物質を取り扱う作業場における掲示を義務付けることにより、その場所で作業する者であって労働者に該当しない者も保護する趣旨のものと解するのが相当である。

なお、安衛法が人体に対する危険がある作業場で働く者であって労働者に該当しない者を当然に保護の対象外としているとは解し難いことは、上記と同様である。

参考

この判例を詳しく知りたいという方は、以下のページをチェックしてみてください。


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