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イビデン事件

平成30年2月15日最高裁判所第一小法廷


概要

親会社が、自社及び子会社等のグループ会社における法令遵守体制を整備し、法令等の遵守に関する相談窓口を設け、現に相談への対応を行っていた場合において、親会社が子会社の従業員による相談の申出の際に求められた対応をしなかったことをもって、信義則上の義務違反があったとはいえないとされた事例。

  • 労働者Xは、Y会社の子会社の契約社員として、Y会社で勤務していた。

  • 同じ事業場で勤務している元交際相手Aからセクハラを受けていた。

  • 労働者Xの元同僚Bは、調査するようY会社に申出た。

  • 申出の内容は、労働者Xが退職した後にY会社の事業場外で行われた行為に関するものであり、Aの職務執行に直接関係するものではない。

  • 申出の当時、労働者Xは、既にAと同じ職場では就労しておらず、Aの行為が行われてから8ヶ月以上経過していた。

  • 労働者XはY会社が相談に対応しなかったとして、信義則上の義務に違反があると訴えた。

要旨

労働者Xは、勤務先会社に雇用され、本件工場における業務に従事するに当たり、勤務先会社の指揮監督の下で労務を提供していたというのであり、Y会社は、本件当時、法令等の遵守に関する社員行動基準を定め、本件法令遵守体制を整備していたものの、労働者Xに対しその指揮監督権を行使する立場にあったとか、労働者Xから実質的に労務の提供を受ける関係にあったとみるべき事情はないというべきである。

また、Y会社において整備した本件法令遵守体制の仕組みの具体的内容が、勤務先会社が使用者として負うべき雇用契約上の付随義務をY会社自らが履行し又はY会社の直接間接の指揮監督の下で勤務先会社に履行させるものであったとみるべき事情はうかがわれない。

以上によれば、Y会社は、自ら又は労働者Xの使用者である勤務先会社を通じて本件付随義務を履行する義務を負うものということはできず、勤務先会社が本件付随義務に基づく対応を怠ったことのみをもって、Y会社の労働者Xに対する信義則上の義務違反があったものとすることはできない。

もっとも、Y会社は、本件当時、本件法令遵守体制の一環として、本件グループ会社の事業場内で就労する者から法令等の遵守に関する相談を受ける本件相談窓口制度を設け、上記の者に対し、本件相談窓口制度を周知してその利用を促し、現に本件相談窓口における相談への対応を行っていたものである。

その趣旨は、本件グループ会社から成る企業集団の業務の適正の確保等を目的として、本件相談窓口における相談への対応を通じて、本件グループ会社の業務に関して生じる可能性がある法令等に違反する行為を予防し、又は現に生じた法令等違反行為に対処することにあると解される。

これらのことに照らすと、本件グループ会社の事業場内で就労した際に、法令等違反行為によって被害を受けた従業員等が、本件相談窓口に対しその旨の相談の申出をすれば、Y会社は、相応の対応をするよう努めることが想定されていたものといえ、上記申出の具体的状況いかんによっては、当該申出をした者に対し、当該申出を受け、体制として整備された仕組みの内容、当該申出に係る相談の内容等に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合があると解される。

参考

この判例を詳しく知りたいという方は、以下のページをチェックしてみてください。

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