見出し画像

特異な標題音楽としてのムソルグスキー「展覧会の絵」

ムソルグスキーの『展覧会の絵』は、その独自性と創造性によって標題音楽の中でも特に注目される作品です。詳しく説明すると、以下の点が特に興味深いです。

1. メタ標題音楽としての性質

『展覧会の絵』は「絵画を描写する音楽」であり、ここにメタ標題音楽の特徴が見られます。通常の標題音楽は、特定の物語や情景を音楽で描写するのが主流ですが、ムソルグスキーはさらに一歩進んで、絵画が描写しているものではなく、その絵画自体を描写しています。このアプローチは、音楽と視覚芸術の関係を再定義するものであり、音楽がどのようにして視覚的なイメージを表現できるかを探求しています。

2. 組曲全体の構成と「プロムナード」の役割

『展覧会の絵』は全10曲から成るピアノ組曲ですが、その中に「プロムナード」と呼ばれるインタールードが何度か挿入されています。「プロムナード」はフランス語で「散歩」という意味で、展覧会を見て回る観客の動きを表現しています。

  • プロムナードは、各絵画(楽章)を繋ぐ役割を果たし、展覧会を歩いているかのような連続的な体験をリスナーに提供します。

  • この「プロムナード」はテーマの反復や変奏を通じて、観客の心情や反応の変化をも表現しており、楽曲全体に統一感を与えています。

このように、ムソルグスキーは個々の絵画(楽章)のみならず、展覧会全体の体験を音楽で表現するという斬新な試みをしています。

3. 各曲の多様性とそれぞれの絵画に対するアプローチ

各曲は、ハルトマンの異なる絵画やデザインに触発されており、そのため音楽のスタイルや雰囲気が大きく異なります。以下にいくつかの代表的な曲を挙げて、その特徴を説明します。

  • 「グノームス (小人)」:

    • ハルトマンがデザインした奇妙で歪んだ形の子供用のナッツクラッカー(くるみ割り人形)を基にしています。音楽は非常に不安定で、変則的なリズムと急激な転調が特徴です。これは、小人の奇怪でぎこちない動きを音楽で表現しています。

  • 「古い城」:

    • 中世の城を描いたハルトマンの絵に基づき、もの悲しい旋律が特徴です。ピアノの低音の持続音は、リュートの伴奏のように響き、寂寞とした情景を描いています。

  • 「ビドロ (牛車)」:

    • 重厚な車輪の音とゆっくりとした動きが、重い荷物を運ぶ牛車の苦労を音楽で描写しています。音楽が次第に高まり、再び静まる様子は、牛車が遠くから近づいてきて、また遠ざかっていく様子を連想させます。

  • 「バーバ・ヤーガの小屋」:

    • ロシアの民話に登場する魔女バーバ・ヤーガを題材にしています。この楽章は急速なテンポと不協和音が特徴で、狂暴で怖ろしい魔女の動きを表現しています。

  • 「キエフの大門」:

    • 壮麗で堂々とした楽章であり、キエフの大門を描いたハルトマンの設計図を基にしています。この曲は、ロシア正教の鐘の音や荘厳な行進曲風のテーマで、偉大さと威厳を表現しています。

ここから先は

495字
この記事のみ ¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?