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お役所様の言う通り!

転職して半年が過ぎた。
入社した当初はとにかく仕事がわからず、目の前の仕事をこなすのに必死だった。
入社して一ヶ月も経つと、朝も夜も職場に居続ける私は、「職場の住人」と呼ばれるほど新しい職場に馴染んだ。
そんな私も数ヶ月も経つと仕事にも慣れ、ようやく定時で帰れるようになった。

だが、平穏な暮らしは長くは続かない。
きっかけは役所からの一通のメールだった。

「先日、提出していただいた報告書について、追加資料の提出をお願いします」

役所担当のメールには、追加する資料一覧が書かれていた。
追加資料は、すぐ提出できるものだったので、すぐに揃えてメールで提出した。
メールを送付して1時間後、役所の担当から電話があった。

「資料を確認させていただきました。御社の手続きについては法律に接触しているので、すぐに改善する必要があります」

「えっ?!」

役所からのいきなりの違法宣告に頭が真っ白になった。
経験の浅い私だが、仕事については過去の処理方法を調べて、適正な手続きを踏んだはず。
何が間違えていたんだ?

「○○法第○条には、◯✕は◯△□とあります。なので、◯✕△の処理は□◯✕△になり適法ではありません。正しく✕□△による手続きが必要になります」

役所担当の口からは、スムーズに根拠法や、法に接触する理由が語られた。
私は「申し訳ごさいません」と謝罪をするほかなかった。

役所担当からの電話を切ったあと、私は頭を抱えた。

やらかしてしまった…。

私のミスで会社が違法行為をしてしまった。
これは社会的な制裁を受けるのだろうか。
これから何かしらのペナルティがあるのだろうか?
せっかく慣れた会社なのに、もう次を探さないといけないのか。
まだ数ヶ月しかいないが、慣れ親しんだ職場と同僚に別れを告げることを思うと悲しくなった。

次の人が私の二の舞いとならないように、しっかりと引き継ぎ書を作って去ろう。

そう心に誓った私は、法律を確認し、専門書による解説を読み込んだ。
専門書にも役場担当の説明したとおり、原則として法律を根拠とした手続きは必要という点に言及していた。
だが、やむを得ない場合は、それを行わないことも認められるという解釈であった。
そして、私の進めた手続きはやむを得ない場合に当たるものだった。

専門書の解説は私を安心させたが、この本を出しているのは役所ではない。
やはり報告書を取りまとめる役所の言う手続きこそが正しいのではないか、という疑念が消えない。

何を信じればよいかわからず、私は前任者に電話をした。

「平田さん、すいません。やらかしてしまいました」

私が悲痛な声を出して電話をかけてきたので、平田はとても心配してくれた。
役所から電話があったこと、法律に接触すると伝えられたことを告げると、平田から思わぬ言葉が返ってきた。

「高宮君の手続きは適正だよ。私が担当していた時に、役所の立入検査を受けたことがある。その時の担当者に、今回の手続きは問題がないことを確認してるよ」

平田のその言葉を聞いて、私はとても救われた。
平田によると、役所は人事異動で数年ごとに担当が変わり、詳しい担当もいれば、詳しくない担当もいるとのことだった。

「新しい担当は原則を言っているだけで、例外についてはまだ熟知していないのだろう。特にペナルティもないはずだから、しばらく様子をみたらいい」

平田の言葉に安心したが、役所から違法と言われた手続きを続けるのは心が落ち着かない。
役所担当に説明して違法ではないことを認めさせたいが、下手に相手の機嫌を損ねて目をつけられても面倒なことになる。
現実には役所の言う手続きは難しく、私には実務として旧来のやり方を続けるしかなかった。

 〜 1年後 〜

再び報告書を提出する季節がやってきた。
私は昨年に追加で提出した資料も添付して役所に提出した。
数週間後、役所から報告書を適正に受理したというメールが届いた。

法律に接触するという指摘は、どこかに消えてしまった。

ギブミーマネー!ギブミーチョコレート!!