矢野利裕先生の『学校するからだ』の話(not 書評)

現役の国語教師兼批評家として活躍する矢野利裕先生の『学校するからだ』(晶文社)を読んだことにインスパイアされた「自分の話」をします。

あくまでも「自分の話」なので、批評性ゼロです。思い浮かんだら書く、のスタンスで書くので、文の構成についても意識せずダラダラ書きます。ただし、この本は本当に素晴らしい本なので、是非多くの方に読んでいただきたいと思っています。

(※以下、ほんの少しネタバレがあります。ご注意ください)


サッカー観戦する「からだ」

『学校するからだ』は意外なくらい多くサッカーの話が出てきて面白いなと思ったのですが、矢野先生はサッカー部の顧問をされていたことを本を読んで初めて知りました。

つい先日まで作業していたZINE作成のために、フェスや祭り、スポーツ観戦における「なぜ人は、フェスやスポーツ観戦時興奮するのか」「なぜその場が一体化するのか」などについて調べ、いろいろ考察していましたがその点はZINEの内容にはあまり盛り込むことができませんでした。

その盛り込みたかった内容がまさに、個々の「身体性」と「集団心理」だったので、『学校するからだ』を読んで思わず唸ってしまいました。

特に、Jリーグチームの「チャント」についての部分。

つい最近水戸ホーリーホックのサポーターになる前は、「なぜ人は、フェスやスポーツ観戦時興奮するのか」「なぜその場が一体化するのか」を自ら体感しながら研究・考察するために水戸ホーリーホックの試合を観戦していた側面も実はありました。

上記書籍による知識、自らの体験、そして『学校するからだ』。そこからスタジアムでの一体感や興奮、トランス状態等について考察してみました。

水戸ホーリーホックのホームスタジアム、
「ケーズデンキスタジアム水戸」

バックスタンド側が、コールリーダーや太鼓隊・大旗隊などがいる、「声」や「音」で積極的にスタジアムの雰囲気を作るサポーターの場所。メインスタンド側がバックスタンド側に呼応する形で応援するサポーターの場所、というのがおおまかなイメージです。私はバックスタンド側のサポーターの皆さんのファンでもあるので、その雰囲気を「見たい」ためにメインスタンド側で応援しています。

どのチャントに対してもサポーターの一体感を感じますが、個人的に自分自身がその「一体感」の中に「組み込まれていく」ことを感じたのが、水戸ホーリーホックのチャント「ロストック」。観戦を始めた頃からかなり「身体性」を意識していましたが、『学校するからだ』を読んで確信のようなものに変わりました。サポーターは体全体でチャントを「歌って」いて、観客たちはスタジアムという大きな空間を通じて「コミュニケーション」をしていると。

水戸ホーリーホックチャント
「ロストック」

チャントには各チームごとに特徴があり、それぞれによさがありますが、水戸の太鼓隊の演奏は最高です。主に四分音符を正確に叩く低音のドラムは体に叩き込まれ(※音楽フェスでも四つ打ち曲はある種の定番ですよね)、細かく刻まれるスネアの音は体を躍動させます。これらが空気を伝って場を支配している訳で、それを体全体で感じていて周りも同じ状態であれば群衆心理からトランス状態になるのは理解できると思いました。ましてやバックスタンド側サポーターは全力でチャントを歌っています。声帯が震え、息が生み出され口から吐き出されていることを感じ、歌いながら全力で体を動かしている。これだけ同じ場にいる多くの人が全力で「からだ」を使っていれば皆興奮も一体化もするのだろうと。そんなことを『学校するからだ』を読んで考えました。

ちなみに、『学校するからだ』に書かれている矢野先生のサッカー部顧問としてのスタンスは、今季2023シーズンのJ2において町田ゼルビア(※青森山田高校監督を務めた黒田剛氏が監督を務めている)が絶好調なことも何となく納得してしまえるような内容なので、『学校するからだ』はJリーグのサポーターの皆さまにも是非おすすめしたい本です。(全力で宣伝)

ミーハー先生

『学校するからだ』のミーハー先生、これって私のことなのでは!!??と思うくらいびっくりしてしまいました。

私も、かつて海外サッカーにハマっていたことで国や民族、歴史や文化を意識していたからです。

個人的にいろんなネタがありますが、例えば、元ウクライナ代表アンドリー・シェフチェンコ選手にまつわる個人的なエピソードについて。シェフチェンコ選手は「ウクライナの矢」とも言われた名選手です。大好きでした。

大学受験時代、地理が一番得意教科だったので、ウクライナという国が肥沃な土壌「チェルノーゼム」によって小麦の生産が多いこと、ウクライナの国旗が一面の小麦畑と青空を表現している…という知識は自分の中では当たり前のことでした。

海外サッカーにハマったことで、海外のサッカー選手を特集したスポーツ雑誌を買いあさるほど海外サッカーが大好きだったのですが、特に印象的だったのがシェフチェンコ選手の特集でキエフの「バビ・ヤール渓谷」の写真と歴史が紹介されていたこと。

地理は得意でも、何故か世界史は苦手でほとんど勉強してこなかったので、ウクライナでユダヤ人の虐殺が行われていたことを、シェフチェンコ選手を通して知ることができたのです。

もちろん、旧ソ連の作曲家ショスタコーヴィチの交響曲第13番『バビ・ヤール』の聴き方や印象も大分変りました。

こんな風に、好きなサッカー選手を通じて海外の歴史や文化、世界情勢についてたくさんのことを知ることができたので、ミーハー先生の部分はとても共感してしまいました。

ウクライナと言えば、ヨーロッパの歌合戦である「ユーロヴィジョン2022」でウクライナ代表のカルーシュ・オーケストラが優勝しました。

ユーロヴィジョン優勝に関するウクライナ国内での評価や政治的背景などは、ウクライナ人ボグダン・パルホメンコさんの動画で詳しく解説されているので、興味がある方はそちらをご覧いただければと思うのですが、私がこの曲で興味深かったのは、間奏の笛のフレーズ。

ハンガリーの作曲家バルトークの『ルーマニア民俗舞曲』の第3曲「足踏み踊り」の音階とフレーズに似ていたことが気になり、もしかして「カルーシュ」はルーマニア近郊の都市なのではないかと思い調べてみたところカルパティア山脈のふもとに位置している都市っぽいので、あながち間違いではなさそうなことが分かりました。(バルトークは『ルーマニア民俗舞曲』の民謡をカルパティア山脈の一部であるトランシルヴァニア地方で採取しています)

そこからさらにルーマニアとウクライナの文化について詳しく調べこんだわけではないので(ましてや専門的な音楽的知識があるわけでもない)、カルーシュ地方とルーマニアの音階の類似性・関連性は私の推測でしかないのですが、私にとっては「調べる」こと自体に意味がありました。

こうして好きなサッカー選手や、大好きな音楽きっかけで、いろんなことを調べ学ぶことの「楽しさ」。やはりミーハー先生の部分は心から共感してしまいます。

読売ジャイアンツ・坂本勇人選手の登場曲

先日、巨人の開幕戦を見に行った時のこと。(私は巨人軍推しでもあります)

坂本勇人選手が登場する時に登場曲であるGReeeeNの「キセキ」が流れ、東京ドームでの声出し応援が可能になったことでファンが大合唱している光景を目の当たりにしました。

こんな堂々と大合唱できる現場、ライブでもなかなかない。しかも、数多くの大型ライブが開催される東京ドームで全力の「キセキ」大合唱…すげえ、すげえよ!!と思わず感動してしまいました。

坂本選手の活躍を祈りながら、全身で「キセキ」を歌い、東京ドームの空気を揺らす。巨人ファンが「一体化」する様子を「からだ」で感じました。


「身体性」「からだ」も含めたコミュニケーション。『学校するからだ』からいろんなことを考えました。

『学校するからだ』、本当によい本です。もっともっと読み込んで、さらにいろんなことを考えていきたいです。


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