敢えて考える。勧めるべき3つの『親の礼』:選択肢の3

 これまで『親の礼』と銘打ち、3つの『不断の努力』を提示し、選択肢『情に沿う教育姿勢のリトレイス』と『道理に沿う教育姿勢のレスポンド』の2つを唱えてきたが、実は態と選択〝肢〟という語弊のある言葉を使ったてきた。

 どれかを選んで終わりという話ではないのだ。

 既成の社会的役割として「仮面」についてのみ教育するのでは、ラルフ・ダーレンドルフのいう「ホモ・ソシオロジクス」(役割〝を素直に演じる〟人間)だけが育つということになるでしょう。
 『教育―不可能なれども』 西部邁

と指摘されるよう、道理のみで情の無いレスポンドだけでは『生かせない』ことがあるだろう。
 かといって、情のみで道理の無いリトレイスだけでは『殺してしまう』こともあるだろう。
 正解の選択〝肢〟を求めてはいけない。人生は選択の連続なのだ。

 リトレイスとレスポンドの関係は性善説と性悪説に酷似している。
 『人の本性サガ』を『善』と捉えようが『悪』と捉えようが、どちらも『善』を尊び『悪』の蔓延ること無き社会を目指して努力すべしと説くことに変わりはない。(『徳治』も『法治』も世が治まることを意志して考えることを止めない。誤解され易いが、『している』施策があるからこそ性善説に則っていると言える。『してない』のに性善説を僭称するのはおかしい)

 寧ろ対極に位置するのは、不徳不法を『必要悪』と宣って公徳放棄、『してない』を正当化するポピュリズムや経済至上主義なのだ。

『親の本性サガ』を『利他』と捉えて、情は無償の愛と信じるリトレイス。
『親の本性サガ』を『利己』と捉えて、情は下心と疑うレスポンド。
 どちらを選ぶにしても子の幸福を意志することに変わりはないはずだ。

 少し論理を修正して言おう。子の幸福を願うから、その都度自分の内心に問いかけ、共に悩み、共に選択を繰り返すのだ。
 勿論、失敗することもあるだろう。あえて立ち止まるのもまた選択である(西部先生の言う「準備としての活動モラトリアム」だ) 。

 では、その対極は何か?

 無視する、顧みない。
 語源はラテン語「選ばない」の意……、ネグレクト[Neglect]『neg-‘not'+lect, legere(集める, 選ぶ)』である。
 不活動モラトリアムたるそれは、選択〝肢〟などではない。単なる欠落の行き着く先である。


●ネグレクトへの対抗策、リリース[Release]
 解放。語源はRelaxと同じ『再び緩める』だが、Re-+『Lease“有料+契約を結んで+特定の期間”貸すこと』と読めるので、この言葉を選んだ。
 子供は親のものでは無い。
 それが理解できないモノへの対抗策、未来ある者への支援策、整備すべき社会制度のシンプルな答えはこう行き着く。

 独特な論理展開で『親たる者、おのれの全生涯と全人格を賭して、子に立ち向かわざるをえないのです』と親の責務を説く、西部先生は烈火の如くお怒りになるだろうが、緊急避難の制度は必要だと思う。
 勿論、手軽に「面倒見切れない」「縁を切った」等とホイホイ利用できる制度であってはならない。しかし……、
 懲罰について考えると、それだけで頭が一杯になってしまい、この先建設的な案を提示できそうにない。私はここで議論を打ち切る。

 以上、机上の衒学、言葉遊びと言われればその通りだが、私は知性の欠片もない精神論より余程ましな思考ゲームだと考えている。ただ、酔狂で書いてないことも今一度断っておく。


●できないのと、しない
 養老孟司先生は、子供が都市的合理性「ああすれば、こうなる」の通用しない自然であるが故、自然に価値がないとする都市は子供を「ないこと」にする。だから子供の問題は自然保護の問題に結びつくという(=経済的収益が試算できないから、社会は投資を渋る)。
 都市化が進めば進むほど子育てはし辛くなるという指摘通り、現代の親が小脇に抱えた山(子育ての負担)はムクムク膨らみ、超えなければならない川(社会の不理解)は広がる一方だ。『本当にできない』はもはや愚痴ではない。
 そもそも都市社会の主体たる経済至上主義は、[Reproduction]たる子育てを低評価、「仕事が忙しいのにそんなことできるか」「誰が稼いできた金で暮らして行けると思っている」等と積極的に貶めてきたのではなかったか?
 その根本の構造問題を『見ようとしない』で、少子化を個人の責任問題に縮小させようとは、馬鹿[Absurd]にも程がある。

 あえて過激な表現を選ぶなら、「ビジョン無しに題目だけ唱えて丸投げした明治の良妻賢母思想は、ポル・ポトのインテリ虐殺に匹敵するヴァンダリズム(文化破壊の野蛮行為)の一種であった」

 ……漸く、【賢母を勧めない】で掘り起こしたかった論点に行き着きました。
 果たして、良妻賢母思想によって破壊されたものは何か?あと、もう少しだけお付き合い頂きたい。
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