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クリスマスを前に『あの子は良い子?悪い子?』後編

 他人の気を引くために行った行動が、周囲を巻き込むような大きな騒動となってしまった……そんな場合なら、ちゃんと叱らねばならないでしょう。
 ところが一方、純粋な善意や親切心に突き動かされた行動もまた、大きなトラブルの原因となることも少なくありません。
 場合によって、慎重に事情を聞き取り、動機と行動を分けて判断する必要があると思います。

 もっとも、大人が驚くほど合理的に、理路整然と語れる子もいますが、大人達に尋ねられても上手く話せない子はほとんどでしょう。そして、中には委縮して黙り込んでしまう子も少なくありません。

 日本人の中には、元々消極的なのではなく、子供の頃の実体験から『どうせ、私の意見は聞いてもらえないから』と、発言に消極的になったという人が多いと聞きます。
 答えを急がず、じっくりを耳を傾ける人が増えたなら、日本社会はもう少し暮らしやすくなると思うのですが……


『洒落にならない悪戯:和希は悪い子?』後編

「草食?だからお野菜を駄目にしたの?」
 実里がそう言うと、和希は半べそになって言い返してきた。
「ちがう、ちがうの。おやさいがダメになるなんて思わなくって……」
 ここまで言うと和希はしゃくり上げてしまい、喋る事が出来なくなった。実里は黙って背中を擦ってやり、和希が再び喋れるようになるのを辛抱強く待った。

「……おじいちゃんがね、赤ちゃんの生まれないショウシカになると日本はメツボウするって」
「ああ、草食系がまずいって言っていたのね」
「えーと……、ソウショクの男がダメだから、うんと……、あのね……」
 口籠る和希……、単語の断片を繋げてみても要領を得ない。ただし、その瞳には曇りが見当たらない。
「ねぇ、和希。急がなくていいから、思った事全部言ってごらん。お母さん、待ってあげるからね」

「……ボクね、赤ちゃんが元気でいるかキャベツを見に行ったんだ」

 全てが繋がり、思わず声を上げそうになった。
(……そうだ。一年前、『赤ちゃんは何処から来るの?』と和希から尋ねられた私は何と言って答えをはぐらかしたか……)
「あのね、あのね、はっぱが穴だらけのキャベツがたくさんあったんだ。す~ごくワルイんだよ!アオムシのヤツ」
「そう、和希は青虫が許せなかったのね」
「うん。アイツが食べちゃったからショウシカなんだよ。だからね、ボク、タイジしてやろうって……」

 実里は和希の頬を優しく撫でると、その小さな体をギュッと抱きしめた。

和希はどうして畑に殺虫剤を撒こうと思ったか』ですが、

『祖父から少子化問題が深刻であると聞いた和希は、赤ちゃんが元気でいるか不安になってキャベツ畑へ様子を見に行った。
 和希はそこで初めて収穫前のキャベツ、青虫に食べられて穴の開いた外葉を目にした。
 赤ちゃんの生育のため、キャベツの生育のために青虫を取り除かねばいけないと思い、殺虫スプレーを吹きかけた』

でした。


少子化対策に妙案は無い

 どうして少子化の話かというと、実は去年の12月24日、厚生労働省は2019年の人口動態統計の年間推計を発表したのです。
 予測を超える下落スピードに対し、その担当者の分析はあまりに楽観的、いや頓珍漢なものでした。

『「令和婚」をするために結婚する時期を先延ばしにした人がいたことなどが、影響していると分析しています』

 某公共放送は、一切論評を付け足すことなく上記の分析を垂れ流していたので正直呆れました。
 まあ、無理矢理答えを捻り出さなければならなかったのでしょう。厚生労働省の担当者ばかり責められません。
(とはいえ、一昨日報道されたAI婚活にはまた呆れました。来年度予算の概算要求に20億円。学術会議の年間予算の2倍……)

 ずっと日本の少子化の要因と見られているのに、政府の腰が重い二つの問題があります。
 一つは若者の貧困、中でもいわゆる就職氷河期世代の貧困です。
 昔は『一人口は食えぬが二人口は食える』と言ったそうですが、今となってはとてもそんなこと言えません。


 もう一つは、男女格差問題
 出産、育児に対する社会のサポートがまだまだ不十分ではないかと言われています。
 また、選択的夫婦別姓制度が進まないことも大きな課題でしょう。

 コロナ禍で若い女性の自殺が増えているのは、女性にとって今の日本社会が生きづらいことを指し示しているのかもしれません。


2020年の人口動態統計の年間推計は……

 今年もクリスマス頃に発表されるでしょう。

 新型コロナウイルス蔓延という緊急事態ゆえ、それは非常に厳しいものになるのではないかと思います。
 そしてアフターコロナの見えない現状、残念ながら来年はさらに厳しい状態が予想されます。これは仕方のないことでしょう。

 今こそ、辛いことは「辛い」と、苦しいことは「苦しい」と言う時だと思います。
 そして政治家は、言い訳に終始したり、付け焼き刃の対策に飛び付いたりすることなく、小さき声に耳を傾けてもらいたいものです。

12月24日 追記

 厚生労働省は、人口動態統計の年間推計の公表を今年は見送る方針を明らかにしました。
 まさかこんな手に出るとは……


 一応、厚生労働省のサイトを確認してみました。
 ……年間推計を出さないという理由、よく意味が解かりません。実態と乖離することはそんなに悪いことでしょうか?それはそれで、世相の反映ではないの?
 計測者の都合で出せない計測って、そもそも意義が無いのでは?

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12月28日 追記

 厚生労働省は公表を見送りましたが、朝日新聞が推計値を報道しました。
 実数値は、さらに下回ると見られます。

『出生数について例年の計算式に基づいて推計すると、今年は前年比2%減の84万8千人程度になる』


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