理想という名のゴースト
人はよく「理想」を語る。体型から結婚や暮らし、仕事のスタイルまで。
あーそういの理想だよね。会話の中でも理想という文脈に疑問を持つことなくナチュラルに語られる。
だけど、そもそも「理想」ってどこからやってくるんだろうね。
いつも理想はこっちが「来てくれないか」と頼んだわけでもないのに、いつの間にか僕らの話に加わってる。
え、誰かの知り合いなの? と疑問に思われることもなく、みんながなんとなく誰かの知り合いなんだくらいに無意識に存在を認めてるのだ。
ふしぎなことに「理想さん」は誰からも否定もされないし、だからといって全肯定もされない。ついに理想さんのようになったよという話も聞かない。
あくまで「理想」として空気のようにずっとそこに居続ける。
よくよくみんなに聞いてみたら、「理想? 俺が連れてきたんじゃないよ」と誰も知らないというのに。
そして誰かがちょっと席を外した瞬間に理想さんはいなくなって、飲みかけの汗をかいたアイスラテだけが残るのだ。