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名前のない風になる

空港からの道は意外にアップダウンがあって、東シナ海が途切れ途切れに流れ去っていく。

晴れているのでも雲っているのでもない、不思議な空の色。こういう空模様を指す言葉を僕は知らない。

あえていえば、いろんな天気の境目を見ているような感じだ。

僕が、空ばかり見ていたせいなのか「この前、台湾坊主が吹いたから、もう暖かくなるよ」迎えに来てくれた民宿のお母さんが教えてくれる。

台湾坊主とは、この辺りの言葉で春一番のこと。島に来た目的を訊ねられたので、とくに目的はないんだけど、気散じかなと答えると、じゃあちょうどいいよとお母さんは言う。

「一度、暖かくなって、卒業式の頃にもう一度寒くなるからね。忘れ雪が降ってさ」

こんな鹿児島の南の島でも雪は降る。そして、この島では、そんな季節の一つひとつの小さな変化に、ちゃんと名前というか言葉があるのだ。

そう思った瞬間、自分が名前のない風になって窓の外を飛んで行った。