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結論「旦那いらない」

女子更衣室のロッカーに潜んで話を聞いてるみたいだった。いや、実際そんなことはしないけど。比喩。ほんとにしないよ。

なんか言葉を重ねると余計に怪しくなるので困る。まあでも、それに近いシチュエーションには毎回なるわけで。

なんでかというと通院での治療センター(化学療法なんかの患者専用の一角が病院にある)がそうだから。

カーテンで仕切られた半個室みたいなとこで、ビジネスクラスみたいなシートに沈んで、ほぼ1日がかりの治療を受ける。

点滴を何本も取り替えて行うのだけど、基本こっちはとくにやることもない。

点滴の種類によっては、5分とか30分置きにセンターの看護師さん(化学療法の認定看護師さんもいる)の「具合どうですかー?」とか、がん認定薬剤師さんの副作用チェックとか緩和ケアっぽいのがあるけど。

これは僕が行く時間帯なのか、そういうものなのかわからないけど、治療センターに来てるのは基本、おじいちゃんおばあちゃんか子育て世代の女の人がほとんど。

その中ではヤギは浮いてる。空中にではなく存在が。まあ、そうだろうな。自分たちで会社やってて、フリーランスでだから平日日中に治療できるんだし。

べつに浮いてるから居心地悪いとかではなくて、むしろ快適。なんかラウンジみたいな音楽流れてるし、うとうとしたり本読んだり、iPadで映画観たり(まだ実行してない)できる。長時間のフライトみたいな感じ。持ち込みで飲食もできる。

で、基本おじいちゃんたちは静かだし、ヤギも鳴かないし、どうしたって喋るのは子育て世代の女性患者さんたちが多い。

看護師さんもセンターはわりと同世代の人たちだから余計に話しやすいのかもしれない。

カーテン越しに女の人と看護師さんが、あれこれ話してるのが聞こえてくる。べつに聞き耳立ててるわけじゃないんだけど。

最初は最近の身体の具合とか治療の話が、だんだん家庭の話になり、最後はなぜか旦那の話になる。そんなもんなのかな。

あ、べつに女の人だから話好きとか、男性は駄目とかそんな決めつけをしてるわけでもなくて、すごく、フラットにポケモンのラティオスぐらいの穏やかさで読んでもらえるとうれしいです。

あるときはたまたま出産の話になり、いろいろ生々しい。一応、隣に見ず知らずのメンズがいるんだけどなと思いながら、そうなんだと思うところもある。

出産って自分が経験したことないけど(あたり前のこと言ってる)、軽々しく言えないものなんだなってのが伝わってくる。命をかけて命が誕生する。だからいまの自分に何ができるってものでもないから余計に。

そこのところのジェンダー的な隔たりはある程度あったほうがいいのか、完全に無くてフラットなほうがいいのかこれもわからない。たぶん、票が分かれるんだろうけど人や状況によるんだろうなとしか言えない。

だから、こうしてカーテン越しに女子更衣室のロッカーに隠れるみたいな感じで(そんな経験もないです)話が聞こえてくるんだろう。

基本的には、いまの旦那たちは出産の付き添いというか立ち合いをしたくて、それに対する当事者の「そうじゃない」がいろいろある。

「なんか知らんけど今じゃねぇだろってこと話すし、(身体の)見当違いのとこさするし、結論、旦那いなくていい」

隣で聞こえてきて「・・・・・」ってなった。

たぶん、旦那も悪気はないし、でもどうするのが正解かまるでわからないし、とにかく思いついた行動をしてるんだと思う。

「痛い」っていうときも「何か対処を手伝ってほしい」痛いなのか「放っといてくれたのむ」の痛いなのか、なかなかわからないし、そこをいちいち丁寧に説明できる状態じゃないだろうし。

でもこれって出産とかに限らない話なんだと思う。

コミュニケーションってやっぱり簡単なようで難しくて。よく例えられるけどお互いの「キャッチボール」、キャッチ&スローだから。

キャッチは「相手は本当は何がしたくて何を理解してほしいんだろう」を全身から感じ取ること。

スローは「自分はこうだよっていうのを、どうやって相手の受け取れるゾーンに受け取れるように投げるか」。むちゃくちゃ簡略化するとだけど。

えっと、この辺りのことはすごい専門家がいるのでいずれちゃんと、その人のこと含めて書く。

そういう意識をふだんの会話とか対話の中で少しでも持ってると違ってくる。その場その場でのコミュニケーションの解像度が上がって、頓珍漢なことになったり、相手から「そうじゃねぇよ」をもらう数が減る。

これって、付け焼刃で「こんなときはこう話す」みたいに、いきなりそうできるものでもなくて。

たぶん、自然観察というか人間観察(モニタリングとも少し違う)で、自分のバイアスとか願望や思い込みとかできるだけ捨てて、真っさらで相手と向き合う時間を持てるかどうか。

何もしなくて自然に持てるものでもないので、やっぱり本当にちゃんと相手のこと知りたい(自分に都合のいいこともそうでないのも含めて)から始まる気がする。

とか、いろいろ考えるんだ。更衣室じゃないカーテンの中で。