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ショコラティエは名前が高い

「チョコってなんであんなに値段高いんだろね」

地下鉄に乗ってたら、溜池山王から乗ってきた女性3人組のひとりが突然、そんな会話を始めた。

「そうだよねー。高いよね」

他のふたりも同調している。それにしても突然だなと思いながら、なんとなく気になってしまう。

「伊勢丹のなんだっけ、チョコがタイルみたいに敷き詰められてる店」
「あるよね、あるある」
「ゴージャスなとこ」

僕も脳内で伊勢丹(たぶん新宿のことを言ってるんだろうな)の、たしか地下の端っこの入り口近くのショコラブティックを思い浮かべる。入ったことはないけれど。

「1個、あんな小さいのが400円とかだよ」

たぶん、それぐらいはするだろうなと思いながら、まあでもそれが価値だしなとか僕も考える。

ただ、もし買うとしても値段じゃない。そのチョコレートでしか味わえない世界を楽しみたくて手にするんだろう。まあでも決して「安く」はない。

「それだったら」3人の中でもいちばん賑やかな雰囲気の女性が言う。
「ペコちゃんのほっぺ4つ買える!」

「ジャン=ポール・エヴァン」のショコラが「ペコちゃんのほっぺ」になった。まさかの変化だ。錬金術師か。

「ペコちゃんのほっぺ、おいしいよねー」
「わかる。たまに食べたくなる!」

なんだか盛り上がってる。ペコちゃんのほっぺか。まあまあ大人のメンズには、いつ食べる機会があるのかよくわからないカテゴリのひとつだ。いただいたらもちろん食べるけど。

「チョコはさぁ」

錬金術で変化したはずなのに、またチョコの話が復活する。

「あれなんじゃない? ショコラは高いんだよね」
「ショコラティエって名前が高そうじゃん」

あー、そうかと思う。リアルだよな。彼女たちも決してショコラやショコラティエの存在を揶揄してるわけじゃない。けど、音楽のようにカラフルなチョコも職人のショコラもどっちの世界もちょっとだけ好きな人間としては、そこにある断絶が気になる。

だけど、ショコラティエに限らずそういう「名前が高そう」って思われる世界観もあるよなというのもわかる。わかったところで僕にもどうしようもないのだけど。

そんなわけで世界はきょうも断絶にあふれ、その合間を僕も漂っている。