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どうでもいいことほど残る

小学校の修学旅行で広島に行った。まあ、それ自体はとくに何ということでもない。

個人的には団体旅行が似合わないので、修学旅行を楽しみにするわけでもなかったのだけど、それでも知らない町を通り過ぎたりするのは嫌いじゃなかった。

知らない町のスーパーの看板、知らない町の校庭、知らない町の小屋みたいなバス停、知らない行き先の路面電車。

変な言い方だけど知らない町の車窓というだけで萌え要素があるのだ。たぶん意味がわからない。

だからというわけでもないけど知ってる観光地(事前学習とかでなんとなく知ってしまってるレベルでも)には萌えない。

広島への修学旅行だとだいたい訪れる場所は決まってる。いろいろな意味で。

もちろん、それぞれの場所や施設にはちゃんと意味があるし、僕らはその意味の上澄みぐらいの部分しか触れてない。それはそれで、でも何か感じるものはあるし、大人になってから実際にその「感じた何か」を確かめるように訪れたこともある。それとこれとは別の次元の話だ。

で、修学旅行での広島の思い出と呼べるものはほとんどない。

誤解のないように補足すると広島のファーストインプレッションが良くなかったわけでもないし、広島のお好み焼きのソースの香りは今でも鼻腔にこびりついてるし、好きな町だ。

なのに、修学旅行での広島を思い出せない。

理由はわかってる。ガイドのお姉さんだ。いや、これも誤解を招くのだけどガイドのお姉さんが忘れられないとかではなく、問題はガイド中のあるひと言。

広島市内をバスで走ってるときに、不意にお姉さんが言った。

「こちらのスナックがカープの○○選手がよく行かれるお店ですね~」

ちょっと待って。スナック? カープの○○選手? それまで別にカープの話題をしてたわけではない。なのに唐突すぎるし、小学生にはいらん情報すぎる。

小学生を乗せてることを忘れて、おじさんたちのツアーを乗せてる気分に一瞬なったのだろうか。

だけど、べつにガイドのお姉さんは「やっちまった」という感じでもなく、ごく通常運転の感じだった。

バスの車内は一瞬ざわついたけれど、どう反応していいかわからないまま、広島駅に向かって行った。

おかげで、僕の修学旅行の記憶はそれしか残ってない。カープの○○選手(もういまは引退した有名選手だ)のよく行くスナックがあの辺りにあった。それだけ。

他の記憶が全部持って行かれたし、なんならいまもそれだけが修学旅行の思い出になってる。

ほんと、どうでもいいことほど残ってしまうのだということを僕はあの日、ガイドのお姉さんに教えてもらったのだ。