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フリーランスだから定時で仕事することにした

またこの人、なに言ってるんだろうなのはわかってる。他者からすれば、あんたがどう働こうと知らんがなだ。

そもそもフリーランスに「定時」の概念もなにもない。何時から仕事しても何時まで仕事しても誰にも怒られないし、褒められないし労働基準法も適用されない。フリーランスには「労働時間」という概念がないのだ。

それなのに「定時」とか考えるのは、大気が存在しない月の表面でマスクをするかしないかを検討するようなものかもしれない。そもそも月で呼吸できない。

こういう無駄の多い文章は推奨されないのだけど、まあつまり、労働時間というか勤務時間が存在しないフリーランスなのに「定時」の概念を導入することにしたのだ。

端的に《9時17時で仕事》することにした。

これが一般的な職種(といっても幅広いけど)なら、べつに何ということもないのだけど、ライター、編集者、デザイナーといった職種(つまり我ら)の場合、なんとなく「?」な反応になる。

この場合の「?」は、ライター、編集者、デザイナー界隈で9時17時定時で仕事してる話って、ほとんど聞いたことがないし現実的にできんの? という疑問符だ。

最近は時間とか働き方を「デザイン」してるデザイン企業も少しずつ増えてるので、そういうところだと定時に近い概念でやってるところもあるけど、実態としてはまだまだこの界隈は長時間労働お化けをよく見かける。

おまけに組織に所属しないフリーランスのライター、編集者、デザイナーとなると、さらに長時間労働お化け天国。

現実に我らも自分たちの個人事務所を立ち上げて以来、ずーっと何時からでも何時まででも仕事してきた。朝から夜まで走り続ける。それがあたり前みたいに、何の疑問も持たずに。

だけど、10年それを続けてると、さすがにいろいろ不具合が出る。あるとき、デザイン周りをやってる妻が急性低音障害型難聴になった。

慢性的な疲労やストレスの蓄積なんかで起こるらしいのだけど、根本的な原因とか、なぜ低音が聴こえなくなるのかはっきりしたことはわかってないらしい。

べつに、目に見えて直近で何か負荷がかかったとかでもなく、なんとなく最近、人の声が聞き取りにくいとか、オンラインで打ち合わせしててヘッドホンの片耳だけ音が出てない? みたいなことがあって「なんか変」と言ってたのだ。

幸い、近くに良い耳鼻科の先生がいて(症状だけ診るのではなく、生活スタイルや習慣なんかも含めて診療してくれる)、的確な薬の服用で治った。

で、僕自身もそこに被さるかのように不調が襲ってきた。具体的にわかりやすい症状(どこか痛いとか、熱が出るとか)があれば医師に診てもらうのだけど、そういうのでもなく、昼間はふつうに仕事できても夜になると突然スイッチが切れる。ぐったりするのだ。

これまでみたいに、夜22時でも23時でも仕事を続けられるエネルギーが持たない。

あと、珍しく「休みたいな」と思うようになった。

「休みたい」というのは仕事をサボりたいとかではもちろんなく「休日」として休みたいという気持ち。

フリーランスには労働時間の概念もないけれど「休日」の概念もない。何時間仕事してもいいだけでなく、何日も休まず仕事し続けてもいい。

実際、ある年は年間休日を確認してみたら「1日」だった。元日だけ休んだ。それ以外の日は、一日中ではなくても何かしら仕事をしていた。

なんでわかるのかというと、僕と妻のふたりでやってる個人事務所だけど週1回(だいたい土曜日が多い)必ず、案件の進捗管理とか共有しているタスクの確認とかでミーティングしてログを残してるから。

そもそも土日とか祝日の概念がフリーランスでは消滅する。連休などは、むしろメールとかビジネスチャットが静かになるので、そこはがっつり集中して作業できるぐらいの感覚。

で、それも嫌ではなくあたり前の感じで10年やってきたのだけど、ちょっと気持ち以前に自分の内側から「違和感」が出てきたのだ。自分の内なる声ってやつかもしれない。

あ、これ、このままだとダメなやつだ。感覚としてわかった。なので《9時17時で仕事》にプラスして《休日》制度を取り入れることにした。フリーランスなのに。

もちろん、なかなか完璧には運用できないのだけど、それでも気持ち的に《9時17時で仕事》して《休日》もあるという前提があるだけで気分がいい。

いまの時点で感じてるベネフィットだけでも5つくらいある。

◎デジタルデトックスできる。10時間以上パソコンやスマホと向き合って、頭の中がつねに情報を処理し切れない状態から抜け出せる。
◎疲労が勝ってリラックスができない状態が改善。常に何をしてもギリギリの感覚が抜けなかったのが、気持ちの余裕が生まれた。
◎自分の中のフリーエリアができる。自分のことをやろうという気持ちになれる。自分の中のフリーエリアを感じられるだけで、何もなくても楽しい。
◎9時17時で仕事のほうが時間に縛られるのではなく、逆に自由になれる。時間の使い方がクリエイティブに。
◎端的に生産性という意味では逆に上がってる。


だからってべつにフリーランスみんながそうすべきなんて1ミリも思わなくて、それでも不都合がなくてやっていけるならそれもあり。我々もそうだったし。

ただ、心身的な不調(これ、ほんと突然来るから)とかがありそうなら「定時」という発想も選択肢にはなるんじゃないかなということ。いろいろ個々の事情に合せてカスタマイズは必要だけど。

フリーランスだからカレンダーに縛られずに仕事できて休めるというのもあるのだけど、疲れすぎるとそういうメリハリ以前のことに陥ってたから、たぶんこれからも我々は定時スタイルを基本にすると思います。

と言いながら、新しい会社を立ち上げたりもしたので、またやることは増えてるわけですが。