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魅惑の彼女

小学校2年生の時、担任の先生が産休に入る事になり、その間クラスを請け負ってくれる臨時の先生がやって来た。
春にやって来たのか、夏にやって来たのか、秋なのか冬なのか覚えていない。
いつ学校を去ったのかも、覚えていない。
すっぴん、ジャージが主流の中、まるで真逆を行く刺激的な先生。

小柄で、いつも鼻先をツンと上に向けて、背筋をまっすぐに歩いていた。
ちょっと甲高くて鼻に抜けたような声、尖っていて甘ったるくて意思のはっきりした物言い。
髪はローマの休日のヘプバーン風のショートカットで、いつも整髪剤で綺麗に整え、つきたてのお餅のように艷やかで、福の神様のように福々しく丸っこいお顔はいつも薄化粧で、ピンクの口紅がきりりと引いてあった。

夏に、
給食後の昼休み、ピンクのフリルを緑色の茎一杯に纏ったグラジオラスを、学校の玄関に置いてある花瓶に一人で思案しながら生けているその様子。

冬に、
乗ってきた車の扉をパンっと勢いよく閉め、サーモンピンクのウールのロングコーㇳを羽織り、立てた襟に顔をちょこっと埋めて、ヒールで小気味よく砂利を鳴らしながら校舎へ入っていく後ろ姿。

あぁ、
あの時の何となくモヤモヤ、ザワザワした感じ。
先生の秘密を見てしまったような感覚は、今にして思えば8才にして初めて、大人の色香の端くれを敏感に感じ取った、、、のかもしれない。

給食時間の最中に、中身の入った牛乳瓶を手榴弾の如く投げ合って、教室中を恐怖のどん底に陥れた悪ガキ2トップをひっ捕まえて教壇に立たせ、右手には授業で使う木製の大きな直線定規を持ち
「お尻を出しなさぁぁ〜いっ!!」
と腹の底から声を振り絞り、鬼の形相で黒板の前に仁王立ちしている姿。これもまた、濃厚。

これまでたくさんの先生達に助けられて大きくなったけれど、どうにもこうにもこの、臨時でやって来た先生の断片的なイメージ達ばかりが、時々脳内でポッポッポッポッと点滅する。

今更ながら、ありがとうございました。先生。





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