見出し画像

駆け抜ける

ぼくは走るのが速い
人間を乗せて走って
一番をとることがぼくの仕事だ

ぼくは走ることが大好きだ
いつもぼくに乗るカミュと息を合わせて
ゴールを目指す
ぼくたちの息がぴたりと合えば合うほど
ぼくたちは風になって駆け抜けていくんだ

ある日
カミュがミスをしてしまって
ぼくたちは転んでしまった

カミュもぼくもけがをした
ぼくはもうレースに出ることができなくなった

ぼくは山と緑がたくさんある場所へ
行くことになった

ぼくは悲しかった
もうカミュと一緒に走ることができない
風になることができない

ぼくは悲しくて走ることをやめた
いつもお家にこもるようになった

ぼくを心配して
仲間たちが様子を見にきてくれたけど
ぼくの心は沈んだままだった
このままいなくなってしまいたかった

ぼくの身体がどんどん小さくなって
このまま消えてしまうんじゃないかと思っていた
ある日のこと

カミュがやってきた
カミュは片方の足が不自由になっていた

やあ久しぶり
元気だったかい?
ずっと君に会いたかったんだ

カミュはぼくの身体を見て言った

もう走らないのかい?

走る気分にならないんだ

走ることがあんなに好きだったきみが?

カミュは自分の足を触りながら言った

ぼくはけがをしてから
足が不自由になった
もう走ることは難しいと思う

でもね
やっぱりぼくは走ることが大好きなんだ
きみと一緒に走ることが大好きなんだ

もう一度きみと走りたかった

だからまた歩けるように練習をして
こうしてきみに会いにきた
ぼくを乗せてくれるかい?

カミュは歩けるようになったけれど
ぼくの身体にまたがることは難しそうだ

だけどカミュはあきらめなかった

ぼくが走ることをあきらめている間に
彼は何度も
何度も
歩く練習をしていたんだ

もう一度ぼくと一緒に走るために

カミュ わかったよ
もう一度走ろう
ぼくに乗ってくれるかい?

ぼくはカミュに近づいて座った
カミュが乗りやすいように
とても時間がかかったけれど
ぼくは待った

カミュがまたがったら
彼が落ちないようにそっと立ち上がった

野原へ出る

まばゆいほどの光が
ぼくたちを包み込む

さあ走るよ

最初はゆっくりと
徐々にスピードを上げていく

カミュはぼくに乗ると
まるでレースに出ていた頃のように
ぼくの身体をコントロールして
ぴたりと息を合わせてくれた

ぼくは身体の奥底から
力が湧き上がってくることを感じた

土を蹴る力がどんどんと強くなって
ぼくたちはひとつになっていく

ぼくたちはもう一度風になった
まばゆい光を放つ虹色の風
どこまでも走れると思った

カミュ 会いに来てくれてありがとう
ぼくはきみの顔を見た瞬間
エネルギーが湧いてきた
きみとまた走りたいと思ったよ

きみは本当に走ることが大好きなんだね
ぼくもまたきみと走ることができて
本当に嬉しいよ

カミュの目からぽろぽろと
涙がこぼれる
涙に光があたってきらきらと輝く
それはとても美しい涙だった

カミュ もう一度ぼくは走るよ
あの頃のように速くは走れないけれど
ぼくはこうして人と一緒に走ることが
大好きなんだ

ぼくたちはかけがえのない友だち
虹の橋を駆け抜ける

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?