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「最も美しい(中世の)村」の(ローマ時代の)「モザイクの家」

 ローマは言わずもがな、イタリアはたいてい、どこを掘ってもすぐ何かしらの遺跡が出てきてしまうから、新築工事などするときは要注意、(うっかり)何か出てきてしまうと、そこから調査だのが始まってあらゆる工事はストップ、いつまでかかるかわからないから、(こっそり)埋め戻してしまう。・・・などと半分冗談、半分以上本気で聞いたことがあるけれど、公共工事にとってもそれはありがたくも悩ましいところであるに違いない。
 
 ウンブリア州の小さな町、スペッロに「モザイクの家」というのがあるのを知って、えっ?と思った。その隣の隣の町、ペルージャに住んでいたときに、スペッロにも訪れたことがあるのに、これは聞いたことがなかった・・・が、その頃はまだそこまでモザイクにハマっていなかったから見逃していたのだろうか?
 「イタリアの最も美しい村」のひとつに認定されているこの村(正確には「町」なのだが)の城壁のすぐ外側で、まとまったローマ遺跡が見つかったのは、ほんの偶然のできごとだったという。2005年、新たに駐車場を建設していたところ、ローマ時代の床モザイクが見つかった。もちろん駐車場工事は中止、文化省、ウンブリア州、考古学・景観ウンブリア管轄局、スペッロ市による発掘、調査研究、修復や補強が行われた上で、2018年3月24日、「モザイクの家(Villa dei Mosaici)」博物館としてオープンした。(・・・というわけで、私がペルージャに住んでいた時には、まだ知られざる存在だった!)

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 見つかったのは、ローマ時代の典型的な邸宅(ヴィッラ)の中央部分にあたる全20室で、広さ約500平方メートル。建築時期は大きく2つに分けられ、セメントで固められた床部分が初代ローマ皇帝アウグスティヌス時代(紀元前27年から紀元後14年)初期つまり紀元前で、残りは紀元後2世紀から3世紀初めのものだという。
 現在はその全体が丸ごと博物館となって、体育館のような一つの大きな空間の中で見渡せるようになっている。ぐるっと周囲から俯瞰できるほか、間に通路が渡してあり、すぐ近くから観察できる。
 20室のうち、10室には、床モザイクが残されており、さらに鮮やかの色に塗られた壁も残っており、中にはうっすらとながら、絵が見えているところもある。

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 入ってすぐ目の前にあるのが「鳥の間」。

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 最も大きい部屋は、家の主人が、客人とともに、それぞれ壁沿いに置かれた長椅子に横たわり話をしながら食事をしたという「トリクリニオ」で、縄目模様で区切られたスペースの中に、動物や人の姿が見える。個々の表現は、2世紀ごろからローマでも主流になっていた、白地に黒のみながら写実的なスタイル、ただし赤茶のポイント使いが効いている。また、一部グレーを使うことで、より繊細な表現がなされている。

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 もうひとつ、おもしろいのが「輝く太陽の間」。八角形の中心で太陽がニヤリと微笑み、そこからシャキーンと光線が矢のように放たれ、その合間に鳥たちが配置されている。まるでタロットカードの1枚か何かのよう。間違いなく、何か意味があったはずだが・・・。

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 さらに、「ペリスティリウム(柱廊)」や、床暖房のシステムのあった部屋も、と、ローマ邸宅遺跡としては、完璧といっていいほど、世紀の大発見だったと言えるだろう。
 いくつか、当時の様子の再現映像などもあり、ゆっくり見学している内に、実際にこの邸宅に招かれているような気になってくる。
 今のところはまだ、当時の所有者の名前などは分かっていないらしい。とはいえ、これだけの大きな邸宅を持っていたのだから、かなり裕福な人物であったことは間違いない。今後ますます研究が進むことを期待したい。

 鉄道駅から町の中心部に向かう途中にあり、アクセスにも便利なのは、極めて幸運な遺跡発掘例と言えるだろう。(最も、電車は単線のローカル電車なので、あらかじめ時刻表をよく確認しておくことをおすすめする。)

 いやーすごいねえ、あんなものが出てくるんなら発掘作業してみたいねえ、いや私はやっぱり、出てきたのを見るのが好きかなあ、私は当時のあの邸宅に住んでみたい!・・・と同行した友人たちと勝手なことを言い合いながら町を散歩していたら、なんと実際にこの発掘に関わったという人に全く偶然遭遇したり。旅はやっぱりおもしろい。

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Villa dei mosaici di Spello
https://www.villadeimosaicidispello.it

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08.02.2021


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