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認知症おとーさん日記 Jul.10〜12 2021

10日の午後、おとーさんと妹Rちゃんと3人でグループホーム見学に出かけた。4年前に一度見学させてもらっているのだけれど、そのときに見せてもらった部屋とは反対側の端の部屋がおとーさんが入居する部屋だった。南向きで明るい。左手には藻岩山も見えるし、右手奥には山の緑も望める。10畳ほどある部屋の中には、お茶を淹れたり顔を洗ったりできるシンクと備え付けのクローゼット、トイレ、介護用のベッドが備わっている。十分な広さがあるから、家から使い慣れた家具を運び込むこともできるので、Rちゃんとあれやこれやと計測している間おとーさんはベッドに腰掛けて、部屋の中を眺めていた。

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「ここは明るくていいな。」
「よかったね、南向きのお部屋で。」
「おとーさんはここに住むのか?」
ちょっと不安そうに言う。
「うん、おねーちゃんが東京にいる間はここに住んで、帰ってきたらお家で一緒に過ごすことになるんだよ。」
「まだ早いよ。」
「そうだね。そうなんだけど、春に転倒して入院しているし、圧迫骨折は一度やるとなりやすくなるらしいから、ひとりでいる時に何かあったらって心配なんだよ。」
「えっ?そんなことがあったのか。覚えてないな。入院したって?」
「そうだよ、1ヶ月以上入院してたんだよ。」
「そうか…」
「だから、ひとりの時はここで過ごして、わたしが今まで通り1〜2週間こっちに来たときはお家で一緒に過ごすことにしたほうがいいねってみんなで話したの。」
「わかった。」

一応納得はしてくれたけど、コロナ禍中で今のところは外出も外泊もできないんだよね… だからしばらくは会えなくなっちゃうことはナイショにしておいた。
入所日は今月いっぱいを目処にと言うことだったけれど、急なので、一応8月の初めまでであれば良いことだった。入所にあたって必要な書類のこと、荷物の搬入はコロナ禍なので業者さんは入れないこと、入所前にPCR検査を受けることなど注意事項を聞いてグループホームを後にした。

帰りの車中で
「あそこは週末だけ家に帰るってことはできるんだろ?」
と、おとーさん。
「いやぁ、どうかな。難しいんじゃないかな。」
「だったら、行かない。」
「とりあえず入ってみて、様子をみてからでもいいんじゃない?」
「そうだよ、一度入ったら絶対出られないワケじゃないしね。」
Rちゃんとふたりでドギマギ。ああ、やっぱりお家がいいんだよね…

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翌11日。本当はきのう東京に帰るはずだったのだけど、見学をした後にすぐ帰ってしまってはおとーさんの情緒が不安定になってしまうことを懸念して、帰京を明日に伸ばした。きょうも朝からお天気がよかったから、朝食後に大倉山まで散歩に行くことした。圧迫骨折以来、腰が痛くて長い距離を歩くのは辛いおとーさんに合わせてゆっくりゆっくり歩く。途中、
「辛かったら引き返そうね。」
と声をかけたけれど、
「ここまで歩いたんだ。ゆっくりだったら大丈夫。」
と目的地のジャンプ台までたどり着き、しばらくぼーっと休んだ。こうして一緒に散歩ができることが本当に幸せだと思う。
帰り道、大きなお家の前を通るといつものように、
「子供が大きくなって巣立っていったら、こんな大きな家だと淋しいな。」
と言う。うちは決して広いマンションじゃないけれど、それでも使ってない部屋はあるから、自分と重ね合わせてるんだろうな…

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その翌日の12日。
これが最後になるのか…と思いながら、冷凍おかずセットを作った。突然の最後通告だったから、なんともしまらない内容になっちゃってわたし自身は不完全燃焼だったけど、きっとこんなもんなのだろう。せっかくいい具合に副菜の分量も作れるようになっていたのになぁ。(4年もかかってること自体、ダメだけど)

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夕方一緒に早めの晩ごはんを食べて、バス停に向かう。おとーさんが荷物を持ってくれるのも最後。ああ、切ない。別れ際、バスの窓ガラスに手を当てるおとーさん。まるで恋人同士だよ…と思いながらも胸がギュウッとなった。

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