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カヤの秘密の冒険(3)2,284文字

二人はドングリを拾いながら、コリンの家に向かった。

カヤはドングリ拾いに夢中になっていた。
家の近くだと小さなドングリしか落ちてないし、こんなにいろんな種類のドングリは見たことがなかった。

大きいもの、小さいもの。
まるいもの、細くとがったもの。

よく見るとドングリの帽子の模様がどれも違う。
そのたびにコリンがドングリ博士になって、ドングリの説明を始めるが、カヤはドングリの種類はどうでもよかった。
ただ、このつるつる輝いているドングリたちを集めることに夢中になっていた。

そのとき、ひときわ大きく、まるまるしたドングリを見つけた。

「りっぱなドングリだね!これはクヌギだよ。
 形もいいし、駒にしたらよく回りそうだね」

「駒に!?わたし、作りたい!」

「それじゃぁ、家まで急ごう!」

二人はドングリをポケットにしまい、コリンの家まで小走りで向かった。


「ほら、見えてきた。あれが僕の家だよ」

コリンの家は山の中にポツンと建っていた。
木でできた家で、煙突からは煙が出ていた。

(木の上じゃなくてよかった)

コリンは走る速度を上げ、勢いよくドアを開けた。

「ただいま!母さん!人間のお友達を連れてきたよ!」

「コリン、ドアは静かに開けてちょうだい」

お母さんリスはいすに座って編み物をしていた。
カヤもコリンの後について家の中に入った。

「なんの友達?」

そういって、顔を上げカヤを見た。

「まぁ、人間の子ね。」

母さんリスの目がまん丸く見開いた。
カヤは居心地が悪くもじもじしていた。

「川に行く途中で会ったんだよ。一緒に遊んだの。
 釣りも一緒にして、ほら、見て、よく釣れたでしょ?」

「まぁ、まぁ、そうだったのね。
 母さんも人間さんに会うのは久しぶりだわ」

母さんリスは編み物をテーブルに置き、こちらに近づいてきた。
コリンより二回りほど大きく、カヤよりも頭一つ分大きかった。

「こちらの世界に紛れ込んでしまったのね。
 昔はよくあったんだけど、最近は少なくなってね」

ここが自分の住んでいる世界ではないことはわかっていたが、カヤはコリンと遊ぶのが楽しくて、そのことを考えないようにしていた。
しかし、大人にはっきり言われると急に不安になってきた。

「あの、私来ちゃダメでしたか?」

「いいえ、大丈夫よ。
 ただね、帰り道が」

「ぼくわかるよ」

コリンが、母さんリスが話終わる前に割り込んできた。

「家から川に行く途中の道で会ったんだ。
 そこの場所まで僕が送っていけばいいよね。
 だって、カヤはそこからまっすぐ来たって言ってたもん」

カヤはほっとした。

(そうよ、あそこまで行ければ、あとはまっすぐだもの。すぐに帰れる)

「たぶん、その道はもう閉ざされているわ」

「え?」

「カヤっていうのね。
 カヤは、この世界とカヤが住んでいる世界が違うのはわかる?」

カヤはうなずいた。

「昔はよくつながることがあったらしいの。
 でも、最近は本当にめずらしくって。
 たまにこうしてつながるときがあるけど、すぐに切れてしまうのよ」

カヤは、体がつめたくなるのを感じ、心臓はどくどく脈打っていた。

(私帰れないの?)

「母さん、どうにかならないの!?
 カヤ、おうちに帰れないんじゃ、かわいそうだよ」

「まだ、今なら間に合うかもしれない」

カヤは、わらにもすがる思いで母さんリスを見た。

「あっちでつながりが強かった人の持ち物かなにか、持ってないかしら?
 ハンカチでもアクセサリーでもなんでもいいの。
それをもってその持ち主のことを強く、強く思うと帰れることがあるって私のおばあちゃんが言っていたわ」

(つながりが強い人。ハンカチ、アクセサリー)

ふと、腕時計をしていることに気が付いた。もう門限の時間になりそうだ。

「これ、お母さんに借りてる時計。これじゃダメ?」

「ああ、よかった。大丈夫よ」

カヤは泣きそうになった。

(お母さん、お母さんに会いたい)

「ほらほら、まだ泣かないで。
 時間がたちすぎると、あなた自身のあちらとのつながりが薄くなってしまうから、早く始めなくちゃ」

「どうすればいいの?」

「今、お母さんに会いたいと思った?
 そうしたら、その気持ちをもっと強く、強くしてこの時計に込めるの。
 お母さんに会いたい、お母さんのところに帰りたいって」

「それでいいの?」

「それが大事なの。あなたにはちゃんと帰るところがあるんだから。
 大丈夫、帰れるわ。さぁ、目を閉じて。強く、強く念じるのよ」

カヤは時計をしていない手を時計に重ね、目を閉じた。

(お母さんのところに帰る)

(お母さんのところに帰る)

と、何度も何度も心の中で繰り返した。

どこからか風が吹いてきた。
カヤの周りが光始めた。

カヤはまだ目を閉じ、時計を胸に押し当てた。心の声はそのうち小さなつぶやきになっていた。

「お母さんのところに帰る」

光は一気に強くなり、コリンとお母さんリスは目を開けていられないほどになった。

光が弱まりコリンが目を開けるとそこにカヤはいなかった。

「お母さん、カヤ、ちゃんと帰れたかな?」

「そうね、そうだといいわね」



カヤは目を覚ました。
寝ていたらしい。
体を起こし、ぼーっと下を見ていたら、腕時計が目に入った。

顔上げる。初めて来た公園のトンネルの中だった。
すぐそこに出口がある。

「帰って来れた?」

カヤは急いで外に出た。
もう、公園に人はいなかった。

「早く帰らなくちゃ」

自転車のところまで走っていき、勢いよく飛び乗った。
そのとき、ポケットに何か入っていることに気が付いた。

ポケットに手を入れてみる。

ドングリだ。

カヤはじっとドングリを見つめ、またポケットに戻した。

そして、ペダルをぐっとふみこみ、家に向かって自転車を走らせた。

(終わり)

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