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カヤの秘密の冒険(1)1,293文字


「近くの公園で遊んでくる」

カヤは家を出るとき、お母さんにそう言って出かけた。

でも、近くの公園には行かなかった。
今日は一人で行ったことのない公園に行くつもりだった。

「大丈夫、それほど遠くには行かない。車で通ったときに見たあの公園に行くだけ」

そう自分に言い聞かせた。

お母さんは、そこの公園は踏切を越えないといけないから、一人で行くことを許してくれなかった。
「今度、お母さんと一緒に行きましょう」
と、いつも言われるけど、その今度はずっと来ない。

カヤはちらっと腕時計を見た。

小学校二年生になって、門限を守らず帰ってきたとき、
「時計が近くになかったから時間がわからなかった」
と、言い訳したら
「じゃあ、お母さんの腕時計を貸してあげる。これならいつでも時間がわかるでしょ?これで門限が守れるわね」
と、言われて貸してもらっているお母さんの腕時計だ。

この腕時計を見るとお母さんを思い出す。
だから、友達と遊ぶのが楽しくても、途中で切り上げて帰ることができた。同級生たちの中で腕時計をしている子はいないので、少し大人になった気分もする。
そして、単純に時間がすぐわかるから便利だった。


しばらく自転車をこいで、お目当ての公園についた。

なぜこの公園に来たかったのかカヤにもわからない。
本当にこの公園に来たかっただけなのか、ただ1人で冒険したかったのか?
たぶん、後者のほうが強かった。
一人でも知らないところに行ける。一人でも目的を果たして帰って来れると証明したかった。

「大丈夫。時間までに帰れば私の秘密の冒険は成功よ」

自転車を入口付近に止め、カヤは最初にブランコのところに行った。ブランコをこぎながら公園の様子を眺めていた。
みんなで鬼ごっこをしているらしい。年齢はバラバラで6年生くらいの子から幼稚園児くらいの子も一緒になって走っている。

(これなら、入れてもらえるかも)

カヤはブランコから飛び降り、鬼ごっこの輪の中に入っていった。
その中で同じくらいの年の男の子に

「私も入れて!」

と、言った。
男の子は、

「おう!今あそこにいる赤い服のやつが鬼だ」

と、言って走って行ってしまった。

カヤは鬼から逃げるように走りだしたが、鬼にターゲットにされたのだろう。後ろから追いかけてくる音が聞こえる。
カヤは後ろを振り向かず、公園の端にある丘を目指して走った。
丘の下には、丘の中に入れるトンネルがあった。カヤはトンネルに走りこんだ。
トンネルは中腰になって歩けるくらいの高さだ。

まだ、鬼役の子が追いかけてくる気配がした。
カヤはどんどん前に進んだ。
どんどん、どんどん進んだのに出口が見えない。

(この丘こんなに大きかったかな)

少し、不安に思いながらもカーブを曲がると出口の光が見えてきた。
カヤはスピードを上げて、出口に飛び出した。

そこは森の中だった。

「あれ?公園の隣にこんな森あったかな?」

鳥や虫の声は聞こえるが、子供の声が聞こえなかった。

「長いトンネルだったから?」

カヤは時計を見た。門限までまだまだ時間がある。

「すこしだけなら大丈夫だよね」

後ろを振り向き、さっきは出口だったトンネルの入り口を確認して、カヤは森の中を進んでいった。

(つづく)


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