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カヤの秘密の冒険(2)1,861文字

カヤは森の中を進んでいった。

周りを見渡して不安になってきた。
最初は平地だと思っていたが、斜面がある。

(おばあちゃんの裏山に似てる。もしかして、山なのかな?)

カヤが知る限り、近所にこんなに大きな山はない。
それに車の音や人の声が聞こえない。
聞こえてくるのは木のこすれる音と鳥や虫のさえずりだけ。

(どうしよう。戻ろうかな?)

そう思ったとき、前に何かが飛び出してきた。

「わっ!」

「わっ!」

飛び出してきた者も驚きの声を上げた。

カヤは飛び出してきた者を凝視して動けなくなってしまった。

リスだ。
カヤの胸くらいの大きなリス。
リスは二本の足で立っていた。
ピンと立ったしっぽがふさふさしている。

そして、洋服を着ている。

緑色のオーバーオールを着て、服と同じ生地で作られたつばが大きな帽子をかぶっていた。帽子には赤い羽根が刺さっていた。

(今しゃべったのは、このリス?)

「君は人間さん?」

(しゃべった!!!)

自分の胸の鼓動がわかるくらいドキドキしていた。

「そ、そうよ。
 あなたはリスさん?」

「そうだよ!ぼく初めて人間に会ったよ。
 本でしか見たことなくて」

カヤは動物園でリスを見たことがあるが、それはとても失礼な気がして黙っていた。

「ここはどこ?日本じゃないのかしら?」

カヤは自分で言いながら、どう考えても日本ではないとわかっていた。

「日本?よく分からないけど、違うと思うな。
 君はそこから来たの?」

「そうなの。気が付いたらこの森にいて」

「僕たちは山って呼んでいるよ。
 ねぇ、君、帰り道はわかる?」

「たぶん。この道をまっすぐきたの」

「そうなんだ。僕の家はこの山のもっと上のほうなんだけど、今、山のふもとの川に行って魚釣りをするんだ。きみも来る?」

カヤは悩んで時計を見た。
門限までにはまだ時間があった。
このまま行って、ちゃんと帰れるだろうか?お母さんには近くの公園と言って出てきたのに。日本じゃないところに来てしまった。
そんなことが頭をよぎったが、好奇心のほうが勝った。

(大丈夫。時間までに家に帰れば。
 それに私、川で魚釣りなんてしたことないし)

「いいよ。」

「よし、行こう!こっちだよ」

子リスはどんどん山を下って行った。
カヤもあわてて子リスについていった。

「ねぇ、人間さん、名前は?」

「カヤ。リスさんは?」

「ぼくはコリンだよ」

コリンは山の斜面を軽々駆け下りている。
カヤはついていくのがやっとだ。

しばらくすると、水の音が聞こえてきた。

「ぼくのおすすめの場所は、もうすこし下流にあるんだ」

後ろを振り向きながら言ったタックにカヤはうなずいた。

(あとどれくらい歩くのかな?)

山で遊ぶなんて思っていなかったから、足首が出ているズボンをはいてきてしまった。
足首に木の枝や葉があたりひりひりしていたが、ここでコリンに置いていかれたら「そうなん」してしまうと思い、一生懸命コリンについていった。

コリンのおすすめの場所はそう遠くなかった。

コリンはちょうどいい枝を二本見つけた。
枝の先に持ってきた糸と針、エサをつけてカヤにも一本くれた。

「川をよく見てごらん」

コリンに言われてカヤは川じっと見てみた。

「あ!跳ねた」

「ね!ほら、また。あそこを狙うんだ」

コリンは見本を見せてくれ、見事に釣って見せた。

カヤも見様見真似でやってみた。
しばらくすると釣り竿がぐっと引っ張られるのがわかった。

「ひいて!」

コリンに言われカヤは釣り竿を持ち上げた。

「釣れた!」

糸の先についた魚はびちびち動き竿を振動させていた。

「こ、これどうすればいいの?」

糸の部分をつかもうとしたが、動く魚のせいでなかなかつかめない。
コリンは素早くつかみ、魚を針からとって持ってきていたカゴに素早くほうりこんだ。

「ありがとう」

カヤは自分が釣った魚を見た。銀色に黒い斑点があり真ん中にはうっすら赤い線が入っていた。つやつや、キラキラした魚はカゴの中で暴れている。
魚は普段は切り身しか見ないので生きている魚がこんなつやつやしているとは知らなかった。

そのあとコリンはもう二匹釣り、全部で四匹になった。

「家に帰って母さんに焼いてもらおうよ!」

「え!この魚食べられるの!?」

「食べられるよ。食べられなかったら、川に戻してるよ」

コリンは少し笑いながら言った。
カヤは少し恥ずかしくなった。でも、自分が釣った魚が食べられると思うとわくわくした。

二人は釣りの後かたずけをして、コリンが魚が入ったカゴを腰につけた。

「帰りはドングリを拾いながら帰ろう。母さんが魚を焼いてくれる間、ドングリであそぼう!」

カヤはにっこり笑ってうなずいた。

(つづく)




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