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「現代ロシア文学入門」

ポスト・ソヴィエト文学研究会 編  東洋書店新社

リュドミラ・ウリツカヤのインタビュー

聞き手は「陽気なお葬式」の訳者でもある奈倉氏。2021年2月。
この直前、ウリツカヤは乳ガン摘出手術をしていて、奈倉氏は心配していたが、そんなことを感じさせない料理の振る舞いだったという。ウリツカヤには(も)?祖先にユダヤ系の血筋がある。本人によると「記憶力が悪く」、それを補うために日記のようなものを書いていたという。だんだんそれ以外も書きたくなってフィクションを書いていった。

「寛容」というテーマについて、「寛容」というロシア語には「ユダヤ」を連想させる文字並びがあり、他の例えば「許容」では「忍耐」から派生したので、それと元々の「寛容」が対立する意味になる場合がある、という。ウリツカヤはロシアでは、政治的発言も(自分の思ったより)行っていて、いろいろな立場の人を理解しようプロジェクト?でホモセクシャルの人を取り上げた時は批判があったという。ロシア語では(日本もそう?)「女流文学」という言葉に「男性文学」より劣っているというニュアンスがある。そのため、(元々多くの名詞に性変化があるロシア語の)語尾を新しく(「カ」など)しようという動きもあるらしい。ウリツカヤ本人は特に自分の呼ばれ方を気にしていないというが。
…というウリツカヤも、2022年ロシアのウクライナ侵攻で、安全面からドイツに移住したという。
(2022 12/04)

奈倉氏のインタビュー企画第二弾はドミトリー・ブィコフ


自分は今回この本で初めて知った。中心はブィコフの「四半期」の紹介。この本は読者参加型というか、ビジネス書のノリで課題を出していく、という内容。もちろん中身は文芸であるのだが、ブィコフ言うには、本当に「この本読んで助かりました」という人もいたという。

海外からのインタビューをほとんど受け付けないブィコフだが、それは「スパイ」容疑で処理されるのを警戒して。この時のブィコフの見立ては「寒の戻り」だったが、2022年になって「冬将軍」な時代になり、ちょうどアメリカにいたブィコフはロシアに戻るのを止めている。最も、その前にも「毒殺計画」(Tシャツに毒をかける)があったらしく、奈倉氏がインタビューの謝礼を渡そうとしても「国外から金をもらうのは、即スパイとされてしまう」と答えている。
でも、アクーニンやウリツカヤなどの写真を書店に出して「民族の裏切り者」と掲げるというのは、想像の上を行く。
(2023 01/03)

オリガ・スラヴニコワ「チェレパーノフの姉妹」(岩本和久訳)


短編パート1作目
沼に囲まれた小さな村メジャンカ。そこに住むフョークラとマーシカのチェレパーノフの姉妹。自家製造の酒だけ作って停滞しているこの村(ウラルにはこのような村が実際にあるのだろうか)に、ある時、「ロシアで蒸気機関車を初めて作ったのはこの姉妹の先祖です」とジャーナリストが取材に来る。そこから、姉妹の新たな鉄道事業が、そして村の再生が始まる。地区のトップのセレモニーの、マーシカの悪戯がきっかけで、運命は反転し元の村に逆戻り(p75の警察主任のペーチャは何を思ったのだろうか)。でも、何かが残るラストは、以前読んだ「ヌマヌマ」の「弾丸列車」と共通する。
引用は最初の方と最後の方。

 沼は息づき、かすかに揺れ、寝返りを打った。ぐらぐらする草の上に歩み出た人々は足の下に深い獣の腹を感じたが、この腹からは時々、にぶい腸の音がした。およそありえない、ほとんど魔法のような生命力が、沼にはあった。
(p48)


沼の生命力。それはお酒を作ることもでき、蒸気機関車を動かすこともできる。まだ、ここ読んでいる時には何が始まるのかはわからないけれど、その生命力は読んでいる身をも包み込み、何かが始まる期待感を抱かせる。

 翌朝、発見された時には、彼は土台穴の底で大の字になっていて、靴底を点検したかったみたいに右脚を曲げていた。その生気のない大きく見開かれた目は、凍った巣のようなセロファンに包まれた白い錠剤を思わせ、また、七本の瓶のうち二本は割れずに残っていた。
(p77)


ミーチカという青年の冬の死。ウォッカの瓶を(自らより)大事にしていたような。この土台穴は、村が再生した時に記念の塔を作ろうとしていた時のもの。
この短編、鉄道がテーマの短編集「七号車の愛」(2008)に収められているというが、前の「ロシアの弾丸列車」もそうなのかなあ。あと、「エゾノウワミズザクラ」(秋草俊一郎「ナボコフ訳すのは「私」」第6章…チェリョームハ)早速出てきた(p62)…
(2023 03/05)

今朝はパラパラめくる。女性作家も芸術家兼作家もたくさんいて気になる…
そんな中、ひとつだけ座談会で気になる発言が。ロシア文学の翻訳は、様々なジャンルが(これも?と思えるものも)されているという指摘。これ、ポーランド文学との比較で、らしい。ポーランド文学では現代ものはシンボルスカとかトカルチュクとか有名賞をとったものしか翻訳されてないのに比べて…どうだろう?個人的にはそんなこともないのではとも思うのだけど…ポーランド文学研究者の見解求む…そして両方の目利きの沼野充義氏の総括なども…
(2023 03/12)

「ソスノヴァヤ・ポリャーナ アーシャ」クセニヤ・ブクシャ(1983-)(松下隆志訳)

急ぎ足で読んだので、もっとじっくり味わえ、ばもっといろいろ発見あったかも。この短編は「内へ開く」(2018)という連作短編集の冒頭の作。ソスノヴァヤ・ポリャーナというのはペテルブルク南西郊外の住宅地。実の父を見つけ出そうとしているアーシャを中心に様々な声が織り込まれるポリフォニックな構成。これが冒頭だったら、「内へ開く」全体はどうなっているのか気になる、楽しみ。そして代表作という「〈自由〉工場」(2013)というソ連時代のある工場の歴史を自由に描いたというのも気になる…
この本に紹介されている作家のうち邦訳あるのは、冒頭のインタビューのウリツカヤ除けば、「ヌマヌマ」のスラヴニコワだけだし(下記補足参照)…ロシア文学に限らず、知られていない、あるいは知られ始めている現代作家の作品もっと読みたい。
(補足:「四人のナース」のエヴゲーニー・ヴォドラスキンは「聖愚者ラヴル」が翻訳されている)
(2023 03/21)

ローラ・ベロイワンの「コンデンス-濃縮闇」(高栁聡子訳)


作者は1967年カザフスタン生まれ。だからか、海が好きでナホトカの造船業やタヴリチャンカ村の海獣保護センター(両方極東地域)で働く。後者でのブログで有名になり、2006年作家デビュー。
この短編は『南ロシア・オフチャロヴォ村』という短編集?の冒頭。南ロシアというのに極東にあるというこの村での30もの短編。
この本の短編コーナー、一作品一訳者のためか、この短編と1作目のオリガ・スラヴニコワ「チェレパーノフの姉妹」(岩本和久訳)が似ている点が多い。沼の瘴気、小さな村、科学技術とマジックリアリズム…読んでいて面白かったけど、「愉快なネタと仕掛け」はよくわからなかった。
(2023 04/03)

一つだけ。座談会に出ていた「ダニーラ・チェレンチエーヴィチ・ザイツェフの物語と生涯」という、ロシア旧教徒(分離派)の、中国で生まれて南米で暮らしていた人の話。言語自体も中世ロシア語に近いという。これはさすがに訳されてないよね。とても気になるけど…
(2023 04/09)

「アイボリット先生」パーヴェル・ペッペルシテイン。岩本和久訳

「カーストの神話生成的愛」第二巻(2002)の32章。第二次世界大戦の独ソ戦が、ドゥナーエフという人物の幻覚としてここでは現れる。この章はソ連領内の戦いの最終章。この後物語はルーマニア、ハンガリー、ヴェネツィア、ベルリンと進んでいくらしい。
どうやら、長編冒頭の舞台でもある工場、そこが廃墟となっている…ところから始まる。ま、幻覚なので、いろいろわけわからないのだが…

 彼らが敵であるのは一面に過ぎない、ゲームの役割に過ぎないんだ。ゲームの外では彼らは敵ではない。だから、今のところは敵の誰かに学びに行くことはない-《ゲームの起源》にたどり着くことはない。君が《ゲームの起源》にたどり着いて、それを覆い隠せたらいいのだが。いいかい、そうしたらゲームはなくなり、世界は癒されるのだ。
(p140)


《ゲームの起源》とは何だろう。このドゥナーエフは幻覚見ているはずなので、幻覚そのものがゲームで、その外枠にある冷めた状態が起源なのだろうか。しかし、人類そのものが幻覚を見ているとすれば…原始時代に戻ることができるのならば起源までたどり着けそうだが、そうでなければ、とりあえずは起源のことを常に考えておくことしかできないだろう。とにかく見える視覚の外側の世界を想像してみること。
物語は理解しがたいが、最後のピアノとともに巨大穴の水の中に沈むところは印象的。
(2023 07/08)

「Zシティのキマイラたち」ジャナール・セケルバエワ(高柳聡子訳)


中央アジアカザフスタン発のフェミニズムSF作品。と聞くだけで興味津々。この作者は書くだけでなく様々な活動をしている。日本に留学していたこともある。
サイボーグボディとサイバー空間への移住を全世界に命じている世界政府。それは地球上のエネルギーが枯渇しているため。しかしそれに反発し肉体に執着する主に男性が残っていてそれらの人々を「キマイラ」と呼ぶ。この作品の主人公ヴァスミトラは女性だが今も残るキマイラ。ただ彼女の場合は他の理由がある。
残された時間もなくなり、最後の移住(リブート)をしなければならないが、それにはたった一人残って作業をする人が必要になる。それに最終的に選ばれたのがヴァスミトラ。リブートが終了し、最後に自分が移住するところで、彼女は鳥を見つける。そして…
(2023 07/09)

ロマン・センチン「よそ者」(松下隆志訳)、エヴゲーニー・ヴォドラスキン「四人のナース」(松下隆志訳)

続けて読んで、この本の短篇読み終わり。
どちらも最後にほろ苦い味わいなのが共通している。「新しいリアリズム」なセンチンの方が落差があってほろ苦度は高いかな。

ロマン・センチンの方は、半自伝的短編らしい。4ページほど読んだところで、また「エゾノウワミズザクラ」が出てきた。
自身のようなモスクワから故郷の町に帰ってきた作家が、どちらにも居場所がないと感じる。後半は旧知の郵便局長をしている女性が、昨日起こった部下の配達員のミスの顛末を話す。あらかた相手が話し終えたあと作家が言った何気ない一言が、この女性の態度を硬化させる。作家本人はそれに気づいていない(書き手のセンチン自身とは別)。確かにその金の出処とか怪しいけれど、そこを相手に気づかれず探ることが「よそ者」の彼にはできない。

エヴゲーニー・ヴォドラスキンの方は、戯曲(2幕構成の第2幕のみ掲載(第1幕はあらすじだけ))。それもコロナを受けてのパンデミック作品。作家は「聖愚者ラヴル」を始め中世ロシアを舞台にした作品が多いが、これは現代劇。死神と名乗る年齢不詳のナースが隔離所に現れ、そこにいたピザ配達員、作家、議員、医長を相手に懺悔させる。すると外から警官と精神科医が現れて、「このナースは精神病院から脱走して殺人を犯している人物だ」ということを告げられる。そこまでに、ピザはスーパーから安く仕入れているし、作家は作品を書けないし、議員は偽者で賄賂を横取りするし、医長は医科大学出てないし…と元には戻れない。でも何故「四人のナース」というタイトルなのだろうか。「四人とナース」ならわかるのだが。まあ考えてみると、この4人もナースと似たり寄ったりなのだ、ということか。
(2023 07/23)

「論考」パート(ロシア側)

「論考」に移り、レフ・ダニールキン「クラッジ」(笹山啓訳)、ワレリヤ・プストヴァヤ「ディプティク」(越野剛訳)のロシアでの論考をまとめて。特に前者は知らないことや名前が多くてそこはあまり考えずに読んだ。
「クラッジ」は相互に関連しない複数のプログラムを組み合わせて動かしてみた不恰好なプログラム。「ディプティク」は二枚の板をつなぎ合わせた二つ折りの絵画・書字板のことを指す。

「クラッジ」からは2箇所。まずはブィコフ(この本にインタビュー載ってるブィコフだと思われるが)の「除名者」からの引用。

 起こらなかったこと。これが今のジャンルである。テロは予言されたが、実現せず、自由化も実現せず、戦争も停止中であり、再び皆がゼリーのなかに漂いながら、何も決断することもできないでいる
(p242)


これが2000年代のロシアの空気感。プーチンは起こるべきカタストロフィを一時停止させた。

 一九九三年一〇月は現代史のブラックホールであり、現代の神話を産む母胎である。一九九三年の出来事は、スラヴニコワからペッペルシテインまで、作家たちの頭に絶えず湧き上がってくるゼロ年代の強迫観念、「本物の喪失」と結びついている。
(p261)


確かにこのクーデタが引用されることが、自分の乏しい現代ロシア文学体験でも多いような。この本の中ではペッペルシテインがその好例だろうし、ペレーヴィン「チャパーエフと空虚」でも重要な位置を占めていた。ウリツカヤの「陽気なお葬式」でテレビ見てるのもこの事件か?
結論は、ソ連崩壊後、世界の様々な文学が流入し社会主義リアリズムに保護されていたロシア文学を駆逐すると思われていたのが、様々な立場とスタイルの文学が組み合わされていたのとプーチンの閉塞感ある安定で、「クラッジ」のように動いていたというところ。

「ディプティク」(二枚の板の内の前半部分のみの訳)は、新しいリアリズムについて。プストヴァヤはこの新しいリアリズムに関して母胎は19世紀のドストエフスキーらではなく、20世紀初頭の「銀の時代」なのではないか、という。最後に挙げられているクセニヤ・ブクシャは、この本の短編に作品が掲載されている。
(2023 07/30)

「論考」パート(日本側)


ここからは日本側、ポスト・ソヴィエト文学研究会側の論考になる。まずは越野剛氏の「アレクシェーヴィチと現代ロシアのノンフィクション文学」。ここでは特に「ソ連の記憶と個人の回想」という章が興味深い。現代のヨーロッパでも、声なき声をどう取り込むのかという分野があるという。
(2023 08/02)

木曜日?に高柳聡子氏の「ロシア現代文学における「女性文学」の系譜」、今朝残りを読んで昨年から読んでいたこの本も一通り読み終わり。

鴻野わか菜氏の「ロシア現代アートと文学」。これは前にも断片的に見ていたところ。イリヤ・カバコフ、ニキータ・アレクセーエフ、レオニート・チシコフ。ここでは、妻有で見たカバコフ以外の二人を。この二人(というかカバコフもか)、日本文化に造詣が深いことでも共通点がある。

ニキータ・アレクセーエフ(1953-2021)
連作ドローイング《箒木の宮殿》(「ははきぎ」と読む)は、万葉集や源氏物語にも出てきた「箒木」の物語を主題にしている。それは信濃の伝説で、遠くからは見えるのに近づくと見えなくなる木。

 「箒木」とは、到達できないものというイメージです。箒木を目にして、近づいていき、触れることができるほど近くにきたと思っても、木はいつのまにか遠くにあるのです。また近づいていくと、木はまた消えてしまいます。これが永遠に繰り返されるのです。
(p305 「ニキータ・アレクセーエフ 日本についての書簡」より)


アレクセーエフは2017年に箒木のモデルの木を探しに阿智村へ向かったが、足が不自由だから直前の坂道を登れないということで同行者がその木の樹皮を拾ってきて渡したという。鴻野氏は、ひょっとしたら夢のままにしておきたかったのでは、と推測している。

レオニート・チシコフ(1953-)
アレクセーエフと同年生まれ。

 じつのところ、ぼくたちの体は、潜水服のような入れ物にすぎない。なかにいるのがどんな生き物なのか、だれも知らない。
(p310 「ダイバーたち」より)


潜水服のようにホースがつながり、しかし逆に湖の底にホースがつながっている「ダイバー」と呼ばれる生物。

 でも詩人なら、たとえば松尾芭蕉であれば、月を見れば詩が生まれる。
 木を切りて木口見るや今日の月
(p311 《芭蕉の月》)

「私の本棚-二一世紀のロシア文学 編集委員座談会」


前にチラ見した時書いた、ロシア文学は(ポーランド文学に比べ)翻訳者等の好みで多くのジャンルのものが訳されているとか、旧教徒(分離派)の人が南米にまで渡って中世ロシア語のような言葉で書いた本とか…それ以外で気になったところ。

高柳氏が研究を始めた時は、女性作家についての言及が日本語・ロシア語・英語の文献でもなくて驚いた。
同じく高柳氏の話で、中央アジアや極東からダイレクトにロシア文学をみると複眼的になる、という指摘。
中国とロシアが組んだ巨大帝国とか、中国から入ってきた植物(阿片?)を摂って自堕落に生きるロシアとか、そういう中国とのSF作品もある。

1990年代のポストモダン小説から、2000年代の新しいリアリズム小説へ、マニフェストらしきものも登場してがらっと変わった印象があるが、実は共通するもの続いているものもあるのでは(20世紀初頭の象徴派(ベールイなど)から未来派・アヴァンギャルドへ、という動きも同様で、これもマニフェストもあるが、どちらも遠く離れた自分から見ると違いもあるけれど共通するものの方が多い気が、今はしている)。

というわけで、取り上げられている未邦訳(たぶん)の作家。
アレクサンドル・ベルィフ(1965-)…極東の作家。この人も日本文化特に短歌に造詣が深い。「フロベールの夢」(2013)はソ連崩壊直前に日本短期留学に来た少年が、ソ連崩壊で帰れなくなったという話。語りはフロベールという名前の犬…鸚鵡でもなければヤモリ(過去を売る男)でもない。
「ダニーラ・チェレンチェーヴィチ・ザイツェフの物語と生涯」(2015)分離派、再掲
ソフィア・クプリャーシナ(1968-)…ハルムス的?デュラス的?不要な言葉を一切排したストイックな作風。
ドミトリー・ダニーロフ(1969-)…小説家であり戯曲家。

 理不尽な状況に突然に置かれて、自分の希望とは関係なく暴力的に対話開始されて、その対話の中で他者とわかり合うことの不可能性、あるいは可能性が示される。
(p328)


アレクセイ・サーリニコフ(1978-)…「インフル病みのペトロフ家」(2018)エカテリンブルクの「ユリシーズ」? 一家皆インフルエンザにかかっているので語っていることが現実か妄想かわからない…

「ロシア文学深読みキーワード集」

疲れた?ので、あとはここから、住環境の話題2編を挙げて終わることにする。

バーニャ…ロシア風蒸し風呂。「桜の園」ではトロフィーモフが寝泊まりをしたり(臨時の宿泊所、ここにいること自体が人物の位置評価がわかる)、スメルジャコフがここで生まれたり(一般的にもお産の場所だったらしい)、社会的通過儀礼の場所だったりする。

コムナルカ(共同住宅)…20世紀初頭から都市の住宅事情は劣悪で、革命後は住宅が接収され労働者たちに分配された。1920年代後半からは、他の家族も同じ部屋に詰め込まれたりする。こうして歪み合い、相互監視、反対に家族を越えた連帯など文学的な場ともなる。あの「巨匠とマルガリータ」の50号室もコムナルカではないか。
(2023 08/06)

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