「チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学」 小川さやか
春秋社
以前図書館で、タンザニアの商人の本「都市を生きぬくための狡知 タンザニアの零細商人マチンガの民族誌」を借りて少しだけ読んだ。その著者が、今度は香港に移住したタンザニア商人の話をまとめた。初出は春秋社のサイトの連載。
北条早雲、黒田重隆、そしてチョンキンマンションのボス
なんだかよくわからないタイトルだけど、黒田重隆(官兵衛の祖父)は質草をとらず低利で金貸しをして領民を助けた。これ北条早雲とも似ているところがある。これとまた似たようなことを、今読んでいる「チョンキンマンションのボスは知っている」のカラマが言っていた。初めて香港に来たアフリカ人を騙して金を取るのは簡単だけど、そうしなかったから信用を増すことができた、と。
(2020 08/08)
香港とニューヨークの異国人たち
「チョンキンマンションのボスは知っている」より第2章まとめから。
ここの第2章では、タンザニアと香港の助け合い組合(そこに広州やケニアやウガンダの組合も加わる)の実際を、香港で亡くなった人の遺体輸送(東アフリカでは故郷に送って葬儀をしたいという人がほとんど)を。中心となるメンギという人の場合は、正式な許可を得て働きに来ており、また双方に家族がいたことから順調にいったが、ボス・カラマも含む非公式(難民申請)とか初めてきた人の場合とか、それでも彼らはできる限りのことをするという。その考えの枠組みが上の通り。また様々な人が「ついでに」いろいろなことをできることだけやっていくことの連鎖が組合をもたせている。
(2020 08/09)
カラマの自動車ブローカー業
カラマと著者の関係もそうであるように、対客の人間関係ではその人の「友人」という身分が宣言され周りはそれを認めるが、その他の物品やノウハウなども含め多くは、タンザニア出身の香港中古自動車ブローカーの仲間内で上に述べたように「ついでに」の理論でよって分け合う。
またここで詳細に見た中古バス?の購入の際には、バスをコンテナに入れたあと車内外の隙間に商売あるいは顧客自身の用途のためにいろいろ買って詰め込むこともある。こうした物品の価格も手間賃も一切ブローカー側が持つ。顧客にはあくまで売れた車の台数の代金のみしか請求しない。
とりあえず第3章読み終わり。
(2020 08/11)
転落や裏切りも包括する緩やかな仕組み
こういう場を作るための一環として、カラマ達のインスタグラムやフェイスブック、ライブ配信などのネタも使われているという。こんな中、こうした写真などによって著者はカラマ氏の「妻」だと勘違いしているアフリカ人も結構多いらしい…
近代資本主義・近代国家は市場交換と再分配、そしてカラマたちのこの仕組みは分配の上に市場交換が乗っかった格好になっている。分配から市場交換というこの順番は入れ替えられないという。
(2020 08/13)
カラマは何故帰らないのか
第6章。セックスフレンド、シュガー・マミー?と周りの人々という前半と、カラマたちは何故母国に帰ろうとしないのか?という問いの後半。彼らは地元になんらかの投資、不動産購入などをしている。もし香港からの遠隔操作で対処できない事業があったとしたら、その時初めて帰るという。
(2020 08/14)
抜けているから最適な社会
今朝読了。前に読んだイランの商人の本「「個人主義」大国イラン 群れない社会の社交的なひとびと」(岩﨑葉子)と共通点大有りそう。あっちでも中国への買い付け事例あったし。この二人実際の接点もたぶんあるのでは?
最終章から
カラマは「俺たちは真面目に働いているわけではなく、いまここの香港の暮らしをエンジョイしていたいんだ」というようなことを言っているけど、それはアフリカ人だからいい加減なのではなく、実は最先端の暮らし方、社会のあり方なのかもしれない。
この辺の金儲けと個人主義と緩いセーフティネットというのは、先に挙げたイランの事例にも当てはまりそう。
最後に参考文献から、ここでの論点に関するものを、また興味深いものをピックアップ(まだ読めていないが)
マルク・R・アンスバック「悪循環と好循環-互酬性の形/相手も同じことをするという条件で」杉山光信訳 新評論
田中二郎・掛谷誠編「ヒトの自然誌」平凡社 から市川光雄「平等主義の進化史的考察」
岸上伸啓編「贈与論再考-人間はなぜ他者に与えるのか」臨川書店 から丸山淳子「誰と分かちあうのか-サンの食物分配にみられる変化と連続性」
(2020 08/15)
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