ことばの力

言葉は、言語は、プログラムだ。

人は言葉を用いて世界を自由に描くことが出来る、どころか、脳内では実際に世界が展開されるわけである。実際、あなたの脳のネットワークは活性化して「動いている」。

つまり、言葉とは物理を動かすことが可能なのだ。

この事実はシンプルながら結構なところ衝撃的ではないだろうか。

著者の記述した順序に従って文字列は世界を映し出す。リンゴと言えばリンゴが思い浮かべられる。丸い、球体の、と私が続ければ、あなたはそれをイメージせざるを得ない。これは強制力を持つ。

fMRI研究によると、言葉を聞いただけで、関連する感覚野が活性化することが分かっている。例えば、「コーヒー」という言葉を聞くと、嗅覚を司る脳領域が反応する。

これは言葉が単なる音声信号ではなく、複雑な神経ネットワークを活性化させるトリガーとして機能していることを示している。

さらに面白いことに、文字であれば著者との間に、会話であれば発話者との間に共通のイメージ空間を思い描くことが可能な点である。

このイメージ空間というのは認知言語学で言う概念メタファーやイメージスキーマである。簡潔に述べるならば、言葉は記号からイメージスキーマへの写像である。

要するにあらゆる文字表現はプログラムとしての性質を持っているということになるから、なるべく受け手のモーダル、たとえばガラスのように鋭利に働きかけるような言葉遣いをすると、より受け手は動的な、くっきりとしたするどい超解像のイメージを入手することが出来るのである。今の文章は共感覚を利用した。

まとめると、言葉は人のイメージ空間を操ることができるし、その性質を最大限に利用したければ感覚器官に訴えかけるような言葉遣いや、コンテキストを踏まえた言葉遣いをすればいいということになる。

たとえば、あなたの会社の上司にあなたの魅力を訴えかけたければ、まずは観察から入るのがいいだろう。その人の好きな比喩のパターンを観察してみればいい。比喩表現のレベルで、例えばさらさらという言葉を使っているなら触覚が鋭いなということになるので、触覚に訴えかけるような言葉遣いをすれば効果はより鮮烈になる。

文字であればより直接的に視覚に訴えかけるのがよい。文字の質感、テクスチャをそろえたり、音韻のリズムをそろえたり、文章を魅力的にすればいい。

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