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自分の将来に迷った時は【#夏の読書感想文】

─ 娘が進路に迷っている ─

そんなことを言い出したのは、私と同じ職場で、高校生の娘をもつママさんだった。
「娘さん、高校2年生だっけ?」
そう問うと、進路指導で
『将来の希望職種は、士業とか師業が望ましい』
と担任の先生に言われたのだそうだ。
将来の夢は、"栄養士"とか"看護師"とか言わないといけない雰囲気、らしい。

「職業って、"士"とか"師"ばっかりじゃないんだけどねー」と、ふたりで笑いあった。
事務系のしがない派遣社員の私たち。
会社員は職業じゃないって、見知らぬ人に言われた気がして、なんだか複雑な気持ちになった。

彼女の娘さんも、担任教諭の無責任な言葉に惑わされず、自分の思う道に進めるといいな。


私は、自分が将来、何になりたいかなんて、満足に答えられた試しがなかった。

将来、◯◯になる!
そんな思いを具体的に持ってた人って、どれくらいいるんだろう。

辻村深月・著『島はぼくらと』を読み返した。

登場人物のひとりが、

何がやりたいか明確に決まっている生徒なんて、自分の年ではほとんどいないかもしれないが、それにしても自分は本当に何も決まっていないのだなあと思い知る。


こんな風に思うシーンがある。

何回も読み返していて、めちゃくちゃ好きな作品なのだ。

舞台は瀬戸内海に浮かぶ島、冴島。

地平線が見渡せて、杏のように熟れた日が周囲の海に溶ける様子が目の前に広がる。

人口3000人弱のこの島に住み、毎日本土にある高校へ船で通う高校生の物語だ。

ちょっとした謎あり、ささやかな冒険あり。爽やかな17歳の青春!ってカンジの本だけど、実際のところ、私はいろんな年代の女の物語だと思っている。

島の人々に見守られ、素直に育った少女、朱里
片や網元の家に育ち、どこか達観した風情の衣花

見かけも性格も全く違う2人なのに、島で育った者特有の絆で繋がる彼女たち。そして取り巻く女たちも、魅力的な人物ばかりだ。

訳あって故郷を離れ、隠れるように島で暮らす蕗子母娘。

地域の課題を洗いだし発展に繋げる『コミュニティーデザイナー』で、島に溶け込む、しっかり者のヨシノ

ずっと島で暮らしてきて、女の働き口を増やすために会社を立ち上げた、朱里の母たちや朱里の祖母に至るまで。
皆が個性豊かだ。
いろんな登場人物がいるから、読む毎に違う立場で新鮮に読み進められる。

島という小さなコミュニティだからこそ、価値観の相違が際立ち、軋轢がうまれ、遠慮容赦ない言葉の応酬がある。

その部分を丁寧に描いているから、物語を通して、謎が解け、思いを分かちあえた時に、読者も一緒にあたたかい気持ちになれる作品だ。

島を出る者、残る者。
出たその後も絆をつなぐ者。
この1冊で、いろんな女たちの人生が垣間見える。

物語の当初、『将来、何がやりたいか決まっていない』、そう思っていた人物も、島で起こるささやかな出来事をきっかけに、自分のやりたいことを見つけていく。

人生は、転機で大きく変わる。
進学、就職、結婚、出産などなど。

どう生きるかは、結局自分で決めるしかない。

1年間を描いているから、島の四季を味わえるけれど、この作品は断然夏に読むのがピッタリだと思う。夏の開放的な空気が、この作品とマッチしているからかも知れない。

でも、自分のやりたいことを見失ってしまった時は。気づきを求めて、またこの本を手にとるだろう。

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