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悪魔のカレー【#イカ変態同好会】

くコ:彡 くコ:彡 くコ:彡💦ピューン

男性に食事に誘われた。
いや厳密に言うと、「北海道に出張に行った際にお土産を買って来たから、会って渡したい。ついでに食事でも」というお誘いだった。
ずいぶん昔の話である。


周囲からは「デートだ!」と囃し立てられたが、いつもお世話になっている目上の方からのお誘いでもあるし、無下に断ることもあるまいと思って快諾したのだった。


相手は行く店も、もう決めてあるようだった。
「カレーは好き?」
そう聞くので、「大好きです!」と大きく頷いた。
ウソではない。
私は、この世に不味いカレーは存在しない。カレーにハズレなしと固く信じている。
外食先でカレーを注文する率のあまりの高さに、『キレンジャー』と嬉しくないあだ名を頂戴したこともあるくらいだ。


店内は女性客ばかりで、かなり混みあっている。
「この店、人気店なんだって」
すかさず相手が言った。
美味しいに違いない。私の期待は高まった。
メニュー表を開く。
ふむふむ、いろんなカレーがあるのね。
ベースはスリランカのカレーかぁ。


「ここの名物は『悪魔のカレー』なんだって」

んん?悪魔的に美味しいってこと?
やっぱ、名物は食べておかなきゃね。
私は魔がさしたのだ、多分。
悪魔のカレーを注文することにした。

出てきたカレーは、シャバシャバ系の赤いスープカレー。
お肉がごろっと入っている。
ライスがバターライスのように黄色く、丸くこんもり盛られているのが特徴だ。
スパイシーな香りが鼻腔をくすぐる。
美味しそう!いただきまーす。
スプーンで、ひと匙すくって口に入れた。

「!!!」
灼熱地獄だった。
一気にぶわっと汗が吹き出す。
とにかく舌から火を吹きそうな勢いだ。
一気に水を飲み干した。

なんだろう。ピリッとかコクのある旨さとか、もうそんな表現では追いつかない。
ココナッツミルクに唐辛子ばんばん入れましたか?
なんかもう、噴火レベルなんですけど。
ビックリして胃の中が熱くなっている。
そんなカンジのルーだった。

こんな場合、いかにルーが刺激的でもライスがある。
ライスとルーが混ざり合って、何とも言えない絶妙なマリアージュを醸し出すものだ。
私はライスに救いを求めた。

「!!!」
なんと!ライスもまた、かなりスパイシーだった。
何を混ぜたんだ、この黄色のライスは。
ここはぜひとも、ライスはノーマルにしといて欲しかった。
いや、これが悪魔の悪魔たる所以か。
なんという逃げ場のない灼熱地獄。
悪魔のカレーとは、私の健康を脅かしかねない恐ろしいカレーだった。
もう無理って、身体が全身で拒否ってる。
旨いとか不味いとか、そんな批評は出来ない。
とにかく痛い!のだ。

でも貧乏人の性だろうか。
このカレーは食べ物じゃない。
ましてや飲み物でもない。
そう思っているのに、完食しなければ勧めてくれた相手に申し訳ないという自分がいる。
私が涙目になって、必死に食べているのに気がついたのか、相手は「無理しなくていいよ」と言ってくれた。
申し訳ないけど、かなりの量を残してしまったと思う。
相手は、涼しい顔で食べている。
そうだった。
向こうはノーマルなカレーを注文していたのだった。
ちょっとだけ殺意が芽生えた。
自分だけ美味しいもん、食べおって!
いや悪魔のカレーが、どんなものか知らずに、チャレンジした私が浅はかだったのだ。

後日、相手から「リベンジに、また食事しましょう」とお誘いがあった。
先方に罪はないけど、何だか懲りてしまって、そのままその方とは疎遠になってしまった。
ちなみにお土産で貰ったのは、ロイズのミルクチョコレート。それはもう美味であった。
私はカレー好きだが、同時に甘党なのである。

この文章は、小川牧乃さんの『イカ変態同好会』に刺激されて、過去の思い出を書きました!
イカ=異化。面白い♪

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