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ポンプフューリーと私の些細な思い出 - 2023/10/30


ポンプフューリーとは、
言わずと知れたReebokのスニーカーの名称である。

私はポンプフューリーにちょっとした思い出がある。
本当にちょっとした、あまりにも取るに足らない思い出。





私が新卒の頃。

某アパレルショップで販売員をしていた私は、とにかく仕事ができないことで悩んでいた。

そもそも私は元から接客業などしたくなかったが、
私があまりにもクソザコうんちスペックのため、就活の結果その会社にしか内定をもらえなかった。

自分が接客業に向いていないことは火を見るよりも明らかだったため、本当に入社したくなかったのだが、
無職のまま大学を卒業するよりはマシかと思ってやむを得ず入社した。
そんなド底辺のモチベーションでやってる仕事が楽しいわけがなかった。

先輩に毎日怒られ、呆れられ、お客さんに怯え、やりたくもない接客をする日々に耐えきれなくなっていった。

さらに、店舗での接客という仕事の性質上、1日の勤務時間は長くなりがちだ。

朝8時に家を出て、ずっと立ちっぱなしで仕事をして、夜23時に帰宅してご飯を食べて寝るだけの毎日。もともと体力がない私には本当に辛かった。

毎朝、電車に揺られて出勤する時も、職場の最寄駅に近づくたびに勝手に涙が出るようになった。

そんなメンタルの揺らぎのせいか、ありえないようなミスも連発するようになっていき、ますます上司から白い目で見られるようになった。

そのうち、だんだん朝起きるのも辛くなっていった。




もう限界だ、と思った私はメンタルクリニックを受診することにした。

職場の近くのメンタルクリニックに行った。

先生の診察の前に、カウンセリングを受けた。どういったことが辛いのか?ということをカウンセラーがヒアリングしてくれた。

私は言いたいことを紙に全部書いていったけど、その半分も言えなかった。

続いて先生の診察もあった。

落ち武者みたいなハゲ方をした痩せたおじさんの先生だった。

その先生は私の話を聞いてるのか聞いてないのかよくわからないまま、
「うつ病かもね〜」とか言って、いとも簡単にうつ病の薬をだしてくれた。

次回の予約と、処方箋をもらって病院を出た。

「うつ病」という病名と、サインバルタという薬をもらって家に帰った。
薬を飲んでみても、出勤が嫌なことは何も変わらなかった。



メンタルクリニック受診から数日後、
相変わらず鬱々とした気持ちで仕事をしていると、1人の特徴的なお客さんに目を引かれた。

私の視界に入ったのは、落ち武者みたいなハゲ方の痩せたおじさんだった。


あの特徴的な頭は、間違いなくあの時のメンタルクリニックの先生だ!と思った。

私はなんだか急に面白くなってきて、先生に「何かお探しですか?」と声をかけた。
私がお客さんに積極的に声をかけるのは珍しかった。


先生は私が患者だということに気づかなかった。

どうやら先生は靴を探していた。靴紐のないやつがいいらしい。

私は先生の年齢等も考慮して、とりあえずレザーシューズやデッキシューズを色々お薦めしたけれど、
先生が最終的に気に入ったのは意外にもReebokのポンプフューリーだった。
そのまま購入していってくれた。

最後にお礼を言った時に、ついでに私の正体を明かそうかと思ったけれど、
「だから何?」とか言われたら嫌だからそのままお見送りした。



次のメンタルクリニックの予約日がやってきたので、また例の先生にお会いする日が来た。

先生はその時ポンプフューリーを履いてなかった。

でも、診察室の奥の方においてある椅子に、私が勤めている店のショッパーが引っ掛けてあったのが見えた。

それを見たことが私の中で何かのトリガーとなったのか、
なんとなく私は先生に、あの時接客したのが自分だと告げた。すると大いに盛り上がった。

「ええ〜!気づかなかったなあ〜〜!そんなに悩んでるような感じに見えなかったなあ〜」みたいなことを言われた気がする。

私は第三者から見て、ちゃんと販売員として接客ができてたんだな、と思ってすごくホッとした。

ひとしきり談笑してその日の診察は終わった。
なんかもうメンタルクリニックにはこなくていいような気がした。


結局、それを機にメンタルクリニック通いはやめた。
最初に処方されたサインバルタを全部飲み切ることもないままだった。

それから、ポンプフューリーを履いている人を街で見かけると
泣きながら頑張って出勤していた新卒の頃の私を思い出す。

メンタルクリニックに縋りたくなるほど、人生で一番我慢をしていた時だったんじゃないかなと思う。

今ではそんなストレスもなく働ける職場に転職できて本当によかった。

今の環境に不満を持ちそうになったら、このことを思い出すようにする。


ちなみに、

ポンプフューリーのレギュラーカラー(ブラック×ホワイト、グレー、ベージュ)は、定価2万円くらいするけど、

正月のセール期間とモデルチェンジの時だけは一気に安くなる傾向にあるから、
間違いなく正月に買った方がいい。という豆知識を披露したところで、

それではさようなら。

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